一週間の出張スケジュールを3日に凝縮させたのだから、死ぬほど辛かったのは言うまでもない。
なんとか予定していた業務を片付けてジェットに乗り込んだあとは日本までのフライトをただひたすら眠った。
日本到着は夜の10時過ぎ。
この時間なら牧野も仕事から帰ってきているだろう。
プライベート滑走路に降り立った俺は、邸のエントランスまで車を飛ばす。
その間、NYで何度も練り上げた『言葉』を頭の中でリピートする。
『牧野、おまえをこの先も一生大事にする。
だから、俺と…………』
使用人たちが待ち受けるエントランスを早足で駆け抜けて、邸の東部屋へと向かった俺は、牧野の部屋の前で立ち止まると、ゆっくりと扉をノックした。
「…………。」
「牧野?」
「…………。」
「開けるぞ。」
いつまでたっても返事のないその扉を開けた俺は、部屋の中を見て固まった。
ゆっくりと部屋の中へ足を踏み入れる。
そこは、この2ヶ月すっかり牧野の居場所となっていたはずの暖かみはどこにもなく、荷物もすべて消えていた。
元々そうだったように、ただの殺風景な客間へと戻っていたのだ。
『俺が戻るまで待ってろ。』
そうメールで送った俺は完全に牧野がまだこの邸にいると勘違いしていた。
でも、現実はそうじゃなかった。
そう思うと、体から一気に力が抜けていく。
「はぁーーーーー。
ったく、マジかよ……。
指輪まで用意して舞い上がってたのは俺だけかよ。」
そう呟きながら床に座り込む俺。
出張の疲れと、目の前の現実へのショックで、体育座りのまま頭を垂れる。
と、その時、
「道明寺?」
と、後ろから声。
聞き間違いか?と思った瞬間、また、
「道明寺、大丈夫?」
と、愛しい女の聞き慣れた声がする。
ガバッと顔をあげ後ろを振り向くと、そこにはタオルに包まれて顔だけ覗かせた赤ん坊を抱いた牧野の姿。
「牧野っ。」
「な、なに?そんな大きな声だして。
今寝たところだからシーっ!」
ガキを見ながらそう言って俺に人差し指を立てる牧野。
「そんなところに座り込んで、具合悪いの?」
小声で心配そうにそう言うこいつに、俺は無言のまま近付くと、ありったけの力で抱きしめてやった。
『あせらすんじゃねーよ。
おまえが出ていったかと思った。
もう、おまえの帰る場所はここ以外どこにもねーんだよ。』
そんな想いを伝えるかのように力いっぱい牧野を抱きしめた俺に、
腕の中のこいつは、あり得ねぇほどの大声で、…………叫んだ。
「ギャーーーーーーっ!
離せっ、ばかっ!」
「いってぇーっ。蹴るなってっ。」
「あ、あ、あんたっ、赤ちゃんが窒息するじゃないのっ!
ほんと、相変わらず無駄にバカ力発揮するんだからこの男は、もぉーっ、」
俺を睨みながらもガキを起こさねぇようにユラユラあやすこいつに、俺は思わず愚痴る。
「おまえが消えたかと思ったんだよ。」
「はぁ?消えた?」
「ああ。おまえ荷物どーした?
もう全部片付けたのかよ。」
綺麗になった部屋を見ながらそう言うと、
牧野は「あぁー、それね。」と呟いたあと、急に真面目な顔をしやがって俺に言った。
「道明寺、あたし、あんたに大事な話があるの。」

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