約束の7時。
待ち合わせ場所の店に行くと、相川先輩の他に2人男の人が座っていた。
どうやら、体格から見て同じラグビー部の仲間だろうと察しがつく。
お互い軽く自己紹介を済ませ、飲み物をオーダーしている間に、先輩から目的のテストを受け取った。
「コピーしてあるから返さなくていいよ。」
「ありがとうございます。」
「点数は見ないでおいて。」
「あっ……はい。そうします。」
半数以下の答案用紙。
それを恥ずかしそうに手渡してくれる先輩と、それを見てケラケラ笑う友人たち。
そして、飲み物が運ばれてきて、
「乾杯しようか。」
と、みんながグラスを持ち上げる。
コンパや合コンには興味は無いけれど、こうして異年齢の人たちと交流できるのは大学のよいところ。
しかも、彼らは体育会系でサバサバと感じがいい。
すぐにうちとけて楽しい食事会の時間が過ぎていった。
そして1時間ほどたった頃、友達が携帯を開いてあたしに言った。
「つくし、あんたの彼氏、盗撮されまくりだよ。」
「え?」
「コレ見てよ。看護学部の子たち、今日の食事会の写真をSNSに載せてる。」
友達が見せてくれた画面には、自撮りした彼女たちの写真の奥に道明寺の姿が映りこんでいる。
そして、『大学一のイケメンとご対面♡』なんてコメントまでも。
「あっ、この子もほらっ。」
他の子のSNSにも道明寺が映っていて、友人が言うように盗撮されまくりだ。
思わず眉間に皺を寄せるあたしに、
「どうしたの?」
と相川先輩が言う。
「いえっ、別に……」
「ん、なに?それってあの道明寺司?」
「そう…です。」
「えっ、彼って牧野さんの彼氏なの?」
「………」
答えに詰まるあたしの横で、
「そうなんです!つくしはあの道明寺司の彼女なんですよ〜!」
と、なぜか誇らしげに言った。
「へぇー、そうなんだぁ。
それは大変だね…。」
「大変…ですか?」
聞き返すあたしに、
「だって、モテるでしょ彼。
俺もキャンパスで1度見かけたことがあるけど、遠くからでもあのオーラは半端ないよね。
あの容姿で道明寺財閥の息子だろ?そりゃ、大学中の女子が狙ってるでしょー。」
と相川先輩は同情の目で見つめてくる。
その時、噂をすれば何とやら…
道明寺からあたしの携帯に電話がかかってきた。
「彼氏?出なよ出なよ。」
友達に促され、
「もしもし。」
と、電話に出ると、
「つくし、俺だ。
今どこにいる?」
と、道明寺。
「駅前のお店で食事してる。」
「もう帰れそうか?」
そう聞いてくるということは、道明寺の方もそろそろお開きになるのだろうと思い、少しホッとしたあたしに、道明寺が申し訳なさそうに言った。
「わりぃ、まだ帰れそうにねーんだ。
多分、相当遅くなると思うから、明日また連絡する。」
「う、…ん。分かった。」
「じゃあな。」
「…道明寺っ!」
「ん?どした?」
「いや、……何でもない、じゃあ明日ね。」
「おう。」
プツリと切れた電話を持ちながら固まるあたしを、ほかの4人が同情した目で見つめた。
………………
「こんな時は、パーッとカラオケにでも行って歌いまくろうっ!」
と、なぜかあたしを『慰める会』に変わってしまった一行は、駅前のカラオケ店に入り約2時間。
時刻は22時近くなり、そろそろ解散しようという話になった。
「車で来てるから、俺がみんなを送るよ。」
と、相川先輩が言う。
「車で来てるんですか?!」
「そう。愛車。ここから近い人から下ろしていくからみんな乗って。」
そう言って、近くのコインパーキングへと歩いていく。
「これが愛車。」
という相川先輩の車は、車音痴のあたしでも一目で分かる高級外車。
やっぱり英徳に通う生徒は他とはこういう所が違うのだ。
道明寺クラスの世界的なハイレベルのお坊ちゃまはそうそういないけれど、普通に大学生で高級外車を乗り回すレベルのお金持ちはゴロゴロといる。
その高級車に乗り込むと、
「さぁ、誰から行こうか。」
と、ルートの確認が始まった。
ラグビー部の先輩2人はキャンパス近くの寮に住んでいる。あたしの友達は一駅分離れたマンション。
そして、1番遠いのが昔から立ち並ぶ住宅街にあるあたしの家。
自ずとあたしが1番最後になる。
「みんなの家を回っていくから、牧野さんの家に着くまで30分はかかるけど大丈夫?」
「大丈夫です。親には連絡済なので。
それより、先輩は大丈夫ですか?」
「大丈夫大丈夫。ドライブする事が俺の趣味だから。」
先輩の好意に甘えて送ってもらうことになり、家の前に着いたのは22時半を過ぎていた。
車から降り、運転席にいる先輩に
「ありがとうございました。」
と深く頭を下げると、
「楽しかったよ。また、今日のメンバーでカラオケでも行こう。」
と、笑顔で去っていく。
その先輩の車に軽く手を振って見送っていると、背後から「つくし?」と声がした。
思わず身体全体でビクッと反応するあたしに、
声の主が言った。
「おまえ、こんな時間まで何してんだよ。」
暗くて表情までは見えないけれど、その声のトーンから明らかに機嫌が悪いのがわかる。
「道明寺?」
「今帰ってきたのか?」
「うん。」
「あいつ誰だよっ。」
「あー、先輩。
ほら、テストを譲ってもらうって話したでしょ。」
「……テストを貰うだけでこんな時間まで…
っつーか、今日初めて会ったやつの車に乗って送ってもらうなんて、おまえ気でも狂ったのか?」
「…はぁ?」
突然怒りだし、気でも狂ったのかなんて、どうしてあんたにそんな事言われなきゃなんないのよっ。
心の中でフツフツと怒りが増殖していく。
それを爆発させないように必死に我慢したのに、次の道明寺の言葉でプツンとあたしの我慢の糸が切れた。
「男にフラフラしてんじゃねーよ、ったく。」
その言葉を聞いて、あたしは目の前のバカ男めがけて怒鳴っていた。
「その言葉、そっくりそのままあんたに返すからっ!
女の子にフラフラしてるのはどっちよ、バカっ!」
こんな夜中に、住宅街のど真ん中で叫んだらどうなるか。
それを証明するかのように、あたし達の背後で声がした。
「つくし?あんた何叫んでんのよ!」
「坊ちゃん、どうしたんですか?またつくしとケンカですか?」
お互いの家からママとタマさんが心配して出てきて、あたし達を交互に見つめるけれど、あたしはそれを無視して無言で家の中に入った。
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