こういう恋の始まり方 4

こういう恋の始まり方
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仕事が終わった7時過ぎ、迷いに迷った挙句あたしは専務が言ったカフェに来ていた。

緊張しながら待っていると、15分後店内に専務が現れた。
スーツではなく黒いスポーティーな装いにあの時と同じキャップ。

185cm近い身長に精悍な顔つき、そして圧倒的なオーラを纏う専務が店内に入った瞬間、周囲の人達がじっと見つめる。
そんな視線にもくれず、キョロキョロと店内を見回したあと、専務はゆっくりとあたしに近付いてきた。

「遅くなった。」
そう言いながら正面に座りキャップを取ろうとする専務に、

「専務っ、そのままで!」
と、あたしは慌て言う。

「あ?」

「帽子、そのまま被っていてください。」

「なんでだよ。」

怪訝な顔で聞き返す専務に、あたしは小声で教える。

「ただでさえ目立ってるのに、帽子とったら注目の的ですよ。」

「…..。」

「とにかく出ましょう。話は歩きながらで。」
あたしはそう言うと、専務を連れて店を出た。

カフェから少し離れると、人気のない脇道へと入っていく。
そこを2人で歩きながらあたしは切り出した。

「あのっ、リベンジの件なんですが、
·····今回はご辞退させて頂きたいなぁーと。」
まるで仕事のアポを断るかのような切り口に、

「プッ·····、なんだよその言い方は。」
と、あたしを見下ろしながら笑う専務。

その顔が、電灯に照らされて凄く綺麗で、思わず小さな胸がドキンと鳴る。

「あの日のあたし、どうかしてたんです。
飲み会の席で同僚の子が話してた会話が耳に入ってきちゃって、なんか自暴自棄というか、やけくそになったというか·····。」

「あー、あの品のねぇ奴の話か?」

「·····専務も聞いてました?」

「あれだけでけぇ声で話してたら聞こえるだろ。」

あの日、あたしが専務をホテルに誘った日は、営業課と秘書課の合同の飲み会が開かれていた。
フランスの老舗ホテルとの提携話が上手くいき、お互いのホテルを利用したセレブ向けの宿泊プランやオリジナルグッズの開発など、予想以上の収穫を得てビジネスが終了した事を祝う飲み会だったのだ。

そこで、秘書課のひとつ歳下の男性社員が悪酔いして、自分の恋愛話を披露し始めたのだ。
26歳のその子はルックスも良く、学生時代から相当モテたのだろう。自慢話がヒートアップして、見かねた先輩が止めに入るまで際どい話をぶちまかしていた。

その中に、
『女は25歳までの未経験ならウブで可愛がられるけど、それ以降になったら男に引かれるから未経験だとは口が裂けても言わない方がいい。』
と言った彼の言葉が重く自分にのしかかってきて、どうせ大したことの無い身体なんだから、至極大切に取っておかなくてもさっさと誰かに貰ってもらいたい…なんてアホな考えに行き着いてしまったのだ。

三次会には行かないで帰路に着くあたしの隣にはなぜか専務がいて、「専務、三次会には行かないんですか?」と聞くと、
「西田との約束は二次会までだからな。」と、ネクタイを緩めながら言う。

その仕草に、未経験のあたしのくせに、『この人色っぽいなぁ』
なんて思ってしまったのが先日の過ちの始まり。

上司をホテルに誘うなんて、どうかしてるよあたし。
酔った勢いでの過ちだと謝って許してもらうしかない。

「専務、あたしこの間は相当酔ってて、ホテルに誘うなんてとんでもない事を。本当にすみませんでした。」

立ち止まって頭を下げるあたし。
そんなあたしの頭頂部に向かって専務は言った。

「だから、酔ってねぇ今日、リベンジすんだろ。」

「…へぇ?」

「途中までしかしてねーのに、それで終わらせるのかよ。
それともあれか?俺じゃ満足出来ねぇから他のやつにお願いすることにしたのか?」

満足?他のやつに?
そんな考えは微塵もなかったあたしは、
「んな事、あるわけないじゃないですかぁっ!!」
と、大声で反論する。

「バカっ、声がうっせぇ。」

確かにすれ違う人達があたしの事をジロジロと見ていく。

「あたしはただ専務にご迷惑をおかけしたと思って、」

「迷惑かどうかは俺が決める。」

「·····じゃあ、今日は?」

「リベンジするぞ。」

真っ直ぐあたしを見下ろしてそう言い放つ専務に、顔から火が出そうなほど熱くなる。
すると、専務がさぞ楽しそうに辺りを見回しながら言った。

「っつーかさ、おまえ、ここ完全にホテル街だぞ?
計画的か?」

「·····えっ、·····ひゃーーーっ」

「バカっ、叫ぶなっ!」

大声を出すあたしの顔は、専務によって彼の胸に押し付けられた。



今日のホテルの部屋は前回のに比べると少し高そうな所。
緊張がMAXで挙動不審になるしかないあたしに、

「シャワー先にいいぞ。」
と、専務は余裕。

恥ずかしさでまともに目を合わせられないから、逃げるようにバスルームに入った。

シャワーを浴び始めて数分後、
「牧野。」
と、扉の向こうから声がした。

「はいっ、」

「わりぃ、バスタブにお湯入れておいて欲しい。」

「はい、分かりました。」

あたしは専務に言われた通りバスタブにお湯を入れながら、自分はシャワーで身体を洗っていると、

「牧野。」
と、再び呼ばれる。

「はい?」

「お湯、貯まったか?」

「あー、はい、半分以上入ったけど、」
あともう少しです·····と続けて言おうとした時、

突然バスルームの扉が開いた。

「わっ!えっ、えっー、」
驚くあたしの目の前にいるのは、タオルで下半身だけ隠した裸の専務。

「専務っ!なんでっ!」
まだ身体中石鹸だらけのあたしは、逃げ場がない。
慌てて両手で胸だけ隠すあたしに、この人は相変わらず余裕に言い放つ。

「どうせ入るなら一緒でいーだろ。」

「よくないっ、ダメですっ、専務向こうむいて!」

「なんでだよ、」

「なんでだよじゃないっ!信じらんないこの人っ!」

あたしは専務の背中側に回り、必死に専務の視線から逃れようとするのに、専務はその長い腕であたしの身体を引き寄せ自分の前に持ってくる。

自然と後ろから専務に抱きつかれる形になり、密着するあたしたち。

シャワーのお湯であたしの体からは石鹸の泡が綺麗に流されていく。そして、泡がなくなった首筋に専務の唇が乗る。

ゾクゾクとした甘い痺れが全身に走り出した。

「牧野、俺が身体洗ってやる。」

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