僕らの時間 29

僕らの時間
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あれだけダラダラと3日以上も熱が下がらなかったのに、

つくしに、『ご飯に行こう』と言われた瞬間からダルさなんて全部吹き飛んだ。

今日は朝からアドレナリンが出まくっている。

つくしの仕事が終わるのを待って、あいつのお気に入りの店に行く約束をした。

久々に2人で食事に行く。

あいつがどういうつもりで誘ったかは分からねーけど、この半年間ずっと拒否られていた俺にとっては、かなりの進歩だ。

焦るつもりはねーけど、せめて次の約束だけは取り付けて帰りたい。

そう思いながら、念入りに髭を剃り、髪型を整え、軽く香水をつけて待ち合わせ時間の1時間前に部屋を出た。

待ち合わせは、店の近くの書店。

本を1冊買い、それを持って店内の喫茶スペースでコーヒーを飲んでいると、

待ち合わせ5分前に小走りで店内に入ってくるつくしが見えた。

白いブラウスにベージュのパンツ。

その上にダークブラウンのコートを羽織っている。

こうして外で会うと、すっかり大人っぽくなったつくしにドキリと心臓が鳴る。

キョロキョロと店内を見回しながら探しているつくしに、『目の前の喫茶スペース』とメールを送ると、

携帯に視線を落としたあと、顔を上げたつくしの視線が俺と絡まった。

ヤバい。

めちゃくちゃ可愛い。

俺を見て、軽く片手を上げてはにかむこいつに、もう既にノックアウトの俺。

今日1日、こんな状態で俺の精神状態は持つのか?

慌てて立ち上がりつくしの元へと行こうとすると、俺のそばまで急いでやってきたこいつが、俺の腕を掴み、

「話があるの。」

と、俺を再び座らせる。

「あ?」

「道明寺、あのね、この間あたしが一緒に食事してた男の人覚えてる?」

「ああ。」

一気に不機嫌になる俺。

今日は、そいつとの関係も徹底的に聞こうと思っていた。

すると、一旦周りをキョロキョロと見回したあと、つくしが言った。

「彼とは職場の先生の紹介であの日初めて会ったの。

食事をしたのはあの1回だけ。連絡も交換してないし、もちろん付き合ってるっていうのも嘘。」

緩む顔を押し殺して、コーヒーを口にする俺に、今度はつくしが聞いてきた。

「道明寺は?」

「ん?」

「付き合ってる人は?」

「いるわけねーだろ。」

「じゃあ、好きな人は?」

「おまえ。」

つくしを指さしながら即答すると、今度はつくしが気まずそうに俺のコーヒーを奪って1口飲む。

そして、カップを置いたと思ったら、

「さぁ、食事に行こうっ。」

と、急に立ち上がる。

そんなこいつの腕を取り、

「おいっ、おいおい、なんだよ今の。」

と、強引に座らせると、つくしが俺を真っ直ぐ見つめて言った。

「あたし、今日はデートのつもりできたの。

だから、その前にきちんと確認しておきたくて。」

「確認?」

「そう。お互い、他に好きな人がいないか。

……それを確認しないと、先に進めないから。」

つくしの言葉を聞いて、あの日の事が蘇った。

酔ったあの日、白石に言われたこと。

「お互いフリーなんだから、酔った日くらい羽目を外してもいいんじゃない?」

あいつは俺が未だにつくしを好きなことを知っていたはずなのに、それでもホテルに誘ってきた。

お互いの気持ちなんて関係なく。

それに対して、目の前のこいつは違う。

俺が何度も何度も『好きだ。』と言ってるのに、それでもこうして確認してから先に進みたいと言ってくれる。

「つくし、」

「ん?」

「好きだ。」

「っ!ちょっと、なによ、こんなところでっ、」

「確認されたから、言ったんだろ。」

レストランに着くと平日にも関わらずかなり混んでいる。

俺たちが案内された2人席の後ろでは、10人程が座れるスペースも満席。

どうやら、3月という事もあり、会社の慰労会や送迎会と重なったようだ。

つくしとゆっくり『これから』の事も話したいと思っていた俺にとっては大打撃。結局、食事中はタマの話や弟の就職活動の話なんかで時間が過ぎていき、自分たちの話なんてほとんど出来ずに終わっちまった。

それでも、目の前のつくしはずっと笑顔で機嫌がいい。笑いすぎだと思うほどニコニコして、他のやつに見せたくねぇと思うほど愛らしい。

ダメだ。

長い間、つくし不足だった俺にとっては、急にこれだけ胸をいっぱいにさせられると消化しきれねぇ。

ぼぉーっとこいつを見つめていると、

「道明寺、大丈夫?具合悪い?

