牧野刑事の厄介な山 4

牧野刑事の厄介な山
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「自分たちが会っていた道明寺司は、この人じゃない」

女の子たちが語ったこの言葉は、署内に衝撃と安堵をもたらした。

もし本当に道明寺司本人が関わっていたら、単なる風俗営業違反じゃ済まされない。

マスコミも、政治も、上層部も巻き込む大騒ぎになる。

「本人じゃない、ってことは……」

桂木警部補が腕を組む。

「名前を使った別人、か」

あたしは静かに頷いた。

山本が続ける。

「それと……彼女たちの話では、その“道明寺司”は他の店にも出入りしてるらしいです」

「他の店?」

「はい。銀座だけじゃないみたいです。最初に知り合ったのは、あの子たちが客として出入りしていた六本木のバーで、そこにその偽物道明寺とCANTYという店の女が同伴で来ていたらしく。」

「六本木のCANTY……、すぐに調べろ。」

「はい。」

それから間もなくして、CANTYの店の情報が課内で共有される。

ここは3年前に出店した六本木でも新しい店だ。ビルは繁華街の一等地にあり、会員制の高級クラブ。客の出入りもよく特に悪い噂は聞こえていない。

「話、聞きに行くか。」

桂木がそう言うと、

「はい。でも、聞き込みとなると、その服では……」

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と、山本が桂木警部補の姿を見て小さく言う。

山本が言うのも仕方がない。桂木警部補はここ数日他の案件も抱えていて、署内で泊まり込みも、もう3日目だ。

上はヨレヨレのワイシャツ、下はダボダボのスラックスという、いかにも仕事に疲れたオヤジ丸出し。

「なんだよ、これじゃマズイって言うのか。」

「はい、多分、店の入口で止められますね。」

部下にグサリと言われた桂木は、少し考えたあと、

「牧野、おまえ着替えはあるか?」

と、あたしに聞く。

「まぁ、いつものスーツならありますけど。」

「じゃあ、それで行くか。山本は…、」

「僕もあります!牧野先輩と二人で行ってきます!」

そう言いながらビシッと敬礼する山本。高級クラブなんて足を踏み入れたことがない部下は、ここぞとばかりに張り切っているのが見え見え。

そんな部下にあたしは、

「21時、現地到着予定で準備するように。」

そう伝えデスクワークに戻った。

…………

予定通りの時間に、CANTYが入っているビルの下に到着したあたしたち。

今日の目的は、店の女の子たちに「偽の道明寺司」と接触があったかどうかを確認すること。もしあったなら、その男の特徴や、手がかりになりそうな情報を聞き出す。

それが、表向きの理由だが、本音は別にもある。

この機会に、CANTYでも未成年者が働いていないかを内偵してくる目的もある。

だから、事前に店側にはこちらが行くことを伝えていない。

営業時間内だ。ほかの客に無用な警戒を与えないよう、あたしたちも一応きれいめなスーツに身を包み、あくまで“客”として店に入る。

とはいえ、完全に身分を隠すわけじゃない。

エントランスでボーイに名刺を差し出し、低い声で言った。

「生活安全課です。店長を」

それだけを短く伝えると、ボーイが急いで中に消え、数分後、店長が固い表情で現れた。

「警察の方が何か?」

「営業は通常通りで構いません。ただ、少し女の子に話を聞きたいのですが。」

あたしがそう言うと、店長は一瞬だけ目を細めた。

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「それは困りますね。うちは会員制ですし、勤務中のスタッフを外部の方に」

警察を“外部”と呼ぶあたり、肝が据わっている。

「任意です。拒否するなら、それはそれで構いません。ただ、」

その時だった。

「この店で1番高い酒を3本入れてくれ。それなら話を聞かせてもらえるか?」

低く、よく通る声。

空気が一瞬で変わった。

店長も周囲のボーイたちも一斉に声の方を向く。

……うそでしょ。

そこに立っていたのは、つい先日、道明寺邸で会った道明寺司本人。

黒のコートを無造作に羽織り、片手をポケットに入れたまま、まっすぐこちらを見ている。

「えっ、道明寺さんがどうして?」

山本が思わず声を上げた。

店長の視線が、あたしと道明寺司の間を往復する。

「……道明寺様?」

「ここに書いてある女を席につけてくれるなら、あと2本は追加するけど。」

道明寺司が小さな紙を店長に手渡す。その紙をチラッと覗くと、そこには「小野寺マリ」という名前が。

それは、Lilyで働いていた未成年の女の子たちから聞き出した、道明寺司と繋がりがあるとされる女の子の名前。

「どうして、この名前を?」

思わず上擦った声が出てしまうあたしに、

「警察よりも情報網は広い。そういう立場なんで。」と、勝ち誇ったような嫌味な笑み。

「嫌な奴…。」

小さく呟いた言葉は相手にも伝わったようで、

「あ?」

と、頭1つ分大きい場所から思いっきり見下され圧をかけられる。

すると、店長が上機嫌な声で言った。

「道明寺様、お席にご案内いたします。どうぞこちらへ。」

店長の態度はあからさまだった。

この街で一番強いのは、警察じゃない。金だ。

店の中へと入っていく道明寺司の背中を見ながら、深くため息をついたとき、その背中が振り返って言った。

「VIPルームで一緒に話を聞かせてやってもいーぞ。」

「先輩、行きましょう!」

「ちょっと、山本っ」

VIPルームと聞いた途端、跳ね上がるようにして道明寺司についていく部下。

「公私混同したら承知しないから」

低く言って、あたしも仕方なく一歩を踏み出した。

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