My teacher 27

My teacher

3年後

「牧野先生、集合写真撮りますか?」

「あー、そうだった。
着物が着崩れしないうちに撮っておこうか。」

「はい。
じゃあ、みんなー、集まってー!」

着物に身を包んだ部員6名がホテルのロビーにある
『秋のお茶会』という大きな案内板の前に集合する。

「なんか、みんな表情硬いよっ。」

「だって、腹が苦しいっす。」

「何言ってんのよ。これから2時間は着物でいなきゃならないのよ。
じゃあ、撮るわよ。こっち向いて笑ってー!」

今年、星稜高校にも新しく茶道部が発足した。
体育会系のうちの学校に、まさか茶道部が出来るとは夢にも思っていなかったけれど、
3年前、ある人に冗談混じりに、「いつか星稜高校にも茶道部が出来るかもしれねーだろ。」と言われた事が現実になったのだ。

部員は3年生4人を含めた6人。
まだまだ部員も活動も少ない為、私がバレー部と兼用で受け持つことになった。

今日は一年で一番大きなイベント『秋のお茶会』が◯◯ホテルで開かれている。
高校生たちのパフォーマンスや、主催者である西門総二郎さんの講演会という名のトークショーも開かれる。

お茶会に参加するのは部員6名みんな初めてで、着物を着付けてもらって緊張気味の表情。
これから、近隣の生徒たちと一緒にお茶の作法の勉強会をした後、実際に実践して指導を受けることになっている。

「じゃあ、講演会が始まる10分前には会場に集合する事。
部長は人数を確認して、私に報告してね。
勉強会には二条高校の白川先生が付き添ってくれるそうだから、ご迷惑かけないようにしっかりね。
私は会場内を見て回っているから、何かあったら携帯にすぐに連絡して。」

「了解でーす。」

そんな会話をして緊張気味の生徒たちを見送った後、あたしはホテル内をゆっくりと巡回に行く。

お茶の道具が展示されたブースや、色とりどり鮮やかなお茶菓子が並んでいるブースを見て回るうちに、自然と記憶があの頃へと引き戻されていく。

3年前も、あたしはここに居た。
道明寺先生と一緒に。

初めて連れて来られたお茶会に戸惑いながらも、素敵な道具と美味しいお茶菓子に興奮したのを覚えている。
ドキドキと胸が鳴っていたのは、今思えばお茶会という理由だけではなく、隣に道明寺先生が居たからかもしれない。

あの低い声、長い指、癒される香り……
そこまで考えて、慌ててあたしは頭をブンブンと振った。

ダメダメっ、
それ以上、考えるなっ!
この先を考えて、いつも自滅しているじゃないか。

道明寺先生と別れて3年がたった。
あたしにとって、とても辛くて長い3年だった。

食べれず眠れず、気持ちがどん底まで落ち込んだ1年目。
考えるのをやめ、ひたすら仕事に打ち込んだ2年目。
そして、ようやく彼を思い出す回数が減ってきた3年目。

でも、気を緩めると不意打ちで思い出が蘇り、涙腺が崩壊する惨事を何度も味わってきた。

何年経てば、彼の事を忘れられるのだろうか。
別れを選んだあの時は、こんなに道明寺先生を愛していたなんて気付いていなかった。
もう一度あの時に戻れるなら……。

そんな事を何度も考えて、何度も打ち消した。
もうあたしたちは終わったのだと。

………………

講演会の時間が近づいてきた。
トークショーは300人ほどが入れるホールで行われる。

15分前にホールに入ると、もうすでに星稜高校の生徒たちが集まっていた。

「6人全員いるわね?
席は決まってるから行きましょう。」
そう言ってあたしは生徒たちと、後ろから5列目の座席に腰を下ろした。

茶道部ができてまだ日も浅く部員数も少ないうちの学校は、こういう割り当て席も他の学校に比べて後ろの方になるのは仕方がない。
3年ぶりに見る西門さんの顔も、ここからではほとんど見えないかもしれない。

そんな事を思っていると、ホールの明かりが最小限に落とされ、
「お待たせいたしました。それでは、本日のお茶会の主催者であります西門総二郎さんに登場して頂きます。」
という司会者の挨拶と共に、素敵な着物に身を包んだ西門さんがステージに現れた。

その瞬間、目がクラクラするほどのカメラのフラッシュがたかれ、大きな拍手が湧き上がる。
西門さんの人気は相変わらず絶大で、うちの部員も身を乗り出してステージ上を見つめている。

45分間のトークショーは西門さんの巧みな話術であっという間に時間が過ぎていった。
お茶目なお喋りでお客さんを笑わせたかと思いきや、真剣に茶道を語り感動を誘う。
毎年開かれるこのお茶会がいつも賑わっている理由が納得できる。

暗闇で腕時計を見ると、そろそろ終わりの時間が近づいていた。
講演会が終われば、生徒たちともここで解散になっている。
夜ご飯は、何にしようかな、どこかで買って帰ろうか…
そんな事をふと考えていた時、
西門さんが言った。

「実は、今日、スペシャルゲストを呼んでいまして…、
僕の幼馴染で、皆さんも一度はその名を耳にした事があると思いますが、
彼がちょうど日本に帰国していたので、ぜひトークショーに参加してくれないかと声をかけたらゲストに来てくれました。
ご紹介します、道明寺ホールディングス副社長の道明寺司さんです。どーぞ。」

その言葉と共に、ステージ上に現れたのは、
あたしが、忘れようと何度も何度も戦った、
3年ぶりに見る、道明寺先生だった。

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コメント

  1. T より:

    キャーー。
    続きが楽しみすぎます。

  2. クラゲ より:

    早く続きがよみたいです‼️

  3. m より:

    おぉーーー‼️
    いきなりの3年後のお話にびっくり。更新の速さにも 嬉しさ満載のびっくり ありがとうございます

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