翌日、ベッドで目を覚ました瞬間、昨夜の事を思い出し頭から思いっきりブランケットをかぶる。
はぁーーー、何やってんだよ俺は。
マジでカッコわりぃ。
『そういうの困りますっ。』
牧野にそう言われて、何かがプツンと切れた。
「本心か?それは」
「…はい。」
「身体だけの関係かよ俺たちは。」
女々しいにも程があるセリフが口をつく。
それでも、その口は黙ることを知らず、
「拒否られると猛烈に燃えるタイプなんだよ。悪ぃけど、回りくどいのは性にあわねーから、ここからは正式にオトしにいかせてもらう。」
と、超がつくほど俺様口調でのたまった。
なんでだよっ。
なんでもっと優しい言葉で言ってやれねーんだよ。
自己嫌悪に陥りベッドの中で悶絶していると、
「坊ちゃん、お時間ですよ!」
と、部屋の外からタマの声がした。
…………………
週末、あたしはいつもより上質なスーツを着込んで仕事に向かう。
今日は、フランスからラファエルが来日する日。
午後からアリーナを交えて専務と会食が予定されている。
西田さんと入念に打ち合わせをして準備をしていたのに、直前で思いもよらないハプニングが起きた。
なんと、専務のご両親である社長と楓副社長も同席すると連絡が入ったのだ。
急遽5人での食事会となり、用意していた席やお料理も少しずつ変更し、なんとか会食2時間前にセッティングが完了。
ぐったりとしながらオフィスの椅子に座っていると、秘書課の先輩が
「牧野ちゃん、お疲れさま。」
と、缶ジュースの差し入れ。
「ありがとうございます。」
「牧野ちゃんも行くんでしょ?」
「はい。あと30分したらホテルに向かいます。」
そう言って自分の腕時計に視線を移す。
「噂で聞いたけど、今日の会食、社長と副社長も来るんだって?」
「はい、…急遽そうなりました。」
「なんで?」
「えっ?」
「なんで急に勢揃いしたの?」
先輩のその言葉に、???マークのあたしが黙っていると、先輩は小声であたしに言う。
「両家の顔合わせって事でしょ?婚約発表も近いってことよね?」
と、怪しげな視線を送ってくる。
そして、
「やっぱり付き合ってるっていうあの噂は本当なんだぁ〜。とうとう我らの専務も結婚しちゃうのね。」と、泣き真似をしながら去っていく先輩。
その先輩の背中を見つめながら、あたしは、
「そういうこと…ね。」
と、小さく呟く。
今日の会食に、社長と副社長が同席する理由は、先輩が言う通りそれしかないだろう。
それじゃなきゃ、ハードスケジュールの2人が急遽ラファエルに会いに来る理由が見つからない。
刻々と出発の時間が迫る中、あたしはつい数日前の
『ここからは正式にオトしにいかせてもらう。』
という専務の言葉を思い出し、デスクでため息をついていた。
………………
会食は予定通りスムーズに進んだ。
個室に最後のデザートが次々と運ばれていき、あたしと西田さんも部屋の死角になる場所でホッと一息付いた時、
ラファエルが言った。
「司くん、今度フランスに来ないかい?」
「はい、喜んで。」
専務は迷わずそう答えたけれど、スケジュール的にそれを許すかどうかは別の話だと言うことはお互い分かっているだろう。
それなのに、ラファエルは更に続ける。
「アリーナの兄が大のゴルフ好きでね。一度司くんと一緒に回りたいと言ってるんだ。」
「光栄です。ゴルフはそれほど得意ではありませんが。」
「いいんだよ、そんな事は重要じゃない。
ただ、早いうちに君のことを身内に紹介しておきたいと思ってね。」
「……。」
「アリーナの結婚相手がどんな人か、私の妻も知りたいようだから。」
かなり踏み込んだ話の内容に、隣にいた西田さんがゆっくりと死角から抜け出し個室へと入る。
それを追ってあたしも慌て西田さんの後につく。
「パパ、司とはそんな…、」
アリーナが戸惑ったように言うと、
今度は社長が口を開いた。
「ラファエル氏、今日はじめてアリーナさんにお目にかかって驚きました。こんなに素敵なお嬢様だとは。息子の司ともいい関係だと聞いていますので、ぜひお近付きになれたらと思っています。」
そう言って両家の親がにっこりと微笑んだ時、専務の声が個室に響いた。
「申し訳ありません。
ご期待に添えそうにありません。」
頭を深く下げる専務。
その場の空気がピーンと張り詰める。
和やかなムードが一瞬にしてピリついたものに変わり、マズイと思ったのか、西田さんが
「専務。」
と、小さく声をかけた。
その声に専務が振り向き、その視線があたしと絡まった。
真っ直ぐに見つめてくるその視線に耐えられずに俯くと、それと同時に専務が言った。
「他に好きな女性がいます。」
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