会食が終わり、ホテル前のリムジンに乗り込むと、いつもは別の車で移動する西田が俺の隣に乗り込んできやがった。
早速、お説教かよ。
わざと西田に聞こえるようにため息をつくと、西田もメガネをかけ直し、俺を真正面からガン見してくる。
「なんだよっ。」
「専務、聞いてません。」
「あ?」
「好きな女性がいるなんて、私は1度も聞いておりません。」
真顔でそう言うこいつに、俺は至極真っ当な返事をしてやる。
「あたりめーだろ。俺とおまえは恋バナをするような間柄か?」
「専務っ!」
「そんなにでかい声出さなくても聞こえる。」
「はぁーーー。」
西田とこうしてやり合うのは何年ぶりだろうか。
確か、西田が俺の秘書になりたての頃は、俺も学生で血の気が多かった時期。
あの頃は、よく西田から説教を受けてきた。
「秘書として確認させてください。」
「なんだよ。」
「専務の先程の発言は、本当ですか?それとも、アリーナさんが好みではない為、遠回しにお断りしたと言うことですか?」
「両方だ。」
「専務っ!」
いつもは冷静沈着な西田が顔を真っ赤にして興奮してやがる。
これ以上怒らせると仕事に支障が出かねない。
「西田、落ち着けって。
おまえに相談無しにあの場で言ったのはマズかった、それは認める。
ただ、俺が言った事は本心だ。好きな女がいる。」
「……、いつからですか?」
「あー、好きになったのはだいぶ前だからいつからか覚えてねーけど、親密になったのは半年くらい前からだな。」
「では、お付き合いして半年が経つのですね。」
「ん?」
「え?」
お互い顔を見合せて固まったあと、俺は言った。
「付き合ってねえ。」
「はい?」
「だから、まだ付き合ってねーんだよ。」
「……。」
その言葉にアホみたいな面で俺を見つめる西田。
俺は足を組んで余裕で言ってやる。
「まぁ、今、全力でオトしにいってるから心配すんな。」
すると、西田は深いため息をつきながら軽く首を横に振りやがる。
「専務、まさか、振られたんですか?」
「ちげーよっ、ただ、困るって逃げられはしたけどよ…」
「それは完全に振られたってやつですよ。」
「ふざけんなっ、殺すぞ。」
第三者にハッキリ『振られた』と言われると、さすがにキツい。
「では、一方的に専務が好意を寄せているということですね。」
「一方的とは…、一応、それなりに、」
ヤルことはやってるし…とは、西田には言えねぇ。
言葉を濁す俺に、西田は姿勢を正して言った。
「専務、正直、時期尚早だったのではないでしょうか。」
「あ?」
「お付き合いをされているならまだしも、まだ今は専務の片思い中です。今日のあのような場で、公表するには早すぎたかと。アリーナさんとも今後、もしかしたらまた急接近する事があるかもしれません。その時に、今回の事が仇となって本人に気持ちが伝わらない場合も…、」
そうグダグダと話す西田の言葉を遮り、言ってやる。
「いーんだよ。
俺の気持ちを今日1番に伝えたかった奴には、伝わったと思う。」
「はい?」
「牧野だよ。」
「……。」
「牧野には伝わっただろ、俺が本気だってこと。」
「専務、…まさかっ?」
西田は口をあんぐり開けて数秒間固まったあと、
「本気ですか?」
と、真剣な顔で聞きやがる。
「ああ。」
「なんでまた…、秘書なんかを。」
「秘書の牧野を好きになった訳じゃねーよ。
好きになった女がたまたま秘書だっただけだ。」
「……。」
「西田も言ってたよな?牧野は仕事も丁寧で人となりも信頼できるって。だからアリーナのお守役にも推薦したんだろ?」
「そうですが…、私が推薦したのには他にも理由があって、牧野さんなら専務に色仕掛けをする心配もないと。」
「色仕掛け…、まぁ、どストレートに投げ込まれはしたけどよ。」
「え?」
初回から直球でホテルに誘われたとは言えねぇ。
「とにかくっ、俺は本気だ。
あいつしか考えらんねーから。」
俺のその言葉に、西田は珍しく頭を抱えた。
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コメントもいつも嬉しく拝見しております!
コメント
いつも楽しく拝見しています!
かなりお話しが進んできて、更新が早くてめちゃくちゃ嬉しいです!!
またよろしくお願いします!