定時に仕事を終わらせて専務に連れて来られたのは、以前何かの雑誌で見た事がある高級BARだった。
「専務?ここですか?」
「ああ。」
「あのぉー、ここに何が?」
「会わせたい奴らがいる。」
そう言ってあたしの腕をとりバーの奥へと入っていく。
店内の一番奥にある個室。
その扉を開けると、大きなソファに寛ぐ3人の男性がいた。
「おー、やっと来たか。」
「司のために仕事放り出して来てやったぞ。」
そう言って立ち上がる2人は専務同様、長身のイケメン。
そして、残りの1人はあたしの顔を見て、
「どうも。」
と言って少しだけ微笑む茶色い目が印象のこちらもかなりのイケメン。
会わせたい奴がいると聞いて強引に連れてこられたけれど、初めましての男性3人に、緊張してガチガチになる。
「牧野、こいつらは俺の幼稚舎の頃からのダチ。
まぁ、家族よりも俺については詳しい奴らだ。」
「はぁ。
どうも、初めまして。
牧野つくしです。よろしくお願いします。」
日頃のくせが出て、思わず名刺を取り出したあたしに、
「おまえの事は話してあるから大丈夫だ。」
と言って、あたしの名刺ケースをカバンの中へ押し込む専務。
「まぁ、司も牧野さんも座れよ。
何飲む?話は乾杯してからゆっくりしよーぜ。」
面倒見の良さそうなイケメンがそう言ってあたし達を彼らの正面のソファーに座らせた。
……………
普段はそんなにお酒に強くないあたし。
でも、今日は1杯目のカクテルを急ピッチで飲みきった。
なぜなら、ドキドキとした動悸がおさまらないから。
どうしてここに連れてこられたかも分からないのに、今目の前にいる3人のイケメンがただ者じゃないと分かったからだ。
花沢物産の御曹司である花沢類さんと、
華道の家元西門家の御曹司である西門総二郎さん、
そして、美作不動産の社長であり裏社会のドンとも呼ばれる美作家の御曹司である美作あきらさん。
道明寺グループの御曹司である専務も凄いけれど、友達もスゴすぎる!
類は友を呼ぶとはこういうことなのか。
お酒が進むあたしの横で、今日は珍しく専務もハイペースでグラスを空けている。
ウイスキーはすでに4杯目。
こんなに呑んでいる専務を見るのははじめてだ。
「司、飲みすぎだぞ。」
心配して声をかける美作さん。その横で、
「飲まないと出来ねーだろ、今日の話は。」と、意味深に笑う西門さん。
そんな2人に、うるせぇと小さく呟いたあと、
「牧野、今日はおまえの誤解を解きに来た。こいつらに全て暴露していいって言ってあるからなんでも聞け。」
そうあたしに言ってくる。
「暴露?なんでも?」
専務の言っている意味が理解できないでいると、
西門さんが爆弾を落としてきた。
「司のことホテルに誘ったんだって?」
「っ!」
驚きと恥ずかしさで固まる。
「ごめん、牧野さん、司から2人の馴れ初めは全部聞いたんだ。」
と、美作さん。
普通の恋愛の馴れ初めなら友達に話しても構わないけれど、あたし達のそれは全然違う。
秘書が上司をホテルに誘った馴れ初めを、彼らに話すなんてどうかしてる…。
あまりの恥ずかしさに、
「あたし、…帰ります。」
と言って、立ち上がる。
すると、その腕を引いて専務が言った。
「好きな女にホテルに誘われたら、舞い上がるの当然だろ。」
「…え?」
「遊びなんかじゃねーよ、こっちはずっと本気だっつーの。」
そう言って持っていたウイスキーのグラスを一気に空けた専務は、ソファの背もたれにぐたっと倒れ込んだ。
「あーぁ、言いたいことだけ言ってダウンしたよ司。」
苦笑する花沢さん。
立ち上がったままのあたしは、どうしていいのか分からず専務を見つめていると、
「牧野さん、座ってゆっくり飲み直そう。
俺たちがここに呼ばれた理由も教えたいし。」
と、優しく微笑む美作さん。
……………
それから1時間、あたしはこの3人から専務の恋愛履歴をたっぷり聞かされることになった。
どうやら、あたしは専務のことをかなり誤解していたようだ。
女に苦労知らずで、多くの経験をしてきたと思っていたけれど、実際はその真逆。
「学生時代は女嫌いで有名。話しかけてくるやつはオール無視。女を紹介してやるって言っても乗ってきたことなんて1度もねーよ。」
と、西門さん。
「彼女がいたことは?」
「俺たちの知る限り、ナッシング!」
3人が口を揃えて言う。
ソファに沈み込み眠る専務。
その顔を見つめながら、さっきの言葉を思い出す。
『好きな女に誘われたら、舞い上がるの当然だろ。』
その言葉の真意は…、
あたしの心の声が漏れたかのように、花沢さんが言った。
「司に本気だって言わせたあんたは凄いよ。」
「…え?」
「今日だって、あんたのために俺たち集合させられたんだ。あんたに、『遊びの付き合い』だと誤解されてるから、それを解いてくれって。
まぁ、そんなにグダグダに酔っ払う司を見られたから、サービスで教えてあげる。
司が女を好きだって言ったのはあんたが初めて。
そんな姿になるって事は、相当惚れてる証拠だよ。」
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