牧野つくし
12月29日東京生まれ、27歳、B型。
160cmの48kg
趣味:節約料理とおうちヨガ。
勤務先:道明寺ホールディングス
貯金額:約1000万
彼氏いない歴:×××
好きなタイプ:仕事もお金も堅実な人
半年前、あたしは結婚相談所に登録した。
その時のプロフィールがこれだ。
この半年で6人の男性をマッチングして貰ったけれど、なかなかピンとくる人に巡り会えていない。
その原因は…あたしにあるという事は百も承知なのだ。
昔、学生時代に恋愛で周囲にからかわれ、壮絶な嫌がらせを受けた。
そのトラウマから、あたしは男性に素直に好意を抱いたり、気持ちを打ち明けることが出来ない。
その結果、あたしは長らく恋愛から距離を置き、仕事と貯金だけが唯一の楽しみになってしまった。
両親からは実家に帰るごとに
『そろそろ彼氏でも…』と心配される始末。
あたしだって結婚したくない訳では無い。
誰かいい人がいれば、今すぐにでもしたい。
でも、その結婚条件は、愛だの恋だのドキドキワクワクしたものは求めていない。
求めているのはただ1つ。
『仕事とお金』が大事な人と運命共同体になって人生という荒波に立ち向かいたい。
それを理解してくれる相手に出会えれば最高に幸せだ。
そんなあたしに、7人目のマッチング相手が言った。
「牧野さんの気持ち、よく分かります!
僕もご覧の通りモテるほうではないので、恋愛には消極的でツラい経験もしてきました。
結婚は結局、いかに協力して2人で幸せに暮らしていくかだと思っています。その為には安定した仕事と確実な収入が不可欠で、それを満たし合える相手を僕も探していました。」
そう話す男性は、小さな不動産屋を経営する5歳年上の水川さん。
背はあまり高くないけれど、物腰は柔らかく優しそう。
初めて会ったその日に、
「同じ考えの女性に出会えるなんて奇跡です。
つくしさん、結婚を前提に僕とお付き合いしてください。」
と言われた。
それから、あたしの生活は変化した。
会社とマンションとの往復しかしていなかった毎日が、本屋で物件探しの雑誌を眺めたり、ウェディングフォトのサイトを覗いたり、久しぶりに新しいスカートを買ったり…。
結婚には夢を見ていなかったはずなのに、やはりあたしだって女だ。
一応、それなりに気持ちは浮かれ、これから始まる新生活にウキウキと心が踊った。
そして、水川さんと出会って1ヶ月が過ぎたある日。
仕事帰りに待ち合わせて食事をしていると、嬉しそうな顔の彼がこう言った。
「実は2人で暮らすいい物件が見つかって、購入を考えてるんだ。」
「買うんですか?」
「うん。賃貸だと管理費や駐車場代を含めると割高になるだろ?それに、何年も払い続けても自分たちの財産にならないし。それなら思い切って分譲マンションを購入した方がいいと思うんだ。」
「なるほど、」
「そこはかなりいい物件で直ぐに売れちゃうかもしれないから、明後日にでも手付金を支払っておきたいと思ってるんだけど、」
「明後日…」
「そこで、ちょっとつくしさんにお願いが。
僕も500万銀行から下ろすので、君も500万手伝って貰えるかい?」
「えっ?500万ですか?」
「そう、あっ、でも直ぐに返すよもちろん!
1日に下ろせる額が500万が限度だろ?それ以上だと色々と用途を聞かれて面倒くさいから。今週中には500万必ずお返しするからさ。」
水川さんは申し訳なさそうにあたしに頭を下げる。
道明寺ホールディングスはお給料がかなりいい事では知られているけれど、20代でコツコツ貯めた貯金の半分を出すのは、手が震えるほど勇気がいる。
でも、これはあたしの将来への投資なのだ。
2人で暮らすマンション。
不動産業をしている水川さんが言うのだから悪い物件ではないだろう。
詐欺かも…?
なんて一瞬頭をよぎったけれど、いやいや、こんなベタな詐欺師がいるはずがないと一蹴し、
「分かりました。明日おろしてきます。」
と、彼に伝えた。
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翌日、会社に出勤したあたしは、1枚の紙を持ってチーム長のデスクへと向かった。
あたしの働く部署は営業2課。
2課は3つのチームに分かれそれぞれ業務を担当している。
その中でもあたしの所属するチームは特殊だ。
なぜなら、チーム長が去年NYから帰国したこの人だから。
「チーム長、おはようございます。」
声をかけると、綺麗にカールした頭が持ち上がりあたしを真っ直ぐに見つめる。
「あのー、今日13時から1時間ほど有給を取らせて頂きたいのですが。」
そう言って、有給申請の用紙をチーム長のデスクに乗せる。
「あ?どうした急に。」
「ちょっと、私用で急ぎの用事がありまして。」
今日の夜、水川さんに500万を渡すため、昼のうちに銀行で下ろしておきたい。
有給申請の紙をじっと見つめたあと、
「分かった。1時間だな。」
とチーム長が頷いて、申請用紙の上部にポンッと判を押した。
「ありがとうございます。」
と言ってその用紙を受け取ったあたしは、
まだ乾ききっていない『道明寺』というその判を見つめながらデスクへと戻った。
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