チーム長の策略 10

チーム長の策略
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数日後。

会社に出勤するなり、

「えっ!!インフルエンザ?」

と、大きな声がフロアに響き渡たる。

一斉にみんなが声の方を見つめると、渋い顔で電話の相手と話をする木村さん。

そして、「チーム長に代わるね。」と言って静かに内戦電話に切り替えた。

数分後、電話を終えたチーム長が

「山田がインフルエンザで数日休む。」

と、あたし達に向けて言った。

普段なら、「あらー、可哀想に…」で済む話だろうが、今日は違う。

チームの誰もが、「マジでヤバいだろっ」という顔で見つめ合う。

それもそのはず。

今日は山田さんにとって大事なプレゼンの日だからなのだ。

再来年に着工予定の道明寺グループが手がける45階建てのビル。都内のど真ん中にあるそのビルの1階に、ミーティングや会議などもできる最大規模のカフェを併設することが決まった。

立地や広さから、そのカフェは多くの人が集まるスポットになるのは間違いない。だからこそ、インテリアやデザインはかなり重要だ。

海外を含めた多くのデザイナーを考慮した結果、カフェのデザインは今をときめく新進気鋭の女性デザイナーに白羽の矢がたった。

上層部が何度コンタクトをとっても『忙しい』という理由であって貰えなかったその女性デザイナー。

誰もが諦めかけていたところ、何度も展示会に足を運び、誠意をもって対応してきた山田さんの熱意が伝わり、直接2課に「会いたい」と連絡が来たのだ。

彼女に会うチャンスは今日の一度しかないかもしれない。

何とか、こちら側のコンセプトが的確に伝わるように…と綿密に資料を作成しチーム全体で取り組んできた案件。

それなのに、担当の山田さんが欠席するなんて…。

チーム全体に絶望感が漂う中、

「代わりに俺が言ってくる。」

と、道明寺チーム長が険しい顔で言った。

このピンチを乗り切れるのはチーム長しかいない。

それは誰もが分かっていることなので、全員が溜息をつきながら頷くと、

チームの最年長である杉山さんがぽつりと言った。

「牧野さんも同行してはどうですか?」

急に自分にふられ驚いて杉山さんを見ると、

「この案件は山田くんがメインで動いていたけど、補佐してたのは牧野さんだよね?

カフェの設計図もデザインの構想も頭にしっかり入っているはず。

山田くんが居ない今、1番詳しいのは牧野さんあなただよ。」

優しくそう諭すように話す杉山さん。

資料作りや雑用といった裏の仕事もきちんと見ていてくれたんだと胸がジーンと熱くなる。

でも、いつも事務仕事ばかりで、実際にプレゼンに出向くのは初めてのこと。こんな重要な案件で足を引っ張るようなことになっては……。

そう考えて躊躇していると、

「……牧野、行けるか?」

チーム長があたしを真っ直ぐ見つめて聞いてくる。

「…………。」

すぐに返事ができず同僚たちの顔を伺うと、みんなが優しい目で「大丈夫。」と言いながらコクコクと頷く。

それを見て、あたしは小さく息を吐き、勇気を出して言った。

「同行させてください。」

自由が丘の石畳が連なる路地裏に、突如現れた洋館。こんなところにこんな洋館が?と驚いてしまうが、オシャレな街によく溶け込んだその建物は、女性デザイナーのアトリエ兼ギャラリーだ。

