My teacher 6

My teacher

ひと騒動を終え、星稜高校の奴らが帰って行く時、教師と生徒の会話が聞こえてきた。

「腹減ったー、なんか食って帰ろうぜ。」

「何言ってんのよ、さっさと帰りなさい!
家でお母さんが夜ご飯用意してるでしょ。」

「河野を見つけるのに走り回って、もう俺たち死にそう。
ハンバーガー一個だけ食わせて、つくしちゃん。」

「先生に向かって、つくしちゃんって呼ぶなっ!」

「ギャハハハハハーーー。」

夜のアーケード街に響く彼らの笑い声。
俺はそれを背に、北川さなえをタクシーに乗せたあと、自分の車が置いてある場所へと向かった。

もうすぐ駐車場…という所で、俺の腹がぐぅーっと鳴る。
確かにもう9時近い。
腹が減るのは当たり前だ。
このままマンションに戻って、食う気にもならない。

そう思った俺は、今来た道を引き返し、アーケード街の先にあるファストフードの店へと急いだ。
店の前に着き中を覗くと、レジに並ぶ星稜高校の軍団が見える。

大柄な彼らと、頭一つ分小せぇ教師。
俺が店に入ると、「早く注文しなさーい。」と、生徒に声をかける教師の声が聞こえた。

そんな奴らに後ろから近付くと、俺は言った。

「何でも好きなもん注文しろ。
今日は俺の奢りだ。」
その声に一斉に振り返る。

「道明寺…先生?」

「今日はおまえらに世話になったから、そのお礼だ。
食いたいもん、死ぬほど食っていいぞ。」

「マジっすかっ!やべー!」

一気に大騒ぎする奴らに、
「声が大きいっ、他のお客さんに迷惑かかるから、静かにするっ!」
と、焦る女教師。

次から次へと注文する奴らは、さすが体育会系なだけあって食べる量も半端ない。
8人の生徒でバーガー25個、会計は全部で25000円近くになった。

「すみませんっ、あたし半分払います!」
慌てて言う教師に、

「これくらい、気にすんな。」
と、言った後、
「牧野先生は何に食う?」
と、聞く。

「あっ、あたしは自分で頼むので。」

「めんどくせぇから、一緒に頼むぞ。
何がいい?
俺、あんまりこういうとこ来ねぇから。1番うまそうなのって、これか?」

レジの前の写真を指差しながら言う俺に、教師は少し笑った後、
「1番美味しいのはダントツこれです。」
と、照り焼きなんとか…というバーガーを指差す。

「オーケー。
じゃあ、このセットを2つ追加で。」

…………

店の奥のテーブルを4つ繋げワイワイと夕食が始まった。
俺の正面に座る教師が、
「家にちゃんと連絡入れた?
もし、帰ってから怒られたら、すぐに連絡してね。先生から親御さんにきちんと説明するから。」
と話すも、バーガーにかぶりつく奴らはほとんど聞いてねぇ。

