My teacher 11

My teacher

次の日、俺は◯◯アリーナに来ていた。
星稜高校のあいつらのバレーの大会がある。

大きな体育館にバレーのコートが4つ作られ、トーナメント方式で行われている。
あいつらは、今日の第3試合で地元の強豪三和高校と対決する。

少し離れた体育館では女子の試合も行われているせいか、客席の中には試合を終えた女子チームの姿も目立つ。

俺は、なるべく目立たないように後ろの方の客席に着いたが、どうやらすぐにバレたようで、後ろを振り向き携帯を向けてくる生徒たち。

仕方なく、俺は席を立ち、1番前の席まで移動する。
これなら、どんなに写真を撮っても俺の後頭部だけのはず。

ガキの頃からババァが徹底的に取材規制をしてきたお陰で、俺の写真は今までほとんど流出してこなかった。
だから、俺と道明寺財閥の関係は知られていない。

それに、教師になってからは人の多い所は避けてきた。
行けば、目立つ事くらい自覚している。
同僚の話によれば、女子生徒の間では、
「司ファン倶楽部」という物も存在しているらしい。

そんな奴らに、休日の私服姿という格好の材料を与えてしまう事に、1番前の席に座りながらため息が漏れる。

そんな俺の視界に、星稜高校という名前が入った赤のユニフォームを来たあいつらが現れた。
そして、ベンチに座った彼らの後から、牧野が来た。

今日は少しオーバーサイズの黒のトレーナーにいつものショートパンツ。
老けた顔の副キャプテン中村の隣に立てば、兄と妹と言ってもおかしくないほどの幼さで教師には見えねぇ。
そんな牧野を目で追っていた俺は、眉間に皺を寄せた。

右足をひきづるように歩き、時々痛そうに顔をしかめる牧野。
それでも、試合が始まると、もう1人の顧問と一緒に声を出し何かをメモしながら立ち上がっている。

試合は接戦が続いていた。
両校とも決勝戦に行けるだけの力はあるという前評判通り、かなり互角の戦いで、観客席も盛り上がっている。

そんな中、俺の視線はずっと…牧野に。
こんな風に、1人の女が気になって仕方がないなんて、今まで経験した事がなかった。

牧野と知り合って3ヶ月。
今思えば、一目惚れだったのかもしれない。

交番に駆け込んできて、生徒を殴り怒鳴る女教師。
その横暴さとは逆に、優しい眼差しと言葉で送り帰すギャップに、なぜか惹かれた。

女らしさなんて全く出してこないくせに、小さな手やピンク色の唇、サラサラの髪、その一つ一つが俺を刺激する。

そんな事をぼーっと考えていると、どうやら試合は決着がついたようだ。
3−2で星稜高校の勝ち。

ベンチから引き上げていくあいつらを見ながら、俺も急いで席をたった。

客席からコート側まで歩いていくと、今試合を終えたバレー部員たちがタオルで汗を拭いながら廊下へ出てきた。

「おう。初戦おめでとう。」

そう声をかけると、
「道明寺先生っ、来てくれたんですね!
ありがとうございまーす。」
と、試合を終えたばかりなのに、ばか騒々しい。

そんな奴らに俺は聞く。
「牧野先生は?」

「あー、きっと次の対戦相手がどこの学校か調べに行ってると思いますけど。」
と、キャプテンが答える。

「あいつ、足どうかしたのか?」

「捻挫したんです。」

「捻挫?」

「今日の朝、体育館の階段を踏み外してグキッといっちゃいまして。
牧野ちゃん、試合の日は落ち着きがないから…ギャハハ…。」

どっと笑う奴らに、俺は軽く蹴りを入れながら、
「次の試合も頑張れよ。」
と、言うと牧野を探しに体育館へと戻った。

そのあと、牧野を探してもなかなか見つからない。
客席の上からコート内を見たり、体育館の外に出て少し歩いてみたり、探したが結局見つからず話もできないまま、本日2試合目の星稜高校の試合の時間が近づいて来た。

牧野を探せないまま客席に戻ろうとした俺の耳に、
「大丈夫ですっ。」
と、聞き慣れた声が響いた。

咄嗟にその声の方へ近づくと、牧野の腕を取り心配そうに付き添う男の姿。
確か、さっき戦っていた三和高校の顧問だった奴だ。

「牧野先生、無理しないで俺に体重預けてください。」

「いえ、大丈夫です。一人で歩けるんで。」

「でもっ、」

明らかに牧野が困っている表情なのを見て、俺は言った。

「牧野先生。」

「っ!道明寺先生。どうしてここに?」

「星稜バレー部のあいつらに、応援に来いって呼び出された。」
そう言ってやると、

「ったく、あの子達は!」
と、予想通りの反応で顔が緩む。

そこに、噂をすれば…と生徒たちが通りかかり、
「牧野先生、大丈夫ですか?もう試合始まるから、運びますよー。」
と、牧野の身体を両脇から持ち上げ、荷物を運ぶかのように、あっという間にベンチに入れる。

ちょっと!下ろしなさいっ!バカっ!
そんな悪態はコートの声援でかき消されていく。

残された三和の顧問に軽く睨みを効かせた後、俺は再び観客席に上がった。

さっきの接戦とは違い、ここは力の差が歴然で、あっという間に勝負がついた。
これで、来週の準決勝へ進むことが決まった。

喜ぶ生徒たちと、拍手を送る観客席。
今日の試合はこれですべて終了で、全面のコートの片付けや、各高校の帰り支度も始まった。

俺も、まだコート内にいる牧野に会いにいくため、階段を下りる。
すると、パイプ椅子に座っている牧野の前に、さっきの三和の顧問が近付いて行くのが見えた。

牧野に何か話しかけた後、牧野の腕を取ろうとするこいつ。
それに、牧野は手を振って拒否をしているのが分かる。

近付いてみると、また、
「自分で歩けるんで。」
と、牧野が拒む声。

生徒たちもどうしたら良いものか…と、渋い顔で顔を見合わせている。
そんな奴らの背後から俺は言った。

「牧野、帰るぞ。」

「…え?」
その場にいる奴らが一斉に俺の方を振り向く。

当の牧野は困った顔で俺を見つめ返すだけ。
そんなこいつを見ていると、なぜだか無性に独占欲が湧き起こる。

「三和の先生と行くか?それとも生徒に担がれて帰るか?」

周囲の奴らがじっと牧野を見る。
何も答えない牧野に、手を差し伸べて、もう一度言う。

「ほら、俺と行くぞ。」

すると、俺を見つめた後、ゆっくり伸ばされた手。
それを俺は一気に握り、牧野の身体を横抱きに抱き上げた。

「えっ?!やっ、道明寺先生っ!」

バタバタ暴れ出す女を抱きながら、俺は後ろに向かって叫んだ。

「後片付けは頼んだぞ、星稜バレー部!」

「う、うぃーっす!!」

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