チーム長の策略 9

チーム長の策略
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次の日、社内では昨夜の飲み会の話題で持ち切りだった。

「営業部の道明寺チーム長が、飲み会で好きな人がいるってあっさり答えたらしいよ!」

「1年も片思いしてるって!」

「告白したけど、相手の返事待ち〜!」

今まで浮いた話のひとつもなかったチーム長が、突如として自ら暴露した恋愛トーク。

「OK貰えるまでいつまででも待つ。」

と言った潔さに、道明寺チーム長の株は急上昇中だ。

でも……、あたしとしてはかなり複雑で。

1年片思いしている相手というのは、自惚れでなければあたしのことでいいのだろうか?

いやいや、あたしだってついこの間言われたばかりだから、信じ難い。

そんな素振りは1度だってなかったのに。

グルグルと頭の中で考えながらあっという間に昼休憩の時間。

社食でランチを済ませ営業部のフロアに戻るエレベーターに乗り込むと、やはりそのエレベーター内でも道明寺チーム長の話題で持ち切りだった。

いつまでこれが続くのか。

チーム長本人もきっと、自分で蒔いた種だとはいえ、疲れてきているだろう。

エレベーターを降り、フロアの廊下を真っ直ぐ歩いていくと、ちょうど正面から道明寺チーム長がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

バチっと目が合う。

すると、少しだけニヤっと笑うチーム長。

あたしの心配はよそに、疲れた雰囲気なんて微塵も感じさせないオーラ。

あたし達の距離が2メートル程に近付いた時、

「葵川商事に行ってくる。」

と、チーム長が言う。

あー、そうだった。

今日は午後から打ち合わせで外勤なのだ。

いつものように、

「行ってらっしゃい。」

と、言おうとすると、

それを言い出す前に、あたしの腕が強く引かれ、廊下の端へと移動させられる。

そこは、数年前まで喫煙室として使われていたスペース。

今は社内での喫煙は禁止になっているので、自然とそこは使われていないデッドスペースとなっていた。

突然そこに引き込まれて驚くあたしに、チーム長が言う。

「清水チーム長に何か言われてないか?」

「…え?清水チーム長?」

「ああ、昨日の飲み会、おまえの隣に座ってただろ。距離が近くてムカついた。

口説かれたりしてねーよな?」

真剣にそう聞くこの人に、あたしは照れるというより呆れる。

「何考えてるんですかっ、そんなわけあるはずないでしょ!

それより、…大丈夫ですか?昨日の発言がかなり噂になってますけど。」

「ああ、想像以上だな。

他の課の奴らの耳にまでもう届いてる。」

噂というものはあっという間に広がる。

それが謎のベールに包まれた道明寺チーム長となれば尚更だ。

気の毒そうにチーム長の顔を見つめると、

「随分他人事だな。」

と、睨み返される。

「えっ、だって…」

「だってもクソもねーぞ。相手はおまえだって言えばよかったな。」

「やめてくださいっ!

そんなことしたら、うちの課は仕事どころじゃなくなりますっ。」

あたしがそう言うと、チーム長は

「どうやったら、おまえはすんなりオチるんだよ…。」

と、呟きながら壁に背中を預けた。

「…チーム長?」

「打ち合わせに行きたくねぇ。」

「はぁ?」

「なんか、力が湧かねぇ。」

急に子供みたいなことを言い出す。

「13時半からですよね?

もう、行かないと間に合いませんよ。」

「ドタキャンするか?」

「有り得ない。」

首をブンブン振って否定すると、クスッと笑いながらチーム長があたしに言った。

「牧野、ハグ。」

「…はい?」

「ハグしろよ。」

そう言ってあたしに向かって両手を広げるこの人。

「はぁ?」

思わず大きな声で聞き返すと、チーム長はチラッと廊下の方に視線を移し、

「誰か来たらヤバいだろバカ。」

と、あたしに1歩近づいてくる。

「チ、チーム長っ」

距離の近さに1歩後退すると、

すかさずまた1歩詰められ、

「朝からマジで疲れた。

ハグぐらいいーだろ?なんもしねーから。」

と、かすれた声で言う。

ハグぐらい…チーム長はそう言うけれど、距離が近くなっただけで、あたしの心臓は今にも飛び出しそうにドキドキしている。

ハグなんかしたら、そのドキドキがチーム長にも聞こえてしまうんじゃないかと怖くて動けずにいると、

自分の腕時計をチラッと見たチーム長は、

「時間だ、行ってくる。」

と、優しく言い、ハグは諦めたのかくるりと後ろを向く。

その時、あたしは自分でも信じられないような行動をしていた。

歩き出そうとするチーム長の背中にぶつかるように抱きつくと、ギュッと両手に思いっきり力を入れた。

これが正しいハグかどうかなんて分からない。

けれど、今のあたしにできる精一杯の表現なのだ。

5秒程そうしていたか…急に恥ずかしくなり腕を緩めると、その拍子にチーム長があたしの方に向き直った。

そして、

「逆効果だな。」

と、呟きながらあたしを正面から腕の中に包み込んだ。

「ますます行きたくなくなった。」

「え?」

「ずっと、こうしてたい。」

耳元でそんな事を囁かれて、自分でも分かるほど頬が熱い。

「チ、チーム長っ、時間が!」

「ん、分かってる。」

それでもなかなか離してくれない。

「牧野。」

「…はい。」

「いつものやつ、言って。」

「いつもの?」

あたしが聞き返すと、チーム長はようやくあたしを解放したあと言った。

「いつも俺が外勤する時、行ってらっしゃいっておまえ言うだろ?」

「…あー。」

チーム長にだけでなく、誰かが社外へ行く時は、

「行ってらっしゃい、気をつけて。」

と、声をかけるようにしている。

新人の時の教育係だった先輩がそうしていたから。

「俺、おまえのあの言葉、すげぇ好き。」

なんて答えていいか分からないあたしに、道明寺チーム長は目を細めながら言った。

「行ってきます。」

「…行ってらっしゃい。気をつけて。」

いつものようにそう答えると、ポンポンとあたしの頭を撫でたあとチーム長は廊下を歩いていく。

デッドスペースに残されたあたしは……、

膝から力が抜けてその場にしゃがみこむ。

ダメだ。

恋愛というのはかなりハードで身体に悪い。

フルマラソンを走りきったあとのように、心臓がどくどくと波打っている。

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