電話を切った後、あたしはすぐに体育館へ戻り、バレー部の部員に声を張り上げた。
「みんなっ、河野はどうして今日休んでるの?誰か知ってる人いない?」
「……。」
「佐伯、あんたいつも一緒にいるでしょ?」
「いやぁ……。」
「中川は?何か知らない?」
「…んー、」
部員の反応を見てあたしは確信する。
「1、2年生、悪いけど片付けお願い。
3年生っ、全員集合!」
普段から彼らを見てきて分かる。
嘘は苦手なのだ。
だから、目線を逸らし曖昧な返事しかしない今の状況は、完全に何かを知っているはず。
「みんなお願い。協力して欲しいの。
河野が今どこにいるか教えて。とても大事なことだから。」
白百合学園の女子生徒とは一緒にいないかもしれない。
それならそれで安心する。
ただ、もし一緒なら親や先生を心配させるような行動は取るなと、今度こそきちんと指導しなくちゃならない。
あたしが3年生の顔をじっと見つめると、キャプテンの前田が口を開いた。
「今日、放課後、校門のところに彼女が来てたんです。」
「彼女って、もしかして白百合学園の?」
「そうです。白百合学園の制服で立ってました。」
「それで?」
「彼女が元気なくて、河野、今日は部活休むって言って2人で帰って行きました。」
やっぱり、2人は一緒にいるという事だ。
「分かった。河野の携帯番号教えて。
他のみんなは、片付け終わったらすぐに帰宅するように。」
キャプテンの前田から番号を聞き出した後、何度もかけてみるけれど繋がらない。
あたしは急いで職員室に戻ると、帰り支度をして学校を出た。
とにかく、彼らが行きそうな繁華街まで行ってみよう。
映画館やカラオケ店にいるかもしれない。
そう思いながら校門を飛び出した所で、男子生徒の軍団に捕まった。
「牧野先生っ!」
「おっつっ、あんた達何してんの?」
「河野のこと、探しに行くんですか?
俺たちも行きますっ。」
「えっ!」
「たぶん、あいつ、アーケード街のどこかにいると思うし、牧野先生1人じゃ無理ですよ。」
確かに、仲間同士なら河野がいそうな場所も分かるかもしれない。
でも、時計を見ると時刻は20時。
「ダメ、もうこんな時間だもん。あんたたちまで親御さんに怒られるわ。」
「平気です。っつーか、俺たちいつもこの時間からマックでハンバーガー食べてから帰ってますし。」
いつも口を酸っぱくして、真っ直ぐ帰宅するように言っていたあたしの苦労はなんだったんだと、軽く目眩がする。
渋い顔をするあたしを、バレー部の大柄な生徒達が囲み、「さぁ、河野を探しに行くぞー。」と笑いながら言った。
…………
北川さなえの携帯に何度もかけるが繋がらない。
職員室でため息を付いていると、俺の携帯がなった。
「もしもし。」
「あの、星稜高校の牧野です。」
「何か分かりましたか?」
「彼女、今日の放課後に星稜高校の校門に立っていたそうなんです。河野健太郎がそれを見つけて一緒に帰ったと、同じバレー部の生徒が言ってます。
河野に連絡しても繋がらなくて、今部員たちとアーケード街まで探しに来てます。
何か進展があれば、また連絡しますので。」
そう言って電話を切ろうとする女教師に俺は言った。
「俺も今からそっちに行く。
アーケード街のどの辺だ?」
「あー、えーっと、◯◯というカラオケ店がある場所わかります?その辺りにいます。」
「オーケー。すぐ行く。」
俺は鞄を持つと足早に学園を出た。
15分ほどで着いたアーケード街のカラオケ店の前には、女教師が1人で立っていた。
「道明寺先生っ。」
「どうも。」
「今、うちの生徒が河野がいそうな場所を手分けして探してくれてます。
2人に何もなければいいんですけど。
2人して携帯の電源切って、…またホテルなんて行ってたら、マジでぶっ飛ばすから。」
乱暴な言葉なのに、なぜかこいつが言うと生徒への愛情ある言葉に聞こえるから不思議だ。
「道明寺先生、北川さんに何かあったんですか?」
「ああ、この間のホテルの件が同級生にバレてハブられてるらしい。」
「えっ、そんな…」
「そっちの生徒は大丈夫か?」
「河野ですか?河野なんて学校中にバレてますけど、そのおかげで一気に株が上がってますよ。
ホテルに行くような彼女がいて、しかも白百合学園の生徒だって。」
さすが男子校。お嬢様学校のこっちとはノリが違う。
そんな事を話してるうちに、携帯の着信音が鳴った。
「もしもし、牧野です。
えっ、見つかった?どこ?
おおーっ、良くやった!カラオケの前にいるから、連れてきて。」
電話を切ると、俺に向かって嬉しそうに、
「漫画喫茶に2人揃っていたそうです。今、連れてきますから、学校と保護者の方に連絡してください。」
と言った後、アーケード街を漫画喫茶の方角へ走って行く。
それから10分後、同じ方向からガタイの良い男たちが7〜8人とその後ろから女教師に腕を引かれて北川さなえが現れた。
「道明寺先生、すみません。」
頭を下げる北川に、河野という男子生徒が、
「俺が連れ回してたんです。怒るなら俺を叱ってください。」
と、頭を下げる。
何事もなく無事に見つかったならそれでいい。
そもそも俺は、はじめから、声を荒げて叱るような熱血教師なんかじゃねーし。
黙ったままの俺に、何かを勘違いしたのか、
「まぁ、いつもいつも部活が忙しくて、ゆっくり2人で過ごす事が出来ないから、たまーにこんな風に遅い時間まで遊びたくなったのよね。運悪く2人とも携帯の充電がなくなっちゃったみたいで。
道明寺先生、2人とも反省してるんで、許してもらえますよね?」
と、女教師が口早に言う。
「まぁ、無事なら。
北川、母親が心配してるから家に帰ってたっぷり説教されろ。」
「河野もっ、次やったら命は無いからねっ!
恋愛するのはいいけど、盲目になっちゃダメ!」
そう言って反省する男子生徒の肩をバシッと叩く女教師に、周りにいた生徒たちが一気に騒ぎ出す。
「恋愛なんかした事ねぇ牧野先生が言っても説得力ゼロっす。」
「牧野先生も少しは女子力上げて恋でもした方が……」
「俺の兄貴に頼んで合コンのセッティングしてあげましょうか?」
そんな生徒に向かって
「うっさい!はい、解散!真っ直ぐ帰宅しなさーい。」
と、大声を張り上げる『牧野先生』を見て、また俺の口元が緩んだ。

にほんブログ村
ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎
コメント
初めまして。
ヒツジと申します。
新連載、ものすごく面白い!!!
感動を抑えきれず初コメント失礼します。
司が道明寺を継がないストーリーは正直う〜ん、と思いました。
司は道明寺財閥を担うからこそ、「道明寺司」としてのカリスマ性とリーダーシップが、女達を、マスコミを、世間を惹きつける。ファンとしては、それこそが彼であり、そこは譲れないと思い込んでいましたが。。。
教師というパンピー職(というと失礼ですけど)を選んだ道明寺司。
意外にも最高です!!!!!!
それは一重に、管理人様の文章力、ストーリー展開力、つかつくを生き生きと動かすキャラへの理解とテクニックが、「パンピー司」という不可能を可能にしてらっしゃる。
他作品も読ませて頂いてます。
天才です。
無料公開感謝しておりました。
尊いクリエイティブ、ありがとうございます。