今日のプレゼンはここで行われる。

『忙しい』というのは間違いではなく、海外を飛び回るほどの超売れっ子である彼女は明後日からまた個展のためイタリアに行くそうだ。

約束の時間の5分前。

ギャラリーの扉を開けると秘書と思わしき素敵な女性が出迎えてくれた。

数々の写真や絵、テキスタイルが展示されたギャラリーを抜け、奥の部屋に通される。

ここは、書斎のようだ。

部屋の奥にあるデスクに座る女性。雑誌などでしか見たことがなかった本物の彼女がそこに居た。

「初めまして。道明寺ホールディングスの道明寺司と申します。」

そう言って握手をした後名刺を渡すチーム長。

あたしも緊張しながら、

「牧野つくしです。」

と、同じく名刺を手渡す。

28歳の彼女は、年齢よりも少し上に見えるだろうか。同じ歳のチーム長と並んでも、年上に見える。

神経質そうで表情を一切崩さないところを見るとかなり手強そうだ。

「そちらにどうぞ。」

そう言ってソファに案内されて座ると、

開口一番こう切り出された。

「山田さんがタイミングよくインフルエンザだそうですね。」

その言い方に癖があり、どうやら仮病だとでもおもわれているようだが、

「本当に申し訳ありません。

山田からは全て資料は引き継いできていますので、私がご説明させていただきます。」

と、怯むことなく話を進めるチーム長。

あたしも今できることを精一杯やるしかない。

チーム長の流れに添いながら、持ってきたパソコンでカフェの設計図やレイアウト、集客人数のデータなどを示していく。

予定されていたプレゼンの時間はあっという間に過ぎていった。

その間、彼女からの質問はほとんどなく、完全に一方通行。

「お返事は後日秘書の方からお伝えします。」

そう言った彼女からの答えを聞かなくても、今回の案件はダメだったという事はあたしだけじゃなくチーム長も感じたはず。

「よろしくお願い致します。」

深く頭を下げて書斎を出ると、あたし達の背中に向けて、

「良ければギャラリーをご覧になって行ってください。

コーヒー用意させますので、ごゆっくり。」

と、彼女が言って書斎のドアが閉められた。

プライベートギャラリーに入れるのはもう最後かもしれない。ご好意に甘え、あたしたちはギャラリーをゆっくりと見て回ることにした。

大学時代は風景画を描いたり、風景写真を撮っていた彼女。それがきっかけで建物に興味を持ち、徐々にお店などのインテリアに携わるようになった。

ニューヨークにある日本人がオーナーのうどん屋を手がけた事を契機に、どんどん依頼が増え今の仕事に繋がっていったという。

その大学時代から撮りためた写真や、初めてショップインテリアに関わった時の設計図など、デザインを学ぶものにとってはお宝と言うべき資料が所狭しと並んだギャラリー。

全くデザインに関して無知なあたしでも、とても面白く見ていて飽きることがない。

ゆっくりと一つ一つ眺めていると、ふと背後に人の気配がして振り向いた。

チーム長か?と思ったが、違った。

そこには女性デザイナーが立っていて、あたしを見つめて言った。

「あなたもデザインの勉強を?」

「いえっ、あたしは全く。」

「熱心に見てくださっているから、同業者かと思ったわ。」

「とても興味深いです。あたしの中には存在しない感性がここにはあって、どれを見ても新鮮です。」

感じたことを正直に話すと、

「それはそれは、嬉しいわ。」

と、今日初めて少しだけ顔を緩めて彼女が言った。

あっ、……笑うととても素敵な人。

こんな風に柔らかい表情もするんだ。

思わず見とれてしまうと、彼女はあたしの隣に来て言った。

「ごめんなさいね。嫌な態度をとって。」

「……え?」

「昔から人と接するのが苦手で、初対面の人には尚更、疑心暗鬼になってしまって。」

そう話す彼女の態度に、さっきまでの冷たさはない。

「こういう仕事をしていると、いろんなセールスが来て甘い話を持ちかけたりしてくるのよ。昔は何度か騙されたりしてね。」

「はぁー、そうなんですね。」

「1番長く一緒にいた秘書にまで騙されて、ズタボロになったこともあったわ。それ以来、自分の直感しか信じないようにしてるの。」

「直感ですか?」

「そう。仕事をする上で私が1番大事にしてること。自分の直感に従って動くと、不思議と上手くいくのよ。散々騙されていた過去の自分に教えてあげたいわ。」

そう言って小さく笑う彼女に、あたしは思わず言っていた。

「……あたしもつい最近、人を信じて騙されたばかりなんです。」

「え?」

「ぷッ…実はあたし、結婚詐欺にあいまして。危うくお金まで取られるところだったんです。」

「はぁ?なによそれっ」

「まぁ、未遂で終わったんですけど。今の先生のお話、すごく納得出来ます。直感って大事ですよね。あたしも出会った時からずっと相手に対して変だなーと感じていたのに見て見ぬふりをしていて……。」

「…………。」

「なんかすみません、こんな話をして。」

「ううん、いーの。」

「でも、……騙された過去は、そんなに悪いもんじゃない…ですよ。」

「え?」

「人を信じられなくなるお気持ちは分かります。でも、その分、助けてくれた人の優しさや有難みが身に染みて、その人のために力になりたい……そんな風に思ったり。」

そう言うあたしの背後で、

「牧野?」

と呼ぶ声がした。

「チーム長っ」

「……どうして?」

あたしと彼女の顔を交互に見つめながら呟くチーム長。

あたしが説明しようとした時、

「そろそろ次の仕事に向かわなくちゃならないの。私はここで失礼するわ。」

と、腕時計を見ながら彼女が言い、書斎へと姿を消して行った。

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