「浮気?!」
「……そう。」
「まさか。…滋さんの勘違いじゃない?」
「勘違いならこんなに悩んでないわよ。」
日曜の昼過ぎ。
何度も来たことのあるお気に入りのカフェで、あたしの愚痴を聞いてくれているのは、あたしが愛して止まない親友のつくし。
と、その隣に座るクルクル頭の道明寺司。
あたしの突然の電話に、
『道明寺とカフェで待ち合わせてるから、滋さんも来なよ。』
と、つくしが言ってくれたので甘えることにした。
あたしは一週間前、付き合って1年になる彼氏に浮気されていた事を知った。
京都に素敵な小料理屋が出来たからと桜子に誘われ、完全個室のその店で、海外に出張中のはずの彼氏と出くわした。
彼氏の腕には若い女の腕がぴったりと絡まり、熱々のラブラブ。
女将に、
「是非、来年の記念日にもお越しくださいませ。」と、声をかけられ満面の笑みを浮かべた所で、あたしと桜子の視線に気付き、ジ・エンド。
「それで?別れたの?」
「当たり前でしょ。」
「彼氏はなんて?」
「あいつの言い訳なんて聞きたくないっ。」
真剣にあたしの話を聞いてくれるつくしと、その横で経済雑誌をパラパラめくる司。
カフェに来たときから、
『なんでお前までいるんだよ。』
と、あからさまに嫌味を言ってきたこのクルクル頭の男は、あたしの傷心した話にも無関心で、
「俺、トイレ行ってくる。」
と、つくしの頭をひと撫でして席を立つ。
相変わらずつくしにだけは優しいこの男。
今日だって久しぶりのデートのはずなのに、
『滋さんの話を聞いてから。』
と、つくしのお願いをチッと小さな舌打ちで飲み込んだ。
「あーあ、なんかバカらしくなっちゃった。」
「なにが?」
「だって、真剣に付き合ってたのはあたしだけだったんだーて思うとさ。」
「そんなことないよ。」
トイレから戻った司がつくしの隣に座る。
それを見てあたしは、
「ねぇ、男ってさ、」
と、司に口を開いた。
「どこからが浮気な訳?」
「あ?」
「だから、浮気っていう定義は男と女で微妙に違うのかなぁなんて思って。」
「知らねーよ。そんなの人それぞれなんじゃねーの。」
そう言ってまた雑誌を開く司に、
「じゃあ、司は?」
と、聞いてみる。
「うるせぇ。」
「なんでよ、答えてよ。
あー、つくしの前だから言えないとか?」
「あ?」
司の唯一の弱点はつくしだ。
あたしの悩みやお願いなんて絶対に聞いてくれないくせに、つくしの事になれば目の色変える激甘男。
案の定、さっきまで無関心だったのに隣のつくしが「そうなの?」って顔してるだけで雑誌を置いて渋々付き合ってくれる。
「司は?どこからが浮気?」
「それって、自分がってことか?」
「そうだけど、…ちなみにつくしがって言われたらどこから?」
「俺の知らねぇ男と電話しただけでアウト。」
予想以上のバカ回答に噴き出すしかない。
「あんた、相変わらず心が狭いわね。
それじゃ、