そろそろ出ようか。」

そう言ってつくしが立ち上がった。

先にスタスタ歩き出すつくし。

そして、会計に自分のカードをポンと置いて

「今日はあたしの奢り。」

と言うこいつ。

「あ?やめろよ。

俺が出す約束だろ?」

「いーの。合格祝いだし。」

「そんなの聞いてねーよ。

いいから俺が払う。」

つくしのカードを無理矢理、財布にしまわせようとする俺と、それを拒否するこいつ。

その戦いは、つくしが俺にだけ聞こえる声で言った言葉で決着が着いた。

「次のデートの時には、道明寺が出して。」

店を出て並んで歩く。

車があるパーキングまではすぐそこ。

でも、早急にでもさっきの言葉の意味を知りたい俺は、こいつに聞いた。

「つくし、おまえさっき言ったよな?

次のデートって。」

「…あー、うん。」

「本気にするぞ。いーんだな?」

「ん。いつにする?」

「明日。」

「はぁ?バカっ。

せめて来週とかにしてよ。」

「待てねーよっ。

おまえの気が変わったら困るだろ。」

隣に歩くこいつを見下ろしてそう言ってやると、

つくしが俺を見あげて言った。

「もう、気が変わったり、迷ったりしないから大丈夫。」

朝から鳴りっぱなしだった俺の心臓は、こいつのこの言葉で完全に撃ち抜かれた。

つくしの手を握り、パーキングとは反対方向の大きな公園へと向かった。

「道明寺、京丸くんまだ持っててくれたんだ。

もう、捨てたかと思ってた。」

公園に入るなり、突然そう言うつくし。

「京丸?あー、なんで知ってる?」

「この間届けた荷物の中にあったから。

クッタクタのボッロボロだったけど。」

「クッ…あいつ何回も俺の手で手術してるぞ。」

「どうしたらあんなに可哀想な姿にできるのよ。」

「可愛がりすぎたら、ああなった。」

嘘じゃねぇ。

つくしとお揃いで買った物は、後にも先にもあの京丸だけ。

だから、自然といつも手の中にあり、何かと触っているうちに、見事にボロボロな姿になっちまった。

でも、捨てる選択なんてまったくなく、何度も手術用の糸でカムバックさせてやった、俺の大事な分身だ。

「おまえとの思い出のあいつを、俺は捨てたりしねーよ。

おまえはどうだか知らねーけど?」

疑うような目でつくしを見てやると、

「あたしだって捨てるわけないでしょ。」

と、鞄から俺のより遥かに綺麗な京丸が出てくる。

そして、ポツリと言った。

「6年前からずっと、変わらず持ってるよ。

京丸くんも道明寺への気持ちも。」

「…つくし?」

「あたし、……進に言われちゃったんだ。

道明寺から逃げるなって。」

「あ?弟に?」

「うん。

今のあたしは道明寺から逃げてばかりだって。

俺は道明寺さんの味方だってさ。」

「プッ…マジかよ。

あー、まぁ、逃げられまくったけどなこの半年。でも、それだけ嫌われるようなことしたからな俺は。」

別れてから痛いほど分かった。

どれだけつくしに甘えていたか。

そして、どれだけこいつを大事にしていなかったか。

「つくし、」

もう一度謝りたい。

そう思った時、俺より先にこいつが言った。

「道明寺、ごめんね。」

「あ?なんでおまえが謝る?」

「だって、あたし道明寺に言葉に出して自分の気持ちをぶつけてこなかったから。

道明寺が実習や勉強で忙しくなるにつれ、断られたらどうしよう、嫌われたらどうしようって思って、いつからか道明寺に自分の気持ちを伝えられなくなってたの。

それなのに、一方的に道明寺のせいにして被害者ヅラして…。」

「んな事、ひとつも思ってねーよ。

寂しい想いをさせてたのは事実だし。」

そう言った俺の腕を掴み、つくしが立ち止まった。

そして、急に周りをキョロキョロと確認したあと、

「道明寺っ」

と、威勢よく俺を呼ぶ。

「あ?」

「進にあたしのどこが好きかって聞かれた時、なんて答えたか覚えてる?」

確か、俺たちが付き合ってる事が弟にバレた時に、そんなことを聞かれた覚えがある。

けど、なんて答えたかは覚えてねぇ。

「覚えてねぇ。」

「…………だよね。」

「けど、誰に何度同じことを聞かれても、多分俺はこう答える。

俺にだけは真っ直ぐに本音をぶつけてくるところ。」

そう答えると、つくしは驚いた顔でコクコクと呟いたあと言った。

「じゃあ、今して欲しいことを本音で言うねっ。

道明寺、……キスして!」

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