My teacher 12

My teacher

突然、身体が宙に浮き横抱きにされた。
いつもの見慣れた視界よりも高くなった所から周囲を見ると、驚きとニヤニヤ顔であたしを見るバレー部員たちと目が合う。

「道明寺先生っ、下ろしてください!」
恥ずかしさで、あたしの小さな抗議も、

「お疲れ様でしたぁー!」
と言う彼らの大声でかき消され、あたしの身体は体育館の玄関へと運ばれる。

「道明寺先生、俺、荷物運ぶの手伝います。」

「わりぃ、頼む。」

キャプテンの前田がいつも以上にキビキビと動き、駐車場まで付いてくる。
ようやく、外に出て周囲に誰も人がいないのを確認したあたしは、大声で抗議する。

「道明寺先生っ!もぉー、下ろしてくださいっ。」

「うるせぇ。」

「だって…、」

更に抗議しようとした時、黒い車の側で道明寺先生が立ち止まった。
そして、あたしの身体を地面にドサリと下ろした。

その反動で、あたしの右足首に激痛が走る。
どうやら、かなり捻挫は酷いらしい。
痛みで顔をしかめるあたしに、道明寺先生が言った。

「ほらな、痛ぇーだろバカ。大人しくしてろ。」

言葉は乱暴なのに、……どうしようもなく優しい。
もう一度抱え上げられた身体は、側にあった黒い車の助手席に、ゆっくりと下される。

キャプテンから荷物を受け取った道明寺先生は、
「後のことは任せろ。」
そう言って運転席に乗り込んだ。

…………

車の車種なんて全く詳しくない私でも、なんとなく高級車なんだろうな…と分かるほどの車内。
車が動き出してから5分ほどした所で、一旦車を止めた道明寺先生は、どこかに電話をかけ始めた。

「もしもし、俺だけど。
姉貴、今、邸にいる?ちょっと足首を捻挫したから診てもらいてーんだけど、ドクターに連絡して欲しい。
……15分で着く。オッケー、頼む。」

そう言って電話を切った道明寺先生は車を発進させながらあたしに言った。

「今から俺の実家に行く。」

「…へ?ご実家?」

「この時間じゃ、どこの病院もやってないだろ。」

あたしは少し考えた後、聞く。
「もしかして、お姉さんはお医者さん?」

「いや。」

「じゃあ、ご実家が病院とか?」

「いや。…まぁ、行けば分かる。」
少し笑いながらそう答える道明寺先生。

あまり笑顔を見せない道明寺先生だから、こういう表情はかなりレア。
目深に被ったキャップとグレーのパーカーが似合いすぎていて、至近距離で直視できず、あたしは窓の外に視線を逸らした。

すると、道明寺先生が言った。
「三和の顧問とは親しいのか?」

「三和…?あー、橘先生。
バレーの大会でいつも一緒になるから。」

正直言うと、あたしは橘先生が苦手だ。
それほど親しい訳でもないのに、いつも距離が近くて困惑する。
さっきも、強引に肩を掴まれゾワっとした。道明寺先生が来てくれて助かった。

そう考えながら、ふと、疑問に気付く。
道明寺先生とだって、そんなに親しい仲ではない。
いや、むしろ知り合ったのは橘先生よりも後だ。

けれど、「帰るぞ。」そう手を差し伸べられた時、迷わずその手を握った。
抱き抱えられるのは想定外だったけど。。

イケメンだからか?
いやいや、あたしはそんなに面食いなんかじゃない。
なら、どうして?

そう思いながら隣を見ると、運転席の道明寺先生と目が合った。

「橘とかって言うそいつに、金輪際近づくんじゃねーぞ。」

相変わらず言い方は乱暴だけど、
あたしはこの人のそう言う所が、

嫌いじゃない。

………

どこかの小さな病院らしきものを想像していたけれど、車はなぜか大きな門をくぐり森林公園のような敷地を過ぎ、噴水やバラ園を通り越した後、お城のような建物の前で止まった。

「あのー、ここは?」
あたしの問いに答えずに、道明寺先生が車を降りる。

そして、助手席のドアを開けた後、
「後で色々説明する。その前に大人しくドクターの診察を受けろ。」
そう言ってまたあたしの身体を持ち上げた。

ズキズキと足首が熱を持っている。
歩くと激痛が走るのは分かっているから、ここは大人しく運んでもらうしかない。

お城のような建物の扉が開くと、おとぎ話にでも出てくるような素敵なエプロン姿の女性が立っていた。

「坊っちゃん、おかえりなさいまし。」

「タマ、ドクターは?」

「はい、お待ちですが…、怪我されたのは坊っちゃんではないのですね?」

「ああ。俺の部屋に来てもらってくれ。」

「分かりました。」

そう言葉を交わした後、大きな階段を登り二階へ上がる。
そして、絨毯が敷き詰められた長い廊下を歩いていく。

坊っちゃん?俺の部屋?
実家に行くとは言っていたけれど、まさかここが道明寺先生のご実家なのか?

疑問だらけで頭が付いていかないあたしは、どうやら、無言のまま歩いていく道明寺先生の顔をじっと見つめていたらしい。

そんなあたしの心の内を読み取った道明寺先生は、困ったように笑った後、

「診察が終わったら、おまえの疑問になんでも答えてやる。
だから牧野、その眉間の皺どうにかしろ。」
そう言って、あたしのおでこに息をフッッと吹きかけた。

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コメント

  1. はな より:

    大人の司坊っちゃん。
    ステキです!

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