牧野がこの邸で暮らすようになって1週間。
俺よりも早く出勤するこいつは、俺が朝食を食べにダイニングへ行く頃にはもう食後のコーヒーを飲んでいる。
「おはよう。」
「おう。…………朝から仕事かよ。」
「ん、少しね。」
今日もダイニングへ入っていくと、いつもの席にコーヒーを飲みながら座る牧野の姿と、隣にはババァの姿があり、何やら二人で書類を眺めながら話をしている。
「たぶん、この文面は必ず入れておいた方が後々何か問題が起きたときに対処しやすいと思いますよ。」
「じゃあ、別に項目を設けて記載した方がいいかしら。」
「そうですね、…………んー、今回の契約書はもう少し先方と詳細を煮詰めていかないといけないと思うので、そのときに顧問の弁護士と相談してはどうですか?」
「そうね、わかったわ。そうするわ。」
書類を眺めながら仕事の話を対等にしている目の前の二人を見ていると、昔、俺と牧野の仲を引き離そうと対立していたのが嘘のよう。
「司、宗太は?」
「タマと着替えてる。
っつーか、あいつなんとかしろよっ!
なんで毎日毎日俺のベッドで寝るんだよっ。」
「宗太がそうしたいって言うんですからしょうがないでしょ。」
「ふざけんなっ。
寝相はわりぃし、よだれは垂らすしよ、前みてぇにババァの部屋で寝かせろよ。」
「寝相もよだれもあなたそっくりよ。」
そのババァの言葉にコーヒーを吹き出しそうになっている牧野。
ったく、今俺が愚痴った通り、宗太はここ最近ずっと俺の部屋のベッドで寝ている。
眠たい目を擦りながら俺が帰ってくるのを待っていて、一緒に眠る。
『先に寝てろ。』と言っても言うことを聞かねぇ。
おかげで、せっかく牧野がこの邸にいると言うのに、夜這いどころかキスさえさせて貰えていない。
さすがに……欲求不満だ。
これなら、別々に暮らしてた方がこの手のことには困らなかった。
今までなら牧野の部屋でしたいときに誰の邪魔も入らずすることができた。
それなのに、近くにいながら手を出せないっつーのは、地獄だな。
牧野が足りねぇ。
思いっきりこいつとイチャつきてぇ。
「道明寺?」
「…………。」
「道明寺?大丈夫?」
気付けば、牧野の顔をガン見してボーッとしていた俺に、心配そうに声をかける牧野。
「どうかした?具合でも悪いの?」
俺の顔を真剣に見つめてくる牧野に、ババァが席を立った隙を見て思わず言う。
「おまえさ……、おまえはしたくねーの?」
「……はぁ?」
「だから、そのぉ、……最近ずっとしてねーだろ俺たち。」
「なんのこと?」
キョトンととぼけた顔で聞き返してくるこいつは、たぶん俺が抱えてる欲求不満なんてこれっぽっちも感じてねーんだろうな。
そう思うと、
『したいと思うのは俺だけかよ。』
と、愚痴りたくもなる。
「いや、なんでもねーよ。」
「なによ、はっきり言いなさいよ。」
「口にしたら抑えが聞かねぇから言わねー。」
「なにそれ。」
かわいい顔で見るなバカ。
これでもすげぇ我慢してるんだぞ。
今日こそは早く宗太を寝かせて、おまえの部屋に行ってやる。
そして、今言えなかった分、俺の本音をおまえの耳元で何度でも言ってやる。
覚悟しろよ牧野。

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