結局、付き合って8年目にして初めて邸に牧野を泊まらせたのに、一緒に寝ることさえ出来なかった俺たち。
なぜなら、あのあとダイニングでシェフが用意したデザートを食べた俺たちは、車の中で爆睡して眠気が完全に吹っ飛んでいた宗太に、遅くまでトランプに付き合わされたのだ。
「もう一回、もう一回」
とおねだりする宗太に、
「あと一回だけだからねっ。」
と言いながらも最後まで付き合ってやる牧野。
そうして、結局12時近くまで遊んだ奴等は、俺が飲み物を取りに少し目を離した隙に、ベッドでトランプを握ったまま眠りに入ったようだ。
そんな二人を壁にもたれながら苦笑して見つめる俺に、いつのまにか部屋に入ってきていたババァが声をかけてきた。
「すっかりなついたようね、牧野さんに。
今日はあなたたちの時間を邪魔して悪かったわ。
牧野さんもせっかくの休みなのに、子供の相手をさせられて気分を害したんじゃないかしら?」
「そんな女じゃねーよ、あいつは。」
今日一日の牧野を思い浮かべて即答する俺に、
「フフ……そうね。」
と言って笑いながら立ち去るババァ。
そして、数歩進んでから急に振り返り、
「そういえば、私はダメだと言った覚えはないわよ。」
と突然怒ったように言い出した。
「あ?何がだよ。」
「タマから聞いたわ。
牧野さん、本当にここに泊まるのは今日が初めてのようね。
あなたたち、付き合って何年になるのかしら。
彼女がこの邸に出入りするのをまだ私が反対するとでも思ってるの?」
「……思ってねーよ。けど、あいつにはあいつなりにケジメがあるんだろ。」
「ケジメ?」
「……ああ。いくら付き合いが長くても、結婚前の女が相手の実家に泊まりに行くのはどうのこうのって、いつも昔くせぇこと言ってる。」
「フフ……相変わらず、頑固なようね。
でも、…………うまくいってるのよね、あなたたち。」
「どういう意味だよ。」
「いえ、長々と付き合ってるようだけど、いつになっても関係に変化がないようだから気になってたのよ。
弁護士として一人立ちした彼女に愛想でも尽かされたんじゃないかって。」
「うるせぇ。
心配してもらうようなことは何もねーよ。」
「そう、それはよかった。」
フフフ……と意味深に笑いながら、今度こそ部屋から出ていくババァを見つめ、こんな会話をババァとする日が来るとはあの頃の俺には想像できねぇことだと一人苦笑する。
ババァの言うとおり、もう俺と牧野の間にはなんの障害もない。
付き合いが長くなって今の位置関係がベストだと思う半面、あいつを道明寺の姓にして一緒に暮らしたいとも強く思う。
そんな葛藤を繰り返してきた俺は、今目の前に写るベッドに眠る牧野と宗太を見つめながら、
これが俺らの日常になったらいいなと
強く思っていた。
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