そんな奴らを見ながら優しく笑った後、俺に向かって言った。
「道明寺先生、頂きます。」

「どーぞ。」

「バンバーガー、久しぶりだなぁ。
学生の頃はよく食べてたんですけど、働き出すとなかなか来る機会が無くて。」

そんな教師に俺は言う。
「俺は10年ぶりくらいに食う。」

「…はぁ?本当?
今時そんな人いる?」

驚いて、思わずタメ口になる教師に、
「敬語を使え、敬語を。」
と、笑ってからかってやる。

すると、女教師も
「道明寺先生も、あたしに敬語使わない時ありますよね?」
と、反論。

「俺の方が年上だろ。」

「なんで分かるんですか?」

「さっき財布の中の免許証が見えた。
俺より一つ下だろ。」

「えっ、覗き見たの?信じらんない。」

「敬語。」

「信じらんない…です。」

俺を睨みながら、口を尖らして言うその仕草に、俺の口元も緩む。

と、その時、教師の携帯が鳴り出した。

「教頭先生からだ。ちょっと外で話してきます。」
そう言って急いで店の外に出て行く。

携帯を耳に当て、話している姿を店の中からぼーっと見ていると、俺の隣に座る生徒が声をかけてきた。

「道明寺先生って、マジでイケメンですよね。」

「あ?」

「モテますよね?彼女はいるんですか?」

すぐにそっち方面の話になるのは、さすが男子校の生徒だ。

「いねーよ。」

「マジっすか?!
そんなにイケメンなのに、なぜー?」
大声で叫ぶと、他の生徒もドッと笑う。

「うるせぇぞ、おまえら。
また怒られるぞ。」
そう言って、店の外の女教師をアゴでしゃくる。

「道明寺先生、つくしちゃんなんてどうですか?」

「あ?」

「今まで一度も彼氏ができた事無いんです。
俺らはつくしちゃんの将来が心配で心配で……。」

どうやら『生まれてから一度も彼氏がいない』ということは、こいつらにとって最強のイジりネタらしい。

もう一度、店の外に視線を移すと、いつものように半袖とハーフパンツにスニーカー。
確かに色気なんてねぇ。
夜風が肌寒いのか、電話をしながら腕をこすっている。

時計を見ると21時を回った所。
生徒もそれに気付いたのか、
「俺たち、そろそろ帰ります。」と、立ち上がる。

「おう、気を付けて帰れよ。」

「はーい。
ご馳走様でしたーー。」

店から出て行く生徒と同時に女教師が戻ってくる。

「すみません。遅くなって。
道明寺先生もお先に帰ってください。」
俺の前に置かれた食べ終わった残骸を見てそう言う教師は、まだほとんど口を付けていない。

「食べ終わるまで待ってるから、食べろよ。」

「あ、いや、大丈夫ですよ。」

「いいから食え。
この時間に、女一人で置いてけねーだろ。」

「……。」
言われ慣れていないのか、戸惑ったような表情をする教師。

それを見て、俺も自分の口から出た言葉に戸惑う。
女が一人でどこにいようと気にもしないはずの俺が、
なんの迷いもなく、『置いて行けねぇ』なんて口にした。

急いでバーガーを食べるこいつを、正面から見つめる。
大きな二重の目。
化粧っけの無い白い肌。
細くて小せぇ手。

じっと見つめた後、素朴な疑問が襲ってくる。
そして、俺はそれをそのまま口にする。

「なんで、今まで彼氏が出来ねぇんだろーな。」
突然そう聞く俺に、もうこの質問は聞き慣れているのか、

「大きなお世話です。」
と、睨んだあと、

「っつーか、なんで道明寺先生がそんな事知ってるんですかっ!」
と、騒ぎ出す。

「あいつらが言ってた。」

「あいつらって、バレー部の?
マジで殺す。絶対、明日、皆殺しにしてやる。」

そう言ってジュースをストローで飲むこいつの口元に視線が行く。
リップでも付けているのか、ピンク色のその唇。

ボーイッシュな雰囲気の中、そこだけが女っぽくて、妙な気分に襲われる。
少しだけ下半身に熱が籠るのを感じながら、こういう気分になるのは久しぶりだと自嘲する。

「ご馳走様でした。
行きますか?」

「おう。」

我に帰って立ち上がると、2人で店を出た。
さっきまでとは違いかなり肌寒い。

「あたし、こっちなので。
お疲れ様でした。」

ペコリと頭を下げ俺と反対方向へ歩き出そうとするこいつの腕を、俺は咄嗟に掴み言っていた。

「これ、着て行け。」

「え?」

予備に持っていたカーディガンを差し出す俺に、驚くこいつ。

「その格好じゃ、さみーだろ。」

それでも、受け取るのを躊躇しているこいつの手に、カーディガンを握らせると、

「じゃあな。」
と言って、俺は歩き出した。

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いつもコメント頂きありがとうございます。基本、コメントにはお返事しておりませんが、いつも嬉しく読ませて頂いています。道明寺財閥の後を継いでいない司、初めての試みですが、温かいコメントを頂戴してホッとしています。どうぞ引き続きお付き合いお願いいたします。

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