My teacher 36

My teacher
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しばらくして、ババァから義兄が道明寺HDに戻ってくると聞かされた。
義兄にとって、やりたい仕事はきっとそこにあったんだろう。

義兄が仕事に戻ってくるとなると、業務体制も変わってくる。
今まで俺がやっていた仕事を義兄に任せて俺は日本に帰ることになるかもしれない。

牧野との関係も、このままズルズルとNYと日本の間で遠距離を続けていく事に限界がある。
そうなると、自ずと「結婚」という言葉が頭をよぎる。

牧野にはもう何度となく「結婚したい」と伝えている。
好きという言葉をきちんと言ってくれるあいつに対して、俺も容赦なく「結婚するぞ。」と返す。

もちろん、プロポーズはきちんとするつもりだけど、何度も何度も言い聞かせてからじゃねーと、また逃げるからなあいつは。
プロポーズはいつがいいだろうか。
いや、その前にババァに報告すべきだろうな。

オフィスのデスクに座りながら、そんな事を考えていると、メールが一通届いたとパソコン画面に通知があった。

開いてみると、牧野からだ。
「この間の大会で撮った写真。生徒がくれたから、道明寺先生にもあげる。」
その言葉と画像が1枚。

バレー部員たちに囲まれるようにして写る俺と牧野。
急にハイチーズなんて言われて撮られたから、俺の目線は牧野に向いてるし、牧野も驚いた顔で写っている。
でも、生徒たちの弾けるような笑顔は最高にいい。

「サンキュー」
牧野にそう返信して、俺は立ち上がった。

オフィスの奥に行き、アンティークの棚を開ける。
そこには、数冊のノートが入っている。
教師を辞めた後も処分できずに大事に取ってあるノート。
それを取り出してパラパラとめくると、当時の思い出が一気に蘇ってくる。

授業の前の日に必ず作っていた授業ノート。
生徒たちの家庭環境や性格を記したマル秘ノート。
教師時代毎日欠かさず書いていた日記。

淡々と過ごしていた教師時代だったけれど、こうして読み返してみると、情熱を持って向き合っていたのが分かる。

もちろん、今の仕事だって好きだ。
NYのビジネスの最先端で働いている自分も悪くないと思う。
けれど、牧野との会話で生徒や学校の話が出ると、懐かしさとほんの少しの羨ましさが込み上げる。

この羨ましいという気持ちは、いったいいつになったら消えるのだろうか。

……………
それから3ヶ月後、久しぶりにNYのオフィスにババァが顔を出した。
義兄が道明寺HDに戻ってきてから、ババァとは初めて顔を合わせる。

「相変わらず、何も無いわねこの部屋は。
ちゃんと仕事してるのかしら?」
ガランとしたオフィスを眺めながら、開口一番嫌みをいうババァ。

「必要なものはここにちゃんと入ってるからいーんだよ。」
俺も負けじとパソコンを指差しながら答える。

「まぁ、有能な秘書が付いてるから心配はしてないわよ。」

「西田も結構ミスするぞ。」

「それ、西田の前で言うんじゃないわよ。へそ曲げられて仕事に支障をきたすのはあなただからね。」

久しぶりに会った親子の会話がこれだ。
そして、ソファに座ったババァは30分ほど仕事の話をしたあと、俺に言った。

「早乙女がここに来たんですってね。」

「ああ。」

「何て言ったかは知らないけれど、あなたの言葉で道明寺HDに戻る事を決心したって言ってたわ。」

俺の言葉……。
たぶん、あれか。
義兄に俺が最後に言った言葉。
「あなたの1番好きな仕事は何か。判断基準はただそれだけ。」

あの言葉が義兄を決心させたかもしれねぇけど、
逆に俺はあの言葉で迷いが出ちまった。
他人には言えたあの言葉を、自分には怖くてぶつけられない。

小さくため息を付いた俺に、ババァが言った。
「4月から、NYは早乙女に任せる事にしたわ。」

「…おう、分かった。」
予想はしていたから驚きはしない。

「何よ、嬉しくないの?」

「あ?…仕事を奪われて喜ぶ奴なんているかよ。」

「あら意外ね。
日本に帰って来たくてウズウズしてるのかと思ってたわ。」

ニヤリと笑いながらそう言うババァは、何か情報を掴んでいる顔をしている。

「姉ちゃんか?」

「何が?」

「どうせ、聞いてんだろ。」

「さぁ。私は本人から聞かないと何も信じませんから。」

そう言って、コーヒーカップに口をつけるババァ。
どうやら、牧野の事は姉ちゃんから聞きつけたらしい。

「結婚」の話を持ち出すにはいいタイミングだろう。
けれど、俺の中ではもう一つ、ババァに言いたいことがあった。
それを、今言うべきなのか…。

迷っている俺に、
「何もないなら、私はこれで帰るわよ。」
と、立ち上がりかけるババァ。

「ちょっと待てよ。」

「あと10分だけ。言いたいことがあるなら言って頂戴。」
相変わらずの推しの強さに観念するしかない。

「会ってもらいたい女性がいる。
結婚したいと思ってる。」
そう言うと、

「どうやら、噂は本当らしいわね。」
と、ババァが笑う。

「噂?」

「ええ。ここ最近のあなたの表情が柔らかくなったって、もっぱらの噂よ。
で?いつその女性に合わせて貰えるのかしら?」

まるで仕事の話をしているかのように、手帳を取り出してスケジュールを確認するババァに、
俺は、
「いつでも会わせる準備は出来ている。」
そう答えた後、

ババァを真っ直ぐに見つめて言った。

「もう一つ、聞いてもらいたいことがある。」

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