My teacher 9

My teacher

食事が進みお店が混んでくると、あたしはある事が気になり始めた。

それは、「牧野先生」という呼び方。

生徒たちと行動する時は、必ず「先生」呼びをさせる事は鉄則だけど、それ以外の時はなるべく「先生」という呼び方は避けている。

「あのー、道明寺先生。」
あたしが呼ぶと、隣の至近距離で道明寺先生と目が合う。

「他のお客さんも増えて来たので、『先生』呼びやめてもいいですか?」

「あー、だな。」
すぐに理解してくれる道明寺先生に対して、不思議そうに見つめてくる西門さん。
そんな彼に道明寺先生が説明してくれる。

「プライベートな時に先生呼びで呼ぶなって事。いつどこに生徒や保護者がいるかわかんねぇからな。」

「そういう事かよ。じゃあ、牧野先生の事は……つくしちゃんでいいかな?」

その西門さんの言葉に、あたしだけじゃなく道明寺先生まで吹き出している。

「総二郎、おまえぶっ倒すぞ。」

「クックックッ…なんだよ、それじゃ、なんて呼ぶ?」

「苗字でお願いします。」
あたしがそう言うと、道明寺先生はあたしを見つめた後、

「牧野…だな。」
と言った。

「えっ、『さん』は?」

「いらねーだろ。歳下だし。」

「そんなの関係ある?普通、『さん』付けで呼ぶでしょ。」
あたしが抗議しても、そっぽを向いてワインを飲む2人。

「よし、じゃあ決まりだな。
今から俺たちは牧野先生を牧野と呼ぶ。
牧野先生は俺たちのことを西門さん、道明寺さんって呼ぶように。」
にっこり笑いながらそう言う西門さんに、あたしは口を尖らせて、「ずるい2人とも」と言うと、

「怒んな、牧野。」
と、道明寺さんが言った。

ああ、完全にどつぼにはまる。
鳴らさないように気をつけているのに、心臓が痛いくらい鳴る。

………

道明寺さんが急に席を立った。
「わりぃ、電話だ。」
そう言ってお店の外へ行く。

歩いて行く彼の後ろ姿を追っていると、あたしと同じように視線を送っている女性たちがいる。

今日の道明寺さんはオーバーサイズのたっぷりとしたトレーナーに、下はデニム。
全身真っ黒だけど、それがかえって彼を大きく見せる。

どこにいても目立つ存在。

道明寺さんが視界から消えると、正面に座る西門さんと目があった。

「牧野。」

「なんですか?」

「彼氏は?」

「はぁ?いませんけど。」

「だろーな。」

「ちょっと!失礼ですからっ!」

あたしと西門さんはどうやら、気が合うようだ。
2人で話すと、なんだか漫才のようなテンションになるからおかしい。

「司は?どう?」

「どうって…?」

「付き合ってみたら?」

「はぁ??」
素っ頓狂な声が出たのは間違いない。

「何言ってんですか。道明寺さんがあたしと?
あり得ない。どうしたらそんなキテレツな発想が?」

すると、西門さんは独り言のように
「司、キテレツとまで言われてるぞ。」
と言う。

「え?」

「いや、何でもねぇ。
そっか、そっか。あり得ねぇか。
司って女に全然優しくねーしな。話し方も怖いだろーし。」

そう言ってお店の外で電話をしている道明寺さんを、じっと見つめる西門さん。
そんな西門さんに、あたしは思った事をそのまま言った。

「道明寺さんは優しいですよ。」

「ん?」

「あー、西門さんの分かりやすい優しさとは違いますけど…。」

なんだか、言ってるこっちが恥ずかしくなってきて、手で顔をあおぐ。

すると、西門さんが急に真面目な顔であたしに言った。

「牧野、パーソナルスペースって知ってるか?」

「パーソナルスペース?って、あのー、他人に近付かれると不快に感じる空間のことでしたっけ?」

「そうそう、それ。
司ってさ、そのパーソナルスペースがめちゃくちゃ広いの。
特に女に対して。
まぁ、あのルックスだから近付いてくる奴らも多い訳で、パーソナルスペースの侵害はしょっちゅうなんだけどよ、
自分からそのスペースを破って近付いて行くのは、ガキの頃からの付き合いだけど、俺はみた事がない。」

「…へぇ、そうなんですか。」

「でもよ、牧野に対しては違う。」

「へ?」

「茶会に牧野を連れてきたとき、あれだけ混んでた中で、ピッタリくっついてただろ?」

「ピ、ピッタリって!」

「それに、今日も。
来た瞬間、迷わず牧野の隣に座った。
この距離は完全に司のパーソナルスペース内だからな。」

そう言って西門さんは、あたしと道明寺さんが座っていた椅子を指差してニヤッと笑う。

と、その時、電話を終えた道明寺さんが、お店に戻ってきた。
「悪りぃ、長くなった。」
そう言って近付いてきた道明寺さんは、あたしと西門さんがじっと見つめる中、

迷わずに、あたしの隣に座った。

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コメント

  1. 瑛里 より:

    こんにちは!
    新連載のお話も楽しく拝見しております。
    司が財閥継がないで教師になってた話は初めてで、新鮮です。
    総二郎がナイスアシストしてて、つくしもより司を意識することでしょう。
    司とつくし、お互いが意識し始めてだんだん距離が縮まっていくところ、続きも楽しみにしております!

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