「道明寺くん……少しいいかな?」
カンファレンスルームがある13階の非常階段。
そこで風に当たっていると、同期の笹井が顔を出した。
「さっきはほんとごめん。」
申し訳なさそうに頭を下げるこいつに、俺もようやく冷静さを取り戻して言える。
「おまえは悪くねーよ。」
「でもっ、俺が勝手に白石さんにお願いした訳で、」
「だとしても、そこまでキレられるような事じゃねーだろ。
俺の個人的な感情に巻き込んで悪かったな。」
笹井は医学部に入った時からつるんでいる仲間。
気の弱いところが医者には向いてねーけど、それをカバー出来るだけの優しさを持つ奴だ。
「道明寺くん、もしかして……、彼女さんと何かあった?」
「…………。」
「俺のせいで、誤解させたんじゃないかな。」
この場所で夜風に当たりながらずっと考えてた。
つくしは白石を見て誤解しただろうか。
だとしたら、なぜそれを俺にぶつけてこなかったのか。
いや、きっと言いたかったはずだ。
でも、俺はつくしとのそういう時間を蔑ろにしていて、あいつの声を聞こうとしていなかった。
「ダセェな……、おまえらに八つ当たりして。」
そう呟くように言うと、
「え?」
と、笹井が聞き返す。
何度も何度も、振り返って別れの理由を考えた。
どこかに誤解があって修復出来ればいいとも思った。
でも、結局いつも同じ結論に達する。
それは、
「どう考えたって……ぜんぶ俺が悪ぃーんだよ。」
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3週間ぶりに俺はここに来てる。
まだ部屋の明かりは付いていない。
もちろん合鍵も持っていないから、マンションの前でいつ帰ってくるか分からないあいつを待つだけ。
待つこと45分。
ようやくつくしが現れた。
俺見て、ピタリと足を止め、
「道明寺…」
と呟くこいつの顔を見れば、
招かれざる客であることは一目瞭然だ。
「……元気か?」
「うん。」
「少し話せるか?」
俺のその問いに、間を置いて
「……少しなら。」
とつくしが答えた。
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マンションの周囲をゆっくりと並んで歩く。
こいつと一緒に歩くのはいつぶりだろうか。
部屋で会い、ベッドに行き、朝まで寝て、起きた時にはつくしは出勤後、そんな事の繰り返しだった。
改めて考えても、最低な男だな俺は。
「何か話?」
つくしに聞かれ、
「……ああ。」
と答えたあと、
「白石に会ったんだってな。」
と聞きながらつくしに視線を送る。
つくしの表情は変わらない。
ただ、真っ直ぐ前を見つめているだけ。
「その事でおまえにちゃんと話しがしたくて来た。」
すると、つくしが言った。
「付き合うっていう報告?」
「あ?」
「わざわざ言いに来なくてもいいのに。
あたしたち別れたんだし、自由にして。」
つくしの突き放すような言葉が突き刺さる。
「付き合う訳ねーだろ。白石とはそんな仲じゃねーよ。」
「どうだか。」
「誤解すんな、」
「誤解?」
「ああ、あいつの事は女として見たことねぇ。」
「へぇ〜、部屋に入れて、着替えまで持ってこさせてたのに?」
「着替え?あいつがそう言ったのか?」
「…………。違うの?」
お互い顔を見合せて固まる俺たち。
そして、次の瞬間、2人で同時に言った。
「ぶっ殺すっ!」
「信じらんないっ!」
まぁ、こういう間合いはさすが幼なじみ。昔から変わらねぇ。
「着替えなんて頼むはずねーだろっ。
つっーか、そもそもあいつを部屋に入れるわけねーだろっ。」
「入ってたじゃない!この目で見たもん!」
「だからっ、それは…………、」
今日、ここに来たのはそれをつくしに説明したくて来た。
今更だって言われても、どうしても言っておきたいことがあるから。
「つくし、」
あの日、何があったか。
どうして白石が俺の部屋から出てきたのか。
笹井から聞いたことの成り行きをつくしに説明する。
すると、最後にポツリとこいつが言った。
「分かった。
そんなに気にしてないから大丈夫。」
おまえが気にしてなくても、俺はむちゃくちゃ後悔してる。なぜなら……
「おまえとの約束、破ってごめん。」
「え?」
「おまえ以外の女を部屋に入れないって約束したろ?俺の本意じゃなくても、結果的におまえを裏切った事には変わりはねーから。」
すると、つくしが今日初めて俺の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「覚えてたの?」
「忘れるわけねーだろ。
おまえが口に出して伝えてくれたお願いだからな。」
一瞬、つくしが切なそうに顔を歪める。
その頬に、その髪に、その肩に触れたいと思うけれど、
今の俺は許されない立場。
だけど、これだけは言わせてくれ。
「つくし、好きだ。」
「道明寺っ、」
「分かってる。言う資格がねえってことは。
でも、一つだけおまえに頼みがある。」
「……頼み?」
「ああ。
半年後、試験が終わったら、もう一度ちゃんと会いたい。幼なじみじゃなく、男として。」
「…………」
「つくし、頼む。」
「……分かった。」
その返事を糧に、半年間死ぬ気でやってやる。
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