My teacher 31

My teacher

ミュージカルはとても素晴らしかった。
隣に道明寺先生がいる事さえ忘れて見入ってしまい、あっという間に時間が過ぎていった。

時計を見ると、21時半。
家を出るときに菓子パンをひとかじりしてきただけだから、お腹が空いている。

この後、道明寺先生と一緒にどこかに……、
そう思いながら席を立ち、並んでロビーへと歩いていると、
後ろから、「道明寺さん。」と呼ぶ声がしてあたしたちは振りかえった。

「道明寺さん、ご無沙汰しています。」
そう声をかけて来たのは、50代くらいのご夫婦。

「あっ、どうもご無沙汰しています。
お元気でしたか?」

「はい。
いつ日本に?
楓さんから度々司さんの事は聞いていましたが、NYにいらっしゃったのでは?」

「一時帰国しています。2週間後にはまたむこうに。」

親しそうにそう話すご夫婦と道明寺先生。
楓さん……と言う事は、お母様の知り合いだろうか。

あたしは人の流れに任せてそっとその場を離れて、化粧室へと向かった。
そして、10分後。
化粧室から出たあたしは、道明寺先生を探すためさっきの場所へ行ってみると、
まだ、道明寺先生とご夫婦は笑いながら話をしていた。

ふと、道明寺先生と目が合う。
あたしは、口だけを動かして道明寺先生に伝えた。

『先に帰ります。』

彼は一瞬、え?という顔をしたけれど、あたしはニコッと笑って出口へと向かった。

もう時間も遅い。
道明寺先生は、あのままご夫婦とどこかへ行く事になるかもしれない。

私はせっかくお洒落もしてきたし、会話もほとんどしていないから一緒に居たいのは勿論だけど、彼の大切な時間を奪ってまで自分の気持ちをアピールするつもりはない。

劇場の前に止まっているタクシーに乗り込むと、素晴らしかったミュージカルの余韻に浸りながら帰路についた。

マンションに着き鍵を開けるのと同時に携帯が震える。
画面を見ると、つい先日再登録したばかりの道明寺先生の番号だ。

「もしもし。」
そう出ると、

「どこにいる?」
と、道明寺先生が言った。

「今、マンションに着いたところ。」

「…悪かったな、送ってやれなくて。」

「大丈夫です。
もう遅いし、明日も仕事だし。」
そう言いながら、慣れないヒールを脱いで部屋に入ると、

「…なんか、すげぇあっさりしてんな。」
と、道明寺先生が呟くのが聞こえた。

「え?」

「好きだとか言っておきながら、随分あっさり帰りやがって。」

そんな風に言われるのは心外だ。
拗ねたような口調でそう言う道明寺先生に、
あたしも負けじと拗ねて言う。

「あっさりなんてしてませんっ!
もっと一緒に居たかったし、お腹もペコペコだからご飯だって食べたかったし、ヒールで足も痛かったから家まで送って貰いたかったです。」

さすがにここまで駄々をこねると恥ずかしいけれど、道明寺先生はクスッと笑った後言った。

「プッ…
悪かったな、怒んなって。」

「…悪いと思ってるなら、
ご飯ご馳走してください。」

付き合ってる時でさえ、こんな事を言った事はない。
でも、今はどんな理由を付けてでも道明寺先生との約束を取り付けたい。

「土曜の夜、空いてるか?」

「うん。」

「何時がいい?」

「出来るだけ早く、…会いたいです。」

自分で言って、顔がじわじわと熱くなるのが分かる。
すると、その火照りを助長させるかのように、道明寺先生が言った。

「今日の服、すげぇ似合ってたから、
同じ服装で来い。」

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ
にほんブログ村

ランキングに参加しています。応援お願いしまーす⭐︎

コメント

タイトルとURLをコピーしました