My teacher 28

My teacher

3年ぶりに見る道明寺先生は、あの頃と少しも変わってなくて、あたしの記憶の中にある彼そのものだった。

ステージ上に現れた時は緊張しているのか固い表情だった道明寺先生も、半年ぶりに会うという西門さんと話しているうちに、笑顔が漏れ客席を魅了していく。

あたしが好きだった優しい笑顔。
柔らかくてふわふわとした髪。
大きくて頼もしい肩。

ステージ上の道明寺先生を見つめるあたしの視界がいつの間にか涙で歪んでいく。
泣くなっ。
そう頑張っても溢れる涙は頬を伝い落ちる。

慌てて生徒に気付かれないように涙を拭っていると、
「牧野先生、大丈夫ですか?」
と、隣の生徒が言った。

「ん、大丈夫。ちょっと…コンタクトがずれちゃって。」

そう言って誤魔化してみたけれど、あたしの涙腺は完全に崩壊してしまったらしい。
懐かしさや嬉しさ、そして後悔…色んな感情が一気に溢れ出し、涙が止まらない。

大きく息を吐き目を閉じて、落ち着けっと自分に言い聞かせる。
そして、深呼吸をした後ステージに再び視線を戻した。

すると………、
真っ直ぐにあたしを見つめる道明寺先生と目があった。

いや、そんな気がしただけかもしれない。
ステージからあたしの席まではかなり遠くて、見えるはずがない。

咄嗟に視線を逸らして下を向いたあたしは、もう一度ゆっくりと顔を上げた。

そこには、やっぱり、
あたしを真っ直ぐに見つめる道明寺先生がいた。

………………

「じゃあ、今日はここで解散ね。
月曜は、授業が終わったら部室に集合すること。」

「はーい。」

お茶会のイベントが終わり、ホテルの一階で生徒たちと最後の挨拶を済ませ解散した。

近くの地下鉄の駅まで歩きながら、あたしはさっきの事を考えていた。
あれは、間違いなく道明寺先生と目が合っていた。
驚いたようにあたしの顔をじっと見ていた道明寺先生。

トークショーが終わると、大きな拍手と共に西門さんとステージ裏へ消えていった。
それと同時に客席側も、どっと人が出口へと流れ始めた。

結局、会うことも話すことも出来ず、帰ってきてしまった。
今更、会って何を話すというのか。
そもそも、別れた彼女と話したいなんて思っていないだろう。

カツカツカツ…
足音を響かせながら地下鉄の階段を下りていく。
そして、あと数段で駅のホームに辿り着くというところで、あたしの足がピタリと止まる。

ねぇ、本当にこのままでいいの?
この3年間、ずっと後悔してきたんでしょ?
あたしの頭の中がそう鳴り響く。

もう、2度と会えないかもしれない。
もう、彼を思い出して泣く事がないように、
道明寺先生に伝えたい事があるんじゃない?

そう思ったあたしは、今来た道を猛ダッシュで駆け戻っていた。

ホテルに戻ると従業員がイベントの後片付けをしている。
そのうちの1人にあたしは、
「あのっ、今日トークショーに出ていた道明寺さんはもう帰られましたか?」
と、ダメ元で聞いてみた。

「えーと、道明寺さんですか?」
と、怪訝そうに聞き返されて、あたしは慌てて、

「あっ、知り合いなんです。昔、一緒に働いていた事があって…、」
と、咄嗟に言葉が出る。

「そうですか。
トークショーは30分前に終わってますので、もう帰られたかもしれません。」

「です…よね。」

勢いで来たのはいいけれど、会う術を何も持っていない。
携帯の番号も、別れてすぐ未練を断ち切るために削除してしまっている。

どうしようか…と立ち尽くしていると、突然後ろから
「牧野先生?」
と名前を呼ばれた。

「西門さんっ!」

「どうしたの?何か忘れ物?」

「あー、いえ……、」

ここで口籠もるのは、いつものあたしの悪い癖だ。
道明寺先生に会う…そう決めたんだから、もう迷っている時間はない。

「あのっ、道明寺先生に会いたくて戻ってきたんです。
もう、帰りましたか?」

「司?さっきホテルを出たよ。」

「これからどこに行くとか聞いてます?
良ければ、道明寺先生の携帯番号教えてもらえませんか?」

矢継ぎ早にそう言うあたしを、クスッと笑って見つめた後、
西門さんが言った。

「司は今夜はメープルホテルに泊まるはず。
まだホテルに入るには早いから、もしかしたら会社か邸に寄ってるかもしれない。
電話して聞いてみたらいいよ。」

そう言って、道明寺先生の携帯番号を教えてくれた西門さんは、
にこりと笑いながら、
「司と一緒に今夜は呑もうかと思ってたけど、牧野先生に譲るよ。」
と、からかうようにあたしの耳元で囁いた。

……………

道明寺先生の携帯に何度電話をしても繋がらない。
虚しく呼び出し音が鳴るだけ。
結局、メープルホテルの前まで来てしまった。

電話に出ない、それが何を意味しているのだろうか……。
仕事で出られないのだろうか、それとも、
拒否されているのか。

そう考え始めると、会うのが怖くなってくる。
別れてから3年もたったのだ。
もう新しい彼女だっているかもしれない。
こんなストーカーまがいのことをして、嫌われるのがオチだろうか。

ホテルの前でそうぼんやりと考えながら、夜風に当たっていると、ようやく思考が冷静さを取り戻してくる。
イベントが終わってからもう4時間がたった。
あたしも疲れがピークに達している。

電話はもう何度もした。
着信履歴はのこっているはずだから、
彼にその意思があれば、かけてきてくれるだろう。
電話が来なければ、…それが答えということだ。

慣れないヒール靴で踵には血が滲んできている。
ズキズキとした痛みに耐えながら、あたしはマンションへと戻った。

………………

イベントが終わり5時には帰ってこれると思っていたのに、ようやくマンションが見える頃には、もう時計は9時を過ぎていた。
すっかり夜ご飯も食べ損なってしまった。

何か冷蔵庫にすぐ食べられる食材はあるだろうか…
そう思いながら、鞄から鍵を取り出そうとゴソゴソ探していると、

「おせーぞ。どこウロウロしてたんだよ。」
と、言う声。

顔をあげると、
そこにはポケットに手を入れて機嫌悪そうにこちらを見ている
道明寺先生がいた。

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コメント

  1. みー より:

    「わぁーーー!」
    更新ありがとうございます。
    会社でこっそり見てたのに
    雄たけびあげました(;’∀’)

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