こういう恋の始まり方 3

こういう恋の始まり方
スポンサーリンク

自分の名前が呼ばれたような気がして振り向くと、
そこにはキャップを目深にかぶった専務の姿があった。

「少し話がある。付いてこい。」

驚くあたしにそう告げた専務はスタスタと夜の街を歩き出す。

最悪だ。
お酒に呑まれた昨夜の自分を殴ってやりたい。

専務の後をとぼとぼ付いて行くと、通りの先にある深夜までやっているカフェチェーン店を指差して、

「あそこでいいか?」
と、聞いてくる。

どこでもいい。出来ることなら、この場でクビを言い渡してくれても構わない。
そんな絶望的な心境のまま店の中へ入り、奥の席に専務と向かいあわせで座った。

店員にコーヒーを2つ頼んだ後、それが運ばれてくるまでは地獄の沈黙タイム。
そして、ようやくあたしたちの目の前にコーヒーが置かれた直後、あたしは頭を下げて言った。

「昨夜はご迷惑お掛けしました!」

「……。」

無言の専務の顔を見るため、恐る恐る顔を上げると、
「何に対しての謝罪だよ。」
と、キャップを取りながら不機嫌そうに言う。

「そ、それは……」

「休憩だって言ったのに、朝まで寝ちまったことか?
それとも、先に部屋を出て帰った事か?
いや、部屋代の倍の額を置いていった事かよ。」

専務にそう言われ、頭の中が???で覆われる。

「…どれも違う気が…、」

「じゃあ、何に対して謝った?」

「だからっ、それは、
……失礼なお願いをしてしまったから…でして。」

いくら半年間一緒に仕事をしてきたからと言って、格段に親しくなった訳でもない。
もちろんお互い恋心なんて芽生えているはずもなく、そんな相手に対して
「1晩一緒に寝てくれ。」いや、「抱いてくれ。」なんてお願いする頭のおかしな奴は…あたししか居ない。

「あたし、どうお詫びしていいのやら。」

そう言って頭を下げるあたしに、専務はコーヒーを一口飲んだあと言った。

「おまえの望みはまだ叶ってねーだろ。」

「…え?」

「処女を卒業するって」

「せっ、専務!」

こんな大勢がいるカフェで禁断の単語を言うなんて!

「クス…、まだ最後までしてねーじゃん俺たち。」

「え、だって、&#@&☆*:-@&#:-…」

昨夜のあれは夢だったのか?しどろもどろになるあたしに、専務は余裕たっぷりで言う。

「あれで終わったとしたら、おまえの初夜は最悪だぞ。
なんせ男の方はイッてねーからな。」

「……。」

痛みで耐えられなくなった昨夜の行為を思い出し、急に恥ずかしさが込み上げる。
あたしはこの人に身体を全て見られたのだ。
それどころか、胸を触られ、舐められ、イレラレタ。

顔から火が出そうなほど恥ずかしくなって、専務から視線を逸らしコップの水をがぶ飲みすると、

「なぁ、牧野。」
と、専務があたしの名前を呼んだ。

「…はい。」

「これは返しておく。」

そう言ってあたしの目の前に1万円札を置く。

「これは、部屋代です。専務が取ってください。」

「こんなにかかってねーし。」

「でも、いいんです!迷惑料として受け取ってもらえれば。」

「分かった。じゃあ、遠慮なく貰っとく。」

そう言って1万円札をまた財布にしまった専務は、あたしに驚くことを言った。

「ただし、これは部屋代の2倍の金額だから、きっちり使い切ろうぜ。
今週、リベンジするぞ。」

「……へぇ?」

「だから、おまえの初夜のリベンジだ。」

「専務っ!声が大きいっ!」

慌てて制止するあたしに、この人は初めて見るような笑顔で言い放った。

「次はちゃんと最後までするからな。」

次?次って?
あたしの頭がパニックになっている間に、専務は
「じゃあな。」と言って立ち上がり、呆気なく去っていってしまった。



金曜日。
秘書課のオフィスを出て総務課に向かおうとエレベーターに乗り込んだ瞬間、大きな人影が滑り込んできた。

お互い目を見合わせた瞬間、なんとも言えない雰囲気に。

「専務、お疲れ様です。」
小さく挨拶をするあたしに、

「おう。」
と、答えながら1階のボタンを押す専務。

しばらくの沈黙の後、専務が言った。
「牧野、今日の予定は?」

「え、えーと、安西部長のNY支社への出張のスケジュール調整と、」

「ちげーよ。」

「へ?」

「仕事後終わったあとの予定。」

「終わったあと…、」

「俺も今日は7時で仕事終わらせる。
この間のリベンジするぞ。」

あまりに唐突に発せられたその言葉に頭がついて行かない。

「り、リベンジって、」

「仕事が終わったらこの間のカフェで待ってろ。」

パニックのあたしをよそに、業務連絡のように専務は言う。?…☆&#@→?#……またも脳内が大慌てしている間に4階の総務部につき、エレベーターが呆気なく開かれてしまった。

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願い致します!

タイトルとURLをコピーしました