京都旅行の2日目。
今日はガイドブックで調べた場所をいくつか観光したあと、夕方からはタマは友人と待ち合わせをして食事に行くことになっている。
その間、俺とつくしは2人でプラプラと市内を見て回り、夜はまたホテルでタマと合流する予定。
夏の京都はかなり蒸し暑い。
高齢のタマがぶっ倒れたらババァに殺されかねないと、こまめに休憩を取りながら動いていると、
「坊ちゃん、ありがとうございますね。」
と、何度も礼を言うタマ。
「旅の途中で死なれたらこっちが困る。」
「まだまだ死にませんよ。むしろ、寿命が伸びた気がします。」
「マジかよ、」
「つくしと坊ちゃんと3人で旅行ができるなんて思ってもいませんでしたから、タマは本当に幸せです。」
いつもガミガミ言いやがるタマが、こんな風に嬉しそうにするなら、毎年来てやってもいいかなとふと思ったりもする。
観光を終えて、1度ホテルに戻り着替えをすると、もう17時だ。
タマの古くからの友人がホテルまで迎えに来る時間。
3人でホテルのロビーで待っていると、タマと同じくらいの背丈で、何となく雰囲気も似た老婆が入ってきた。
道明寺家の使用人になる前に、一緒に働いていたらしい。
タマとは1年ぶりの再会。
抱き合って再会を喜んだ後、何やら2人で話している。
そして、タマが俺たちの方へ近づいてきて言った。
「坊ちゃん、つくし。
申し訳ないけど、今日の夜、おハナさんのお宅に泊まらせて貰ってもいいかい?」
「えっ?」
「おハナさんが、どうしてもゆっくり話がしたいっていうのさ。私も久しぶりの再会だから積もる話もあるし。」
そう言ってタマの友人のおハナさんの方を振り返ると、俺たちの方へぺこりと頭を下げる老女。
「俺はかまわねーけど…、」
俺がそう言うと、
タマは、つくしの方を見て、
「1人でホテルの部屋に泊まることになるけど、いいかい?」
と聞く。
「…大丈夫です。」
つくしがそう答えると、
「じゃあ、坊ちゃん、つくしを頼みましたよ。」
とニコニコしながら、スタスタと友人の元へ歩いていった。
………………
「さぁ、どうする?」
「ご、ご飯食べに行くんでしょ?」
「ああ、そうだったな。」
急遽、明日の朝まで2人きりになった俺たち。
こういう展開は予想外で、お互いぎこちない雰囲気。
正直、今回の旅行ではつくしと2人きりになるチャンスも少ないし、タマが一緒だから過度な期待はしていなかった。
でも、こうなった以上、俺的には…攻めたい。
誰にも邪魔されない絶好のチャンスだから。
つくしと夕食を食べながら、今夜のことに思いを巡らせていると、目の前のつくしの目が赤く充血していることに気付く。
「つくし、目が赤いぞ。
痛くねーか?」
「そう?別に。はぁ〜。」
大きな欠伸を1つする。
「疲れたか?」
「うん。今日も沢山歩いたし、お腹いっぱいになったら急に睡魔が襲ってきちゃった。」
目の赤さは多分疲れだろう。
眠そうに目をゴシゴシと擦るつくし。
「ホテルに戻るぞ。」
俺のその言葉に、今にも眠りそうなトロンとした目をしながらコクンと頷いた。
………………
ホテルの部屋のある階にたどり着くと、お互いカードキーを取り出し、隣同士のドアの前に立つ。
1時間前までは、「攻めたい」と思っていた感情も今は殆どない。
何度も欠伸をして疲れてるつくし。
これ以上無理をさせたくねーし、タマとの旅行でそうなる事をつくしは望んでいないはず。
「おまえベッドに横になったらすぐに寝るぞ。
だから、まずは風呂に入れよ。」
「うん、分かってる。」
「じゃあ、明日な。おやすみ。」
「…おやすみ。」
そう言ってお互いの部屋に入ろうとする。
でも、せめて眠る前にこれくらいはしたい。
「つくし、あとで電話する。」
「うん。」
………………
ゆっくりと湯船に入り一日の疲れをほぐしていると、俺もつくし同様、眠たくなってきた。
あとで電話する…とは言ったけれど、あいつはもう眠りについたかもしれない。
風呂から上がりドライヤーで髪を乾かし、ベッドに入ると、22時を過ぎていた。
3コールだけして、つくしが電話に出なければ切ろうと思いながらコールすると、予想に反して1コール目で
「もしもし。」
と、声がした。
「起きてたのか?」
「うん。」
「もう爆睡してるかと思った。」
「ベッドに入ってるけど、まだかろうじて目は開いてますっ。
今ね、タマさんからも電話があったの。
ご飯は食べたか?お風呂には入ったか?坊ちゃんは何してる?ってあたしたちの心配ばっかり。」
「何しに、向こうに泊まったんだよ。」
「あははー、ほんとそれ。」
タマの話題で自然と盛り上がる俺ら。
しばらく時間を忘れて話していると、
つくしが突然言った。
「なんか、京都に来てるって気がしないね。」
「ん?」
「いつものあたし達みたい。
隣同士で話してるの。」
確かにそうだ。
家にいる時も、今と同じように隣に住むつくしとこうして電話越しに話しているから。
「いつからだろー、あたしたちがこうして話すの。」
「……中等部の2年頃からだろ。」
「よく覚えてるね。」
「当たり前だろ。好きな相手との電話だ。」
その頃から、幼なじみではなく、女としてつくしを見ていた。こいつにとってはただの暇つぶしの電話だったかもしれねーけど、俺にとっては貴重な時間だった。
「あの頃から、俺の気持ちは変わってねーよ。
こうしておまえと電話するだけで、くすぐったくて、会いたくなって、バカみてぇに口実探して、おまえの部屋に行ったり、」
「口実?……、」
「ああ。
ただ会いたいって言えばいーのに、それが言える仲じゃなかっただろ。」
懐かしくて、クスッと笑いながらそう言うと、
電話の向こうにいるつくしが、何故か黙ったままでいる。
「つくし?」
「…………。」
「寝たか?」
返事がない。
睡魔の限界にやられたか……。
「つくし?」
もう一度だけ呼んでみる。
でも、返事は無い。
やっぱり寝たのだろうと電話を切ろうとした時、
俺の部屋のドアがコンコンと鳴った。
こんな時間に誰だ?
電話を片手に、ゆっくりと扉に近づいていき、ドア穴から外を覗く。
「つくしっ?」
部屋の外に立っているのがつくしだと分かり、俺は急いでドアを開けた。
「おまえっ、どうして来た?」
「道明寺、」
俺の正面に立ち、耳から携帯を外しながらつくしが言った。
「今日も、来るのに口実がなくちゃダメ?」
「……あ?」
「ただ、『今夜は一緒にいたい』って理由だけじゃダメ?」
真っ直ぐに俺を見つめてそう言うつくし。
もう、口実がなくて会うのを躊躇していたあの頃とは違う。
今は素直に、『一緒にいたい』と言える仲なのだ。
俺は堪らずに、つくしの腕を引き寄せ、部屋の中へ一気に連れ込むと、壁に追い込みキスをした。
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