ギャラリーを出て数百メートル歩いたところで、あたしは堪えきれずにチーム長に言った。
「チーム長、すみません!」
「あ?」
「あたし、自虐ネタを持ち出して余計な事言ってしまったかも……」
「自虐ネタ?」
「はい……もう、ほんとバカ……。」
女性デザイナーとの話の流れで、思わず結婚詐欺にあったことを言ってしまい、今頃になって絶望感に襲われる。
軽く涙目になるあたしに、
「どういうことだよ」
と、慌てたように聞き返すチーム長。
「実はさっき、」
女性デザイナーとの会話を話すと、
「ぷッ……2人で何話してるのかと思ったら、おまえが強烈な自虐ネタぶっ込んでたって訳か。」
と、可笑しそうに笑いだす。
「チーム長、怒らないんですか?」
「まぁー、怒ってもしょーがねーだろ。
おまえも感じた通り、今回の案件は山田が行かなかった時点でアウト確定。
部下の最後の詰めが甘いのは、チーム長としての俺の責任だからな。」
サラッとそう言ってのけるチーム長はやっぱり上司としてかっこいい。
「なんか、…………」
「なんだよ。」
「いいえ、別に。」
「気になるから言え。」
歩きながらあたしを見つめるチーム長の視線が痛くて、小声で言う。
「かっこいいです。」
すると、照れくさそうに視線を逸らす仕草に、こっちまで顔が熱くなる。
「上司として!上司としてかっこいいって意味ですからっ。」
「仕事中に愛の告白か?」
「あ、あ、あ、愛の告白って!」
「照れんな。」
「照れてませんしっ!」
あたしが一生懸命否定してるのに、チーム長は楽しそうに大股でスタスタと歩いていく。
その背中を追いかけながら走っていくと、横断歩道が赤信号になった。
再び並ぶあたしたち。
すると、あたしを見下ろしてチーム長が言った。
「次は上司としてじゃなく、男としてかっこいいって言わせるから。」
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それから1週間後。
病み上がりで出勤した山田さんがパソコンを見つめながら大声で叫んだ。
「えっ!!契約、取れたっー?!」
何事かと思いながらチーム内のみんなが一斉に見つめると、
ガタッと勢いよく椅子から立ち上がり、
「チーム長ーーー!」
と、道明寺チーム長へ駆け寄っていく。
「カフェビルの件、デザイナーからOK出ましたっ!」
「あ?マジかよ。」
「はいっ!今朝、メールが送られてきていて、来週日本に戻るので打ち合わせをしたいって。」
チームの誰もがダメだと思っていた案件。
それが逆転ホームランを打ったのだ。
「わぁ〜、すごーい!」
「やったじゃん、おめでとう!」
と、一気に盛り上がるフロア。
「チーム長のおかげですっ!いや、牧野さんもありがとう!もう、この案件がダメだったら、俺クビになるかもって思ってて……、うぅぅー」
急に涙ぐむ山田さんは、みんなに慰められ、からかわれ、爆笑される。
「俺、全員にご飯奢ります!」
「病み上がりなんだから大人しくしてなさいよ。また体調崩してチーム長に迷惑かけたら今度こそクビ確定よ。それに、お金ないお金ないってこの間言ってたじゃない。」
木村さんに叱られてシュンとなる山田さんは、それでもめげずに、
「牧野さん、ランチ奢るよ、行こう!」
と、あたしに言ってくる。
「却下だ。」
「なんでですかーチーム長!
牧野さんだけにならいいじゃないですかっ」
「やったらクビだ。」
年上の山田さんにピシャリと言い放つチーム長。
その間合いに、またフロアが爆笑に包まれる。
仕事ってやっぱりいいなぁ。
努力すればこうして報われる事もあるし、ダメだった時も仲間が慰めてくれる。
人生、仕事とお金が充実していれば、あとは何もいらない。
そのあたしの考えはやっぱり間違ってはいないだろう。
でも、…………
ふと視線を感じて横をむくと、
あたしを見つめるチーム長と目が合った。
その瞬間、あたしは自問していた。
本当にそれ以外何もいらない?
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契約が取れて盛り上がったチーム2課。
ようやくいつもの落ち着きを取り戻し、通常業務に戻った頃、
コピー機の前に立つあたしに、
「牧野、悪いけどこれも1部コピー頼む。」
と言ってチーム長が用紙を渡してきた。
「はい。」
と言って受け取り、その資料を見ると、
1枚目の上部に付箋が貼ってある。
そして、その付箋を読んだあたしは、一気に心臓がドキドキと鳴り出した。
その付箋には、
『今日、仕事終わりに食事に行くぞ。
19時、下で待ってる。』
と書いてある。
驚いて咄嗟にチーム長の方を振り向くと、目が合って小さくコクンと頷いている。
こんな付箋、他の誰かに見られたら大変だ。
慌てて小さく折りたたみポケットに押し込むと、あたしは火照る頬をコピー用紙で隠した。
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