俺の彼女はどうやら、頭の中が根っからの教師らしい。
付き合い出して2週間が経つが、平日は夜遅くまでバレー部の練習。週末はボランティア部の手伝いで河川敷の清掃など、
人生初の彼氏が出来たと言うのに、全く浮かれた様子もない。
そうなると、どっぷり惚れてる俺としてはかなり複雑だ。
久しぶりに総二郎の誘いに乗りバーで呑んでいると、
「そう言えば、あの先生とはどうなった?」
と、聞いてくる。
隠してもしょうがない。
「付き合ってる。」
そう答えると、持ってたグラスを乱暴に置いたあと、
「マジかよっ。」
と、俺の肩を思いっきり叩きやがる。
「思ったより展開が早かったな。
いつ?なんて言われたんだよ。」
「あ?」
「だから、付き合って欲しいってストレートに言われたのか?」
楽しそうにそう聞く総二郎に、
「俺から言った。」
と、即答してやると、
マジで目を丸くしながら、
「……、司、おまえにもそんな心があったのかよ。」
と、涙ぐむ小芝居までしやがる。
そこからは、かなり根掘り葉掘り聞かれて、
邸に連れて行った話や、花火大会で巡回した話し、
そして、あいつのマンションまで押しかけて告白した話しも言わされた。
「司にもこういう日が来るとはなぁ。」
「なんだよ、それ。」
「真剣に恋愛するおまえなんて想像できねーから。」
総二郎がそういうのも無理はない。
今まで恋愛話しなんて一切したこともねーし、合コンみたいな場に誘われても拒否してきた。
正直言うと、高校生の荒れてた頃、半年ほど留学をしていた時期、よく行くクラブで何人もの女たちと出会った。
顔もほとんど覚えていない相手とキスをしたり、際どい服装の相手とボディータッチをしたり、初めて誰かと身体を合わせたのもその頃だ。
でも、誰一人覚えていないし、感情が高鳴った記憶さえない。
ただ、あの年頃特有の性への好奇心と欲求だけを満たしたかっただけで、それ以下でもそれ以上でもない。
でも、それを経験したからこそ、今どれだけ牧野に惚れているか、自分で痛いほど感じている。
暇さえあれば頭の中があいつで埋まっていく。
「付き合い始めのラブラブな時に、飲みになんか誘って悪かったな。」
「いや、…連日放置されてるから気にすんな。」
「あ?マジかよ」
「ああ。
同業者だから教師っつー仕事が意外に忙しいのも分かってるし、だからこそ、むやみに攻めきれねぇっつーか。」
思わず愚痴る俺に、総二郎は呆れたように
「優しい顔してんじゃねーよ。」
と言い、飲みかけのグラスを一気に空ける。
そして、
「そういう所が気に入ったんだろ、あの先生の。」
と笑いながら、俺に軽く手をあげてバーを出て行った。
………
マンションに戻り時計を見ると22時少し過ぎ。
仕事も終わり、そろそろ部屋で一息入れている頃だろうと思い、牧野に電話する。
「もしもし。」
「俺だけど、何してた?」
「テレビ見ながら、ベッドでゴロゴロしてた。」
「…俺もそこに行きてぇ。」
酔った勢いでそう言う俺に、案の定牧野が、
「道明寺先生、酔ってます?」
と、聞いてくる。
「あー、少しな。」
そう答えると、電話の向こうでクスクス笑う牧野の声がくすぐったくて、酔った事を口実に俺は少し攻める。
「なぁ、牧野。2人でどこか行こうぜ。」
「え?」
「付き合ってるのに、デートらしい事全然してねーじゃん俺たち。」
すると、沈黙の後、また教師牧野が顔を出す。
「美術館にでも行きます?
今、キースヘリング展がやってるみたいですけど。
美術の先生が、凄く良かったって…」
「やだ。」
「なんでですかー。」
「そういうんじゃねーの、俺がしたいのは。」
「う゛ー」
「俺は教師仲間じゃなくて、おまえの彼氏だからな。
俺といる時は、頭から教師っつー事を忘れろ。」
すると、
「分かってます!
デートなんてした事ないの知ってるくせに…」
と、少し拗ねた後、
「公園とか散歩?それとも、一緒に買い物?
食事でもいいし、部屋でゆっくり過ごすっていうのも…
道明寺先生にお任せします、何がいいですか?」
と、俺に選択を委ねる牧野。
だから、俺は即答してやる。
「今言ったこと、全部しようぜ。」
「へ?」
「公園を散歩して、買い物して、腹が減ったら食事をする。
そして、疲れたら部屋に帰って2人でゆっくりしようぜ。
決まりな!今度の日曜、空けておけよ。」
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