「それなら僕も、つくしの部屋に泊まる。」
当たり前……みたいな顔してそう言い出す宗太に俺は思わず怒鳴ってた。
「宗太っ、ガキだからってわがまま言ってんじゃねーぞ。
俺はな、月に何日もねえ牧野との貴重な休みを他の誰にも邪魔させねーからなっ。
何のために寝る間も惜しんで仕事してると思ってんだよっ。俺は誰がなんと言おうと、今日は牧野と過ごす!」
「道明寺っ!」
ババァを前にして、恥ずかしいことを口走ってる自覚はあるが、それでも貴重な牧野との時間を邪魔させるわけにはいかない。
そんな俺らを見て、
「宗太、いい加減にしなさい。
つくしちゃんと司にはたくさん遊んでもらったでしょ?
今日はここで二人にバイバイしようね。」
と姉ちゃんが宗太に言い聞かせる。
「やだよ…………グス……まだ……遊びた……かったもん……グス……。」
「また今度にしよう。ね、宗太。」
「……グス……」
生意気な宗太の目から大粒の涙が溢れだす。
姉ちゃんにいい聞かせられ、泣きながらもなんとか頷く宗太。
それを見て、複雑な気分になる俺の腕を隣にたつ牧野が引っ張った。
「ねぇ、道明寺、……ダメ?」
「あ?何がだよ。」
「だから……」
「ダメだ。」
牧野の返事も聞かず却下する俺に、プーとふくれる牧野。
「可哀想でしょ。」
「甘やかすな。」
「甘やかすとか、そう言うことじゃなくて。
どうせ、明日は二人とも休みなんだし、あたしの部屋にお客さん用の布団もあるから。」
「…………、」
「ね?ダメ?道明寺ぃ。」
俺の腕にピタリと体をくっ付けて、ババァたちに聞こえないように小さな声で交渉してくる牧野。
その必死さも、その健気さも、許したくねーのに、許してしまうほどめちゃくちゃ可愛くて、
…………ちくしょー、
こうなったら、もう完敗するしかねぇ。
「あ゛ーーーっ、わかったよ!」
突然でかい声をだした俺に、隣の牧野だけじゃなく、ババァも姉ちゃんも宗太も肩をビクッと震わせて俺を見る。
「しゃーねーなっ!
牧野の頼みだから聞いてやる。
宗太!今日だけ俺たちと一緒に牧野の部屋に行くか?」
「……いいの?」
「よくねーよっ!
けど、こいつがそうしてやれって言うからしゃーねーだろ。
時間が勿体ねーから行くぞ。」
俺がそう言うと、すげー嬉しそうに俺の顔を見上げてくる牧野。
そんなこいつに、耳元で
「おまえの頼みを聞いてやったんだから、今度俺の頼みも聞けよ。覚悟しておけ。」
そう呟いてやると、その意図を理解してるのか赤くなるこいつ。
「つくしちゃん、ほんとにいいの?」
「はい。大丈夫です。
あたしの部屋狭いから宗太くんには窮屈かも知れませんけど、それでも良ければ。」
「ごめんねほんとに。つくしちゃんにまで迷惑かけて。」
そう言って姉ちゃんがベッドの上から牧野に頭を下げる。
その時、それを見ていたババァが、突然立ち上がり俺と牧野に向かって言った。
「牧野さん、あなたさえ良ければ今日は邸に泊まって頂けないかしら?」
「……え?」
「今日一日、宗太がお世話になって二人とも疲れているでしょ。
食事もまだよね?
宗太はあなたたちといられれば場所はどこでも構わないはず。
だから、あなたも今日は邸に泊まってゆっくり休んでちょうだい。」
「いえ、あたしは、」
「あなたと離れたくないのは宗太よりもこっちの大きな駄々っ子のようね。」
そう言ってババァが俺を呆れ顔で見る。
「いくつになっても私の言うことを聞かない司が、あなたの言うことは良く聞くのよ。
宗太が来てから駄々っ子が二人になって、私もタマも困ってたところなの。
牧野さん、大きい方の駄々っ子のお世話、していただけないかしら。」
ババァからの思いがけない提案に、
「はぁ、えーと、そのぉ、」
と、戸惑ってる牧野の手を握り、
「ババァからのお願いなら断れねーよな?」
とだめ押しの一言を俺が付け加える。
困った顔で俺を見上げる牧野の手を、恋人繋ぎに握り直しギュッと力を込めると、牧野は少しだけ微笑んで、
「じゃあ、お言葉に甘えて……、」
と、ババァにペコリと頭を下げた。
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