朝目覚めると久しぶりに腕の中にいる牧野の姿に、自然と笑みが漏れる。
起こさないようにその寝顔をひとしきり堪能したあと時計を見ると7時半。
土曜の今日は急ぎの仕事もねーし、もう一眠りしようかと再び瞼を閉じたとき、部屋の向こうからノックの音がした。
その音に牧野の瞼がかすかに揺れる。
ったく、こいつが気持ちよく寝てるっつーのに、邪魔する奴は誰だっ。
心の中で悪態を付きながらベッドを抜け出し、昨日脱いだ下着とズボンを手早く履くとドアを開けた。
「なんだよ。」
使用人かと思って開けたドアの向こうには、
ババァの姿。
「…………。
部屋を間違えたかしら?」
「…………いや、」
罰が悪そうにそう呟くだけの俺に、
「まったく、彼女は怪我してるっていうのにあなたって人は……。」
と、呆れた顔で俺を見る。
「牧野さんは?」
「まだ寝てる。
もう少し寝かせてやってくれ。」
「休みの日なんですからゆっくり休んで頂戴。
午後からドクターが往診に来るわ。
そのときに私の部屋に。」
そう言い残して立ち去るババァは、ドアを閉めようとした俺に、
「傷が悪化してたらあなたのせいよ。」
と、嫌味も忘れない。
午後からの往診はババァの応接室で行われ、宗太も見守るなか傷の消毒とテープの交換だけで済んだ。
牧野が『たいしたことない』といってた通り、傷口はくっついていて心配なさそうなのを見て、宗太も安心した様子。
ガタガタ……ガタガタ……
「なんか騒々しいな。」
ババァの部屋の窓から真下にあるエントランスを見下ろすと、脚立などを持った作業員たちが出入りしている。
「何かあるのか?」
「部屋の改装作業をしているのよ。
今週中には終わるから我慢して頂戴。」
ババァの返事を聞いて、そう言えば2週間前にタマからも同じような話を聞いたことを思い出す。
「姉ちゃんの部屋の改装か?」
「……まぁ、そんなところね。
さぁ、治療は終わりよ。
私は宗太を連れて椿のところに顔をだして来るわ。
あっ、それと牧野さん、」
「はいっ、」
突然名前を呼ばれて姿勢を正す牧野に、ババァは少しだけ笑いながら言った。
「あなたの部屋に鍵、付けましょうか?
何やら昨日も侵入者がいたようですから。」
固まったあと、ババァが言った意味を一瞬にして理解した牧野はすげぇ真っ赤になりながら俺を睨み付けてくる。
そんな視線は無視して、こいつの肩に腕を回しながら、
「俺らはせっかくの休みだから外に食事にでもいこうぜ。」
俺はそう言ってばたつくこいつを拉致ってやった。
ババァの部屋から出た途端、
「ちょっとっ!さっきお母さんが言ってた意味、どーいうこと?!」
と、俺に噛みつく牧野。
「気にすんな。」
「気になるっつーの!
きちんと話してっ。」
「……朝、おまえの部屋にババァが怪我の様子を見に来たんだよ。」
「……まさか、」
「ああ。俺が出た。」
「…はぁー、うそでしょ。あんた………服は?」
「辛うじて下だけ。」
「…………バカっ!バカバカバカバカっ!
もうっ、信じらんないっ。」
泣きそうになりながら俺に抗議してくるこいつに、俺は腹の底から笑い、
「機嫌なおせ。」
そう言って横抱きに抱えると、使用人が驚くのも気にせず部屋へと歩いていく。
今日はおまえの好きなもの食いにいこうぜ牧野。

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