天ぷら屋を出て、道明寺の車で幸の塾まで急いで迎えに行く。
完全に話が途中のままのあたしたちには、気まずい雰囲気が流れている。
さっき、道明寺はなんて言っただろうか。
確か、
『相変わらず、…おまえが好きだ。
おまえと籍を入れてパートナーになりたい。』
そんな事を言ったような気がするが、あたしの耳がおかしくなったのか。
あたしはてっきり、今日呼び出されたのは、道明寺から彼女と結婚するという報告を聞かされるとばかり思っていたのだ。
だから、胸の痛みを感じないように、出来るだけ明るく振る舞おうと……、
って事は、やっぱりあたしもこの人が好きなのだろうか。
いや、好きなのは分かってる。
けれど、今更籍を入れてパートナーになるなんて正直考えてもいなかった。
どう考えても、それは道明寺にとってプラスにはならないから。
シングルマザーと結婚?
それとも、隠し子発覚?
どちらにしても、それが世に出れば、あの頃と同じように、道明寺HDの株価は急降下なのは間違いない。
頭の中でそんな事がグルグルと回りっぱなしのあたしと、店を出てからも不機嫌さが戻らない道明寺。
そうこうしている内に、車は塾の前に到着し、幸が笑顔で乗り込んできた。
「パパが迎えに来るなんて初めてじゃん。」
「おう。」
「どこか行ってたの?」
「飯、食ってきた。」
道明寺がそう答えると、幸はあろう事かあっさりと言う。
「デートしてきたんだ。」
「でっ、デートって!」
思わず声が裏返るあたしと、幸の頭をワシャワシャと撫でる道明寺。
さっきまで険悪だった雰囲気が一気に柔らかくなる。
「俺もお腹すいた。
コンビニ寄って。」
塾の前にご飯を食べていく幸は、塾が終わった頃にはいつもお腹が空いたと騒ぎ出す。
だから、コンビニに寄るのは毎回のこと。
近くのコンビニに寄ると、幸はあたしたちの事を置いてさっさとお店の中へ消えていった。
それをあたしも追いかけようとした時、道明寺があたしの手を掴んだ。
「牧野。」
「…ん?」
「さっきの話だけだよ、」
「うん。」
「今度、もう一度ちゃんと話し合いたい。」
真剣な道明寺の目を見て、やっぱりさっきのはあたしの聞き間違いなんかじゃないんだと、一気に現実味が増して心臓がドキドキとうるさい。
コンビニでの買い物を終えて、再び道明寺の車でマンションまで帰る途中、
後部座席にいる幸が、急にポツリと言った。
「俺さー、旅行に行きたいなぁ。」
ついこの前の夏休みに沖縄と大阪に行き、そのあとは山登りもして大怪我をした男が何を言ってんだ。
「学校が始まったばっかりでしょ。
捻挫もまだ完治してないんだから、大人しくしてなさい。」
あたしがそう言うと、
「だって、3人で旅行に行ったことないじゃん。」
と、アイスを食べながら幸が言った。
「3人でって……、」
「ママとも、パパとも旅行した事はあるけど、3人ではないだろ?
今度の連休で行きたいっ!」
あまりわがままを言わない子だったはずなのに、道明寺とここ最近頻繁に会うようになって、わがままがうつったか?
思わず道明寺を睨むあたしに、ハンドルを持ちながら道明寺が、
「なんだよ。」
と、苦笑する。
「あんたのわがままが、」
「あ?」
「幸にも伝染してる。」
クック…と笑う道明寺に、幸がもう一度身体を乗り出して言った。
「パパ、3人で行こうよ。」
「あのね、パパは仕事が忙しいのっ!」
代わりに答えるあたし。
「連休は?無理?」
それでも食い下がる幸に、
「パパの仕事は土日も関係ないのっ!」
と、あたしも引き下がらない。
すると、ちょうど赤信号になって車を止めた道明寺が、あたしと幸を見て言った。
「家族旅行の為なら、一年間でも休み取ってやる。」
その言葉に大はしゃぎする幸と、視線を逸らして窓の外を見るあたし。
大人になった道明寺の、一つ一つの仕草や言葉が心臓に痛くて、直視出来ない。
これ以上一緒にいると、きっとあたし……、
想いが溢れ出しそうで怖い。

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コメント
溢れる思いを出しちゃいなよ!
つくしママ!
じわじわと溢れ出しますよ〜♡