「おい」
声をかけると、女刑事が振り返る。
一瞬だけ、驚いた顔。
「……まだいたんですか?」
「帰るつもりだったけどな」
ポケットに手を突っ込んだまま、
「気になって帰れねぇから、俺も行く」
と、言うと、
少しだけ間があった。
女は、俺の顔をじっと見たあと、視線を外す。
考えてる顔だ。
きっと、さっきのことを思い出しているのだろう。夜の街では警察よりも金の威力のほうがでかい。聞き込みするには、この男は使えるかも…と。
そして、すぐに結論は出たようで、
「一緒に行きます?」
と、でかい目で俺を見上げて言った。
「おう。」
それから、六本木の通りを回った。
バー、ラウンジ、雑居ビルの奥にある店。
一軒一軒、淡々と扉を叩く。
この女刑事は愛想よく笑うわけでもない。
かといって威圧するでもない。
ただただ、丁寧に相手の話を聞くというその姿勢は正直、好感が持てた。
だが、収穫はゼロ。
「……さすがに簡単には出てこないか」
一時間ほど経った頃、女刑事が小さく呟いた。
時間は、日付を跨いでいる。
この街の熱も、少しずつ冷め始める時間帯だ。
コンビニの前で、足が止まった。
「今日はここまでにしましょう。」
女刑事が言う。
そして、
「ご協力ありがとうございました。」
と、敬礼さながらの綺麗なお辞儀をしたあと、
「あっ、ご自分で帰れます?」
と、聞く。
「ああ。迎えを呼ぶ。」
「わかりました。では、私はここで。」
そう言って立ち去るのかと思いきや、コンビニの中へと消えていく。
俺はそれを見送りながら、スマホを取り出し運転手に連絡を入れる。
「……位置情報を送った。迎え、頼む」
短くそれだけ伝えて、通話を切った。
そして数分。
特にやることもなく、コンビニの前に立ちガラス越しに中を見ると…、
店の飲食スペースに、一人で座る女刑事。
テーブルの上には、カップラーメンと、野菜ジュース。
「……マジかよ。」
思わず、声が漏れた。
深夜0時の六本木。
スーツ姿の女が、一人でカップラーメン。
無くはない光景だが、刑事だぞ。呆れて、ため息が出る。
迎えの車が来るまで、まだ時間がある。
どうせ暇だ。
俺はそのままコンビニに入り、奥の棚から適当にコーヒーを取った。
レジを済ませて、そのまま女刑事の背後まで行き、「こんな時間に、身体にわりぃーぞ」と、声をかけると、女刑事が顔を上げた。
一瞬、ぽかんとした顔。
それから、
「えっ、まだいたの?」
と、敬語を使うことさえ忘れて驚いている。
「迎え待ち」
そう言って、刑事の座る場所から1つ空けた席に俺も座る。
「夜ごはんか?」
「んー、厳密に言うと、昼ご飯かと。」
「あ?」
「今日は朝8時に食べてからほとんど何も口にしてないので。」
「腹すかねーのかよっ。」
「お腹がすくタイミングと、食べられるタイミングが合わない。」
交番勤務とは違って刑事の仕事に決まった昼休憩などないのだろうか。
「空きっ腹なのに、そんなもんじゃ身体にわりぃーだろ。」
と、言ってカップラーメンを指差すと、
「あったかいご飯とお味噌汁が食べたいなぁ」
と独り言のように呟きながら、ガラス越しに窓の外を見る。
俺もそれに釣られるように外を見ると、ちょうど黒塗りの車が店の前に停まるところだった。
「迎えが来た。」
「あっ。お疲れ様でした。」
「…おう。」
短く挨拶を交わしたあと、店を出る。
そして、車に乗り込んだあと、もう一度店の中に目をやると、女刑事はもう携帯に視線をうつしながら野菜ジュースを飲んでいる。
「邸に戻ってもよろしいですか?」
運転手の声に、
「ああ、頼む。」
といったあと、俺はポケットから携帯を取り出した。
そして、無意識に地図アプリを取り出す。
検索欄にこう打ち込んだ。
「深夜 ご飯と味噌汁が食べられる店」
…………
それから数日後、20時を回った頃にあきらから連絡が来た。
「偽の道明寺司が現れた。」
事件以降、あきらの手も借りて夜の街に網を張らせていた。
その網に、ようやく引っかかったらしい。
「店は?」
「六本木だ。場所はメールで送るから、急いだ方がいいぞ。」
「サンキュ。」
「警察には?」
「ああ、伝える。」
あきらとの電話を切ったあと、以前もらっていた桂木警部補という刑事の名刺を取り出し電話をかけた。
ワンコールで相手と繋がる。そして、事情を説明すると、すぐに安全課の刑事を店に向かわせると言った。
ようやく動き出したようだ。
俺の名を語るヤローの顔でも拝みに行くとするか。
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