アリーナと牧野と3人で食事をし、天ぷら屋をでたのは21時を少し過ぎていた。
迎えの車を呼ぼうか…そう思った時、アリーナが携帯を見せながら言った。
「ここが素敵なの!私、行ってみたいのよ。」
SNS映えしているそれは、都内にあるホテルの最上階バー。屋外にソファー席もあり夜景を見ながら外でお酒が楽しめる。
「でも、アリーナ。ここはお酒を飲むところよ。」
牧野がそう言うと、ニコッと笑ったアリーナは、
「私のお目当てはこれ。」
と、見ただけで口の中が甘ったるくなりそうな大きなパフェ。
「バーだから、私一人じゃ入れないわ。
お願い、付き合ってくれる?」
甘えたような視線で俺と牧野を交互に見つめるアリーナ。
すると、それと同時に俺たちの目の前にタクシーが滑り込んできた。
牧野がいつものようにタクシーの扉の前に立ち、アリーナを後部座席へ先に乗せる。次に俺に「どうぞ」と言ってアリーナの隣をすすめた。
そして、タクシーのドアを閉めた牧野は、なぜか自分は乗らずに、助手席の窓をコンコンと叩く。
それに気づいた運転手が、助手席の窓を開けると、
「○○ホテルへお願いします。」
そう運転手に告げ、その後俺たちの方を見て言った。
「私はここで失礼します。」
これは、秘書がよくやる常套手段だ。
会食の後に相手との親密さを考慮して、秘書はスマートに席を外す。
タイミング的には上出来だ。
だが、肝心な事が間違っている。
アリーナとは、おまえが気を利かせて席を外すほど親密な関係とは言えない。
タクシーが走り出したあと、心の中で小さくため息をつく俺に、アリーナはニコッと笑いながら
「楽しみ…」と呟いた。
……………
次の日、オフィスで朝1時間ほど仕事をし終えた時、いつもより慌ただしい足音で西田が部屋に入ってきた。
「どうした?」
西田が話すよりも先に俺が聞くと、
「それが……、」
と、口篭りながら数枚の紙を俺に渡す。
それを見て、俺の眉間に深いシワが寄る。
そこに写っているのは、昨夜の俺とアリーナの姿だった。
俺がアリーナをエスコートしながらタクシーから下りる所や、外のソファー席に2人で並んで座る写真。
バーからエレベーターに乗り込んで、さも下の階の部屋に2人で移動したかのような写真まで。
「これは?」
「明後日の週刊誌に載る予定です。」
「手は打ったか?」
「それが…、社長はこのまま掲載させろと。」
「親父がっ?」
今まではプライベートな写真が流失しそうになる度に、裏で手を回して阻止してきたのに、今回は親父が載せても構わないと言っているのか?
「どういうことだ?」
「アリーナさんとの交際は道明寺ホールディングにとっても有利なことだと社長は判断されたようです。」
「交際?ただ、バーに行っただけなのに?」
勘違いも甚だしい。
ムカついた俺は、すぐに受話器をとってNYにいる親父に電話すると、
3コール目で、「よぉ、元気にやってるか?」と相変わらず調子のいい声が聞こえた。
「今すぐ、写真の掲載を止めてくれ。」
「何か不都合でもあるのか?」
「ふっ…こんなくだらねぇデマを流すつもりかよっ。」
「なかなかいい写真だったぞ。デマにしておくには勿体ない。交際してれば俺もラファエルにもメリットは大きい。
アリーナともよく相談してみてくれ。」
「相談っ?」
親父の言っている意味が分からず聞きかえすが、電話はとうに切れていた。
「チクショー、あのオヤジっ!」
電話口に向かって悪態を付くと、その横にあった俺の携帯がなり始めた。
画面を見ると、「アリーナ」の文字。
西田にチラッと視線を送ると、西田は頷いて「取れ」という合図
「もしもし。」
「司?昨夜は楽しかったわ。ありがとう。」
いつものように明るい声のアリーナ。
写真のことはまだ知らないのだろうか。
「パパから電話があって、なにやら司と話し合って欲しいことがあるって言ってるの。」
どうやら、親父とアリーナの父親の間では、俺たちが交際しているという設定で進めたいという思惑が一致したようだ。
「…アリーナ、実は昨夜一緒に居たところを週刊誌の記者に撮られた。このままいけば、明後日の誌面に載ることになる。」
「……。」
「写真の内容から見て、俺たちが交際している…という内容になる事は避けられないと思う。社長に掲載を阻止するよう話したが…、ビジネス的にも双方にメリットがあるって聞かないんだ。きっと、ラファエルとも既に話が付いてるはず。」
「…そうなの。」
「アリーナ。君も困るだろ?だからラファエルに話してみてくれ。デマ情報だから流さないでくれと君から頼めば、今からでも掲載は阻止できるはずだ。」
その俺の言葉に、少しの沈黙の後、アリーナが言った。
「構わないわ。」
「……あ?」
「司、つくしから何も聞いてない?」
と、言う。
「牧野?」
「ええ。
私が司に好意があるってこと。」
「……。」
「驚かせちゃった?
日本に残りたいって言ったのも、もう少し司と親しくなりたかったからなの。今まではパパの仕事がメインだったでしょ。でも、今は違う。仕事は終わり。これからはプライベートの司をもっと知りたい。そうつくしには話してたから、てっきり昨夜もそのつもりで司は来てくれて、つくしは私たちを2人にしてくれたんだと思ってた。」
「牧野が…?」
「私は構わないわ。司との写真が出ても。」
きっぱりとそう言いきるアリーナ。
その言葉を聞きながら、俺は手足の先が急激に冷たくなり、あいつに対してふつふつと怒りが込み上げてきた。
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