「悪いと思ってるなら、ご飯ご馳走してくださいっ。」
牧野にそう言われてから、1週間後の週末。
ようやく、2人の都合が合って食事に行くことが決まった。
朝からソワソワと落ち着かない。
そんな様子は西田にもバレバレで、
「夕方までは仕事に集中してください。」
と、嫌味まで言われる始末。
3年ぶりに帰国した日、総二郎に強引に参加させられた茶会で牧野に再会した。
ステージ上からでもすぐにあいつを見つけ出した。
未だに牧野を忘れられない俺にとって、最高のプレゼントなのか、それとも、
ようやく胸の痛みが和らいでいた俺にとって最悪の再会なのか。
茶会が終わり帰る準備をしてホテルを出た俺の携帯に、総二郎から
「牧野が探していたぞ。」
と、電話が入った。
あいつが?
俺に会いに?
迷わず向かった牧野のマンションで、
「好きです。すごく好きなんです。」
と、衝撃の告白を受ける。
3年前の俺だったら、そこですぐに牧野を押し倒して食っていたかもしれねぇ。
けど、俺も成長したもんだ。
「考えさせてくれ。」
なんて、余裕の返事をぶちかまし、形勢逆転。
もちろん、返事は決まってる。
俺だって、3年前から気持ちは変わっていない。
一生、この失恋から抜け出せねぇなんて思っていたのに、
今は牧野と話すたびに「好きだ。」という言葉を聞けて最高に幸せだ。
だから、そろそろ俺もきちんと返事をしたい。
今日のデートであいつに気持ちを伝える。
約束の7時。
まずは、行きつけの和食屋に牧野を誘った。
今日の牧野は、先日ミュージカルに行った時と同じワンピース姿。
自分で着てこいと言っておきながら、その可愛さに直視できない。
いつも仕事柄スポーティーな服装が多い牧野だけれど、華奢な身体にこういう女らしい服装もピッタリとはまる。
目の前で大きな口を開けて和食を食う牧野は
「美味しい。幸せ〜。」
という言葉同様、ニコニコと嬉しそうに笑う。
そして、お腹も満足した頃、総二郎から教えてもらったおすすめのバーに移動した。
ホテルの最上階にあるバーは一面がガラス張りになっていて、どこに座っても夜景が見れるデートスポットらしい。
今まで連れて来た女はみんな歓声をあげて喜んだと総二郎があきらに言っているのを盗み聞きし、早速牧野をそこに連れ込んだ。
総二郎が言う通り、窓に沿って備えられたテーブル席にはカップルが寄り添うように座っている。
照明も程よく落とされていて雰囲気も悪くない。
牧野と隣に並んで座ると、思った以上に距離が近くて下心が抑えきれねぇ。
スカートの裾から見える白い脚にも視線が行き、久しぶりにその肌に触れたいと身体が疼き始める。
カクテルを2杯ほど飲んだところで、俺はたまらずに聞く。
「なぁ、この3年間、彼氏は?」
「はぁ?いないに決まってます。」
呆れたように言うこいつに顔が緩む。
「道明寺先生は?」
「……どうだったかな。」
「なにその、はぐらかした答え。」
「彼氏、なんで作らなかった?」
「だって、…それは…」
「ん?」
「ずっと、好きだったから。」
そう言って酔っているのか少し潤んだ目で俺を見つめる牧野に我慢出来ねぇ。
もう少し焦らして、もう少し好きだと言わせてから、
そんな余裕もガタガタと崩れ、俺は牧野のツヤツヤした唇に引きつけられるように顔を近づけた。
あと数センチでキス……、
そう思ったのに、牧野が手で自分の唇を塞ぎやがった。
「ダメです。」
「なんでだよ。」
「こういうことは、ちゃんと返事を貰ってからじゃないと。」
思わず、クスッと笑いが漏れる。
相変わらず、ガードが高い女。
潤んだ目で好きだとか言っておきながら、ルール違反は許さねぇ。
まぁ、そんな所も堪らなく愛しいから仕方ない。
「OK。場所変えるぞ。」
このホテルに部屋を予約してある。
そこに入った瞬間に、3年分の想いを伝えてやるよ。
そう思いながら、牧野を連れてエレベーターへ向かうと、
俺らが行くのと同時に、エレベーターの扉が開いた。
「おー、司。」
驚いたように、そして、面白いものを発見したような顔で俺を呼ぶ総二郎。
「総二郎、なんでここに?」
「あ?それはもちろんデートだよ。
っつーか、お二人さん。こんな所で会うって事は、もしかしてようやくヨリが戻ったってことか?」
こうしてニヤリと笑う総二郎は一番危険だ。
「うるせぇ。早く女の所に行けよ。」
「ったく。この3年、どんだけ司の酒に付き合ったと思ってんだよ。
牧野先生、こいつはね、俺らがNYに会いに行く度に酔って牧野、牧野って…」
「総二郎っ!!てめぇ、それ以上言ったら、」
「いや、言わせてもらうよ。
こいつは3年間、牧野先生の事がずっと忘れられなくて、3ヶ月前に飲んだ時も酔いつぶれて俺が担いで連れて帰ったんだ。
だから、この間の茶会の参加者リストに牧野先生の名前を見つけた時に、失恋から立ち直れねぇ司の為に人肌脱いでやろうかと思って、こいつをゲストに呼んだんだよ。」
ペラペラ喋る総二郎のケツに軽く蹴りを入れて、
「それぐらいでいーだろ。
あとは自分で話す。」
と、俺は言って、総二郎の肩をぐいっと押してやる。
すると、今度は総二郎がペチッと強めに俺の背中を叩いたあと、
「もう、酔ったおまえの看病は懲り懲りだから、しっかりやれよ。」
と、笑いながらバーへと消えていく。
残された俺たち。
開いたままのエレベーターに乗り込むと、扉が閉まってすぐに、牧野が言った。
「道明寺先生。」
「ん?」
「あたしのこと、好きですか?」
ここまで来たら、もう観念するしかねぇ。
「…ああ。」
「別れてからも、ずっと?」
「ずっと。」
「じゃあ、今すぐ返事聞かせてください。
あたしともう一度付き合って貰えますか?」
俺を見上げて真っ直ぐにそう言う牧野。
「ああ。」
そう返事をすると、いきなり俺のワイシャツの襟を掴んでグイッと下に引き寄せる。
そして、最後に、凶悪に可愛い事を言いやがる。
「じゃあ、…キスして、…ください。」
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コメント
更新ありがとうございます。
嫌なことがあり 夜寝れない日も
こちらのサイトで癒されて寝てます。
今夜もそう。
今回もジレジレですが次回はきっと
きゅん❤️ですね。
あーこんな司に会ってみたい。