My teacher 20

My teacher

「ここですか?」

あたしは、いかにも高級そうなマンションを眺めながらそう呟いた。

「ああ。」

「すっご!」

そう叫びながら、
あー、そうだった、この人は道明寺財閥の息子さんだったんだ。
と、思い出す。

道明寺先生の住んでいるマンションは、教師という職業だけでは到底借りることが出来ないだろう建物で、改めてこの人が正真正銘のセレブなんだと思い知らされる。

道明寺先生に手を引かれ、エレベーターを上がり25階まで行くと、その階の一室にキーを差し込んだ。

部屋に入ると、香水なのかルームフレグランスなのか、道明寺先生の香りが漂っている。
モノトーンのシンプルな家具と、モダンな絨毯。
綺麗に整頓された室内はまるで展示場のようだ。

「何か飲むか?」

「あ、いいえ、大丈夫です。」

「ソファに座ってろ。上だけ着替えてくる。」

そう言って奥の部屋に入っていく道明寺先生。
あたしは言われるがままにソファに座り、キョロキョロと部屋の中を見回す。
これが女友達の家なら、興奮してはしゃぎながら家中を探索して回るのに。
さすがに、初めてくる彼氏の家でそれは無いだろうと、自分を制しておとなしく待っていると、

半袖シャツに着替えた道明寺先生が部屋から戻ってきて、キッチンへと向かった。

「コーヒー淹れるから、飲もうぜ。」

「はい。」

あたしも手伝おうと思い立ち上がると、旅先で買ってきたマカランの存在を思い出す。
ハート型のマカロンを本人の目の前で開ける勇気はない。
だから、

「これ、あとで食べてください。
冷蔵庫に入れておきますね。」
と言ってキッチンの隅にある冷蔵庫をそっと開けると、

そこには、容器がずらりと綺麗に並び、その中は色とりどりのおかずが用意されている。
確か、お昼ご飯を食べている時に、「料理はほとんどしない」と言っていたはず。

ならば、この料理は…。
まるで、甲斐甲斐しい彼女が作ったような。
一人暮らしの男性の冷蔵庫とは思えない光景に、
あたしは、見ちゃいけないものを見たような気がして慌てて閉めた。

付き合って2週間。
密かにファンクラブも存在するような人が、あたしなんかと真剣な交際をするだろうか。

もしかしたら、こうして料理をしてくれる女の人がいても不思議ではない。
だから、今日のデートも誰にも会わないように遠出をしたのかもしれない。
今日会ったあの綺麗な女性も、もしかして?

考えれば考えるほど、良くない方へ思考が向うあたしは、
道明寺先生に腕を掴まれ、ようやく現実に引き戻される。

「どうした?」

「え?」

「冷蔵庫の前で動かねーから。」

あたしの顔を心配そうに見つめる道明寺先生と、うまく目線を合わせられない。

すると、突然あたしたちの背後でピンポーンという音と共にガチャっと玄関が開く音がした。

そして、
「いるのー?」
と、女の人の声。

やっぱり…あたしの予感は的中か?
ここに出入りしている女の人がいて、その人と鉢合わせする修羅場が頭を駆け巡る。

そんなあたしと道明寺先生の前に現れたのは、
以前、道明寺邸でお世話になった、道明寺先生のお姉さんだった。

「司ー、いるのー?」
そう言いながら部屋に入ってきたお姉さんは、あたしと道明寺先生を見て一瞬固まったあと、

「あら、ごめんなさい。
あたしったら、お邪魔だったかしら。」
と、目を丸くして驚いている。

「いえっ、」
「ああ。」

同時に答えるあたしと道明寺先生。

「なによ、居るならいるって言ってよ。」

「言う暇もねーくらい勝手に入ってきてんだろ。」

「だって、いつもの事だからいーかなと思ったのよ。」

そう言いながら、キッチンへ歩いてきたお姉さんは、
あたしを見て
「つくしちゃん、久しぶりね。」
と、にっこり笑う。

「お久しぶりです!
先日はお世話になりました。」

「いいのいいの、気にしないで。
それより、……司、つくしちゃんを部屋に連れ込むなんていやらしいわね。」

「あ?うっせー。」

「襲われたりしてない?つくしちゃん」

「し、してませんよっ!」

慌てて答えるあたしに、道明寺先生は
「まともに相手すんな。」
と、耳元で囁く。

そんなあたしたちを見て、お姉さんが言う。
「ここにつくしちゃんが居るって事は、2人は付き合うことにしたのね?」

「…ああ。」

「良かったわね。
つくしちゃんが好きで堪らないって言ってたものね、司。」

「バカっ!そんな事言ってねーじゃん。」

「照れなくてもいーの。
私もようやく安心できるわ。
毎週毎週、いい歳した弟の為に冷蔵庫の中身を補充しなくて済むんですから。」

あぁ、そうか。
冷蔵庫のおかずはお姉さんが持ってきていた物なんだ。
それを知って、さっきまでのモヤモヤした気持ちが晴れると共に、なぜだか涙腺が緩む。

じわっと目に涙が溜まりかけたあたしに、
お姉さんが驚いた声で
「つくしちゃん?!」
と、あたしを呼ぶ。

それにつられて、道明寺先生があたしを見て、
「おまえっ、なんで泣いてるんだよ。」
と、あたしの顔を覗き込む。

「大丈夫ですっ、なんでもなくて、」

「あたし、何か泣かせる事言ったかしら?」

「違いますっ、違うんです。
あたしが勝手に勘違いして……。」

「勘違い?」
不思議そうにあたしを見つめる2人。
その視線に耐えられず、あたしは言う。

「冷蔵庫に並ぶ料理、てっきり誰か作ってくれる人が道明寺先生には居るのかなーなんて考えたりして、」

「…牧野っ、」

道明寺先生が何か言おうとするのを制するようにお姉さんがあたしに言った。

「つくしちゃん。
あのね、色々目立つ弟だから誤解するのも当然だけど、
でも、姉のあたしが胸を張って断言するわ。
司は、二股をかけたり軽々しく好きだって言ったり、そういう器用な事はできない男なの。
だから、司に好きだって言われたら、ものすごーく愛されてると思って間違いないわよ。」

お姉さんのその言葉に何も反論しない道明寺先生は、
「ねーちゃん、そろそろ帰れよ。」
と、照れ臭そうにお姉さんの肩を押して玄関へと誘導する。

「ちょっと、せっかくつくしちゃんに会えたんだから、もう少しゆっくりさせてよっ!」

「うるせー。ほら、邸で旦那が待ってるぞ。」

「いーのよ。少しくらい遅くなっても。」

「はっきり言ってやろーか?
邪魔だから帰ってくれ。」

「酷いわねっ。
つくしちゃん、またゆっくりお話ししましよー。」

道明寺先生に肩を押されながら、あたしに大きく手を振るお姉さん。
それにあたしも笑顔で頭を下げた。

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コメント

  1. はな より:

    椿さん、ステキ
    一生着いていきます!

  2. m より:

    司一筋さん、いつも楽しく読ませていただいています♥
    コロナ禍でどこにも行けず職場と自宅の往復の日々ですが、自宅で大好きなつかつくの話を読むのを楽しみにしています!

    道明寺先生と牧野先生の話もいよいよラブラブと楽しみです☆

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