「俺の部屋に寄って行くか?」
恋愛偏差値の低いあたしでも、道明寺のこの言葉にはそれなりの甘い意味がある事を察知して、一気に顔が火照る。
すると、
「そんな顔すんなって。」
と、あたしから視線を逸らして呟くこの人。
嫌がってると思われただろうか……。
急いで否定しようとしたら、
「そういう顔されたら、待てなくなるだろ。」
と、今度はなぜか道明寺の方が照れて言う。
「……待てなくなる?」
「これでも、すげぇ我慢してんだぞ。」
「なにを?」
「……色々と。」
そんな噛み合わない会話をしているうちに、もう目の前にお互いの家が見えてきた。
道明寺はあたしの手を繋ぎながら、迷うことなく自分の家に向かって行く。
そして、道明寺家の門をくぐろうとした時、あたしは慌ててその手を離した。
タマさんが見えたからだ。
「おかえりなさいまし、坊ちゃん。
つくしも一緒だったのかい。夕飯は?」
「食ってきた。」
「美味しいクッキーがあるから、つくし食べるかい?」
「あっ、はい!」
反射的に返事をしてしまったあたしに、
「今はいらねーだろ。」
と頭を小突きながら道明寺が言って、強引に腕を引っ張り階段を上っていく。
その背中に、
「まったく、喧嘩はおやめなさいよ。」
と、タマさんの声が響いた。
………………
つくしの腕を引き部屋に入ると、そのままその身体を壁に追い詰める。
暗い部屋の中、見えるのは至近距離にいるこいつの顔だけ。
「道明寺?」
俺を見上げてそう呟くつくしに、
「つくし、……していい?」
と、主語のない言葉を吐く。
「……なにを?」
「恋人っぽいこと。」
その言葉の意味を理解したのか、照れたように視線を逸らす仕草が堪らなくて、
俺は考える余裕も与えずに、唇を重ねた。
初めは軽く。一度離された後に、もう一度。
今度は強く押し当てるように。
不意打ちで奪った高校生の時のファーストキスとは違い、お互いの心が通じあったセカンドキス。
我慢してたのに、一度ラインを超えてしまうと止めどなく溢れるこいつへの想い。
角度を変えて何度も味わううちに、つくしから甘い声が漏れだす。
「どう……みょうじ」
「ん?」
「待って……、」
「待てねぇ。」
本気で嫌がってるなら止めるけど、そうじゃねぇ事ぐらい長年一緒にいれば分かる。
俺の服の裾を握っていたつくしの手を掴み、俺の首に回してやると、さらに密着する2人の身体。
キスだけじゃ我慢できなくて、ソファに移動するため、つくしの身体を持ち上げると、
「キャッ!」
と、叫ぶこいつ。
「タマに聞こえるぞ。」
笑いながら耳元で言ってやると、ハッとした顔で口に手を当て大人しくなる。
「どこ行くの?」
「ソファ。」
「なんで?」
「おまえが小さすぎて腰が痛ぇ。」
小さな声でそう話しながらソファに移動すると、つくしの身体をコロンと寝かせ、俺もその上に覆い被さりながら、
「ここなら、身長差も関係ねーだろ。」
と言って再びキスをせがむ。
このまま、どこまで許されるか……。
もっと深いキスは?
いや、思い切って服の中に手を入れたらどんな反応をする?
そんな事を考えていると、
急に、扉の向こうから、
「坊ちゃん、お茶が入りましたよ。」
と、タマの声がした。
その声に、お互いビクッと離れる俺たち。
今、タマに入ってこられたらまずい。
真っ暗な部屋でソファに2人で寝ている姿は、さすがにヤバイだろ。
慌て起き上がり、
「お、おう。もう少ししたら下におりてくから、用意しておいてくれ。」
そう叫ぶと、
「分かりました。冷めないうちに来てくださいな。」
と、扉の向こうからタマの声がした。
数分後。
部屋を出て階段をおりる途中、つくしが俺の肩をチョンチョンとつつく。
「ん?」
「道明寺……」
「どした?」
「タマさんには内緒ね。」
「あ?」
「あたし達が付き合ってること、内緒ね。」
そう、つくしに言われ、階段途中で立ち止まる。
「理由は?」
「り、理由って……だって今まで兄妹みたいに育ってきたのに、急に付き合ってるなんて、なんか恥ずかしいでしょ。」
「俺的には構わねーけど、」
「あんたはいつだって鋼のメンタルだよね……。
少しは照れたり恥じらったり、そういう事しない訳?ドキドキしてるのあたしだけで、なんか腹立つっ。」
そう言って俺を睨みつけてくるこいつが凶悪に可愛くて、俺は言ってやる。
「さっきのおまえにはむちゃくちゃドキドキしたけどな。」
すると、数分前までのキスを思い出したのか、俺の背中をバシッとど突いてくるこいつ。
「あっぶねぇ、階段から落ちるだろっ。」
「黙んなさいよ、その口っ!」
「おぉー、そういう態度なら内緒にしてやんねーぞ。」
「あんたねぇ、」
相変わらずギャーギャー騒いでいる俺らに、階段下に現れたタマが呆れた顔で、
「ケンカしない日はないのかいあんた達は……」
と、呟いた。
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