映画の試写会当日。
あたしは茶道部の仲間と待ち合わせるため上映時間よりも早く家を出た。
街でプラプラと買い物をしたあと、ファストフード店でお喋りをしながら軽く食事をしていると、
「ねぇ、あれって道明寺司じゃない?」
と、友達が言う。
その視線の先を見てみると、信号待ちをしている道明寺の姿が。
180cm近い身長でモデル並みの体型。
どこから見ても目立っている。
そして、その隣にいるのは、
「白石会長っ?!」
その場にいるみんなが色めき立つ。
「あの二人って付き合ってるの?」
「いつからっ?」
道明寺とあたしが幼なじみだということは学園の周知の事実。
だから、みんなあたしを質問攻めにしてくる。
「し、知らないって。」
「道明寺司からなにか聞いてないの?」
「聞いて……ない。」
けど、先日の道明寺と美作さんの会話から、道明寺が会長を好きな事は事実かもしれない。
「それにしても、お似合いだよねあの二人。」
「ほんと〜。
道明寺司がつくし以外の女の子と一緒にいるところ見たことないから、なんか新鮮!」
「年上好きだったのか道明寺司は。」
友達のそんな会話を聞きながら、あたしは視線の先にいる道明寺が、なんだか知らない男の人のように見えて不思議な気持ちになっていた。
…………
映画の試写会場に着いたのは時間ギリギリだった。
席は予め決められていたので、席番号を探して歩いていくと、そこにはさっき見かけた2人が並んで座っていた。
「道明寺。」
「おう、遅かったな。」
「席……」
「ここだろ。」
そう言って道明寺の隣の席を指さす。
どうやら、あたしの席は白石会長と道明寺が座るその隣のようだ。
席に着くと、
「寝るなよ。」
と、あたしの耳元で呟くこの人。
「寝ないからっ。」
「クッ…いつも寝るだろおまえ。」
「失敬なっ。あれは……、たまたま」
「たまたま?」
「……。」
道明寺があたしをからかうのは無理もない。
今まで一緒に何度も映画を観に来たことがあるけれど、
その度に、あたしは寝てしまっているのだ。
この薄暗い映画館の心地よさが睡魔へと引きずり込む。結局、見終わったあとにいつも道明寺に映画のストーリーを教えてもらうという事の連続。
「今日は大丈夫。
昨日早めに寝たから。」
「だといいけどよ。」
クスッと笑う道明寺は、
「今日はこれでも食って耐えろよ。」
そう言ってあたしにミントのガムをくれた。
約3時間の試写会。
終わったのは20時近かった。
ぞろぞろと会場を出て、出口へと向かう人混みの中、
「そのまま帰るだろ?」
と、道明寺が聞いてくる。
「ん、帰る……けど、」
いつもなら、何も気にせず道明寺と家まで帰っているだろうけれど、今日は道明寺の後ろから白石会長が歩いて来るのが見えて、咄嗟に
「会長ってどの辺に住んでるの?」
と、小声で道明寺に聞いてみる。
「あ?」
「送っていくんでしょ?」
「はぁ?」
「遅くなったらタマさんに怒られるから、程々にね。」
「……おまえ、何言ってんだよ。」
あたしを見下ろして、ぶっきらぼうに言うこの人は、白石会長との交際がバレていないと思っているのか、それとも照れ隠しなのか。
あたしはそんな幼なじみに、
「んじゃ、頑張って!」
と、肩をバシッと叩きエールを送ったあと、茶道部のみんなと駅へと向かった。
…………
帰宅してすぐに、道明寺から着信。
「ん、なに?」
「なにじゃねーよ、バカ。」
「っ!バカってなによ。」
いつになく、電話の道明寺の声が機嫌悪い。
「何怒ってんの?」
そう聞きながら、あたしは自分の部屋の窓にかかるカーテンをチラッと開けてみる。
すると、そこから見えるむかえの道明寺の部屋に明かりがついている。
「あれ?道明寺、もう帰ってきたの?」
「ああ。」
「なんで?会長の家ってこっちの方?」
「知らねーよ。」
「知らないって……、あんた送ってきたんじゃないの?」
「なんで俺が。」
その言い方があまりに素っ気なくて、戸惑いながらも聞き返す。
「会長と付き合ってるんじゃないの?」
「はぁーーー。なんだよ、それ。」
「えっ、だって!
今日もデートしてたでしょ?」
「デート?」
「試写会前に、2人で街で」
「あー、本屋で偶然会って映画館まで歩いてた。」
「それだけ?」
「それ以外、何もねーだろ。」
「……そなの?」
「変な勘違いすんなよボケっ」
相変わらずこの男は口が悪い。
「あんたねー、そういう所直さないと、会長に嫌われるよっ」
「あ?」
「好きなら、もっと分かりやすく優しくしなきゃ。せっかくあたしがチャンス作ってあげたのに、なんで送っていかないのよバカっ。」
ボケと言われたからバカと返しただけなのに。
普段からこれくらいの言い合いはしてるのに。
それなのに、今日の道明寺はいつもと違った。
長い沈黙の後、怒ったように言った。
「おまえはそれでいーのかよ。」
「……え?」
「よく考えろ大バカ。」
…………
それから2週間、道明寺はあたしと口を聞いてくれなかった。
道明寺がどうしてこんなに怒ったのか。
高校2年生の冬のあたしには、理解できない事柄だった。
『高校3年生の秋』へと続く。
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