風邪で寝込んで3日目。
ようやく熱も37度台に落ち着いてきた。
実習、試験、飲み会と疲れがピークになっていた時に、白石からの誘い。
結局あの日はタクシーを捕まえることもせず、モヤモヤと嫌悪感を抱きながら徒歩で帰宅した。
その結果、高熱で倒れるという情けないことに。
白石からは次の日、
『昨夜はごめんね。
酔っていて話した事覚えてないの。』
と、メールが来たが、未だに無視している。
いや、多分この先、あいつからのメールに返信することは二度とないだろう。
今日は朝一で
『坊ちゃん、後で様子を見に行きますね。』
と、タマから連絡が来た。
3日外に出ていないからさすがに飲み物も底をついている。
老婆をこき使うのはわりぃけど、買ってきて欲しいものをリストにして送っておいた。
まだだるい身体を起こしてシャワーを浴び、ソファーでウトウトしていると、玄関チャイムが鳴った。
タマなら自分で入ってくるだろう…と思ったが、なかなか鍵が開く音がしない。
さらに2度目のチャイムが鳴り、俺は渋々起き上がりインターフォンの画面を覗いた。
そして、そこで固まった。
なぜなら、予想もしていない人物がそこに立っていたから。
「…つくし?」
「道明寺、重いから早く開けてっ。」
「お、おう。」
慌てて玄関に向かいドアを開けると、両手に大きな荷物を抱えたつくしが勢いよく玄関に入ってきた。
「ど、どした?」
「タマさんから荷物預かってきたの。」
「あ?おまえが?」
「なに?あたしじゃダメだった?」
「んなわけねーだろ。」
訳が分からねーけどそう即答する俺に、つくしはクスッと笑い
「入っていい?」
と、聞く。
「ああ。」
つくしの手から荷物を受け取りリビングへ行くと、『やべぇ。』と心の中でつぶやき立ち止まる。
後からきたつくしもリビングの光景を見て、唖然としながら「汚っ。」と言った。
「いや、ごめんっ、今片付けるっ。」
「どうしたのこれ。」
「あー、まぁ、掃除をサボってたっつーか、具合悪くて出来なかったっつーか………。
おまえが来るって分かってたら、綺麗にしておいたのによ。」
リビングのテーブルの上は、医学書が積み重なり、床にはペットボトルが数本転がり、ソファには脱いだ服が何重にも重なっている。
「今片付けるから、そこに座ってろ。」
俺はつくしに向かってキッチンのカウンター席を指さすと、
「もぉー、しょうがないんだから。」
と、睨みながら言ったつくしは、
俺の手を引きソファに無理矢理座らせる。
そして、言った。
「病人はここで静かにしてて。」
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それから30分。
つくしはテキパキと部屋を片付け、洗濯を回し、持ってきたものを冷蔵庫へ入れ、軽い食事を作ってくれた。
それをただただソファの上から見てた俺は、
これは夢なのか?と何度も自分のほっぺをつねってみたりする。
夢なら覚めないでくれ。
俺の周りでチョコチョコと動くこいつをずっと見ていたい。
「道明寺、ご飯食べる?」
「…………。」
「道明寺っ?」
「あ?あっ、食う食う。」
我に返った俺は、慌ててキッキンへと行く。
「タマさんが作ってくれたおかず。
消化にいいものばかりみたいよ。」
「おう。」
「これ食べてゆっくり寝たら、薬なんか飲まなくても明日には元気になってるはず。」
ご飯をよそいながらそう断言するつくしに、俺は言ってやる。
「医者を目の前にしてよく言うぜ。」
「あっ、あはは。
そうだった。あんたお医者さんだったんだ。」
可笑しそうに笑うつくし。
テーブルに頬杖しながらその笑顔をじっと見つめると、
「なに?」
と、不思議そうに見つめ返してくる。
「おまえの笑った顔、久しぶりに見た。」
「…………。」
「そんなにおまえが優しいのは、俺が病人だからか?」
「プッ……」
「だったら、一生寝込んでやってもいーぞ。」
せっかくこいつが久しぶりにそばに居てくれるというのに、俺はまたこうして溢れ出る想いをぶつけてしまう。
案の定、つくしは俺から目を逸らし、
「そろそろ帰ろうかな。」
と、ゆっくり立ち上がる。
「洗濯、乾燥が終わったら取り出してね。」
「…ああ。」
「氷は冷凍庫の左側に入ってるから。」
「おう。」
「週末にタマさんが容器を取りに来るって言ってた。」
「ん。」
「……じゃあ、帰るね。」
「…………。」
返事をしない俺。
クスッと笑い玄関へ向かうつくし。
仕方なく、俺はそんなこいつを追いかけて玄関へ行く。
もっと一緒にいたい。
そう思うけれど、また拒否られるのが山だろう。
靴を履くつくしの背中に、
「サンキューな。」
とだけ伝える。
すると、振り向いたつくしが言った。
「道明寺、今度ご飯奢って。」
「…あ?」
「今日の掃除のお礼に、ご飯に連れてって。」
つくしからの誘い。
「マジか?」
「こんな事、嘘つく訳ないでしょ。」
それなら、もちろん断る理由はねえ。
「明後日。」
「え?」
「明後日に行くぞ。」
食い気味で答える俺に、
プッ……と吹き出したあと、つくしは
「風邪、早く治しなさいよ。」
と言って俺の部屋を出ていった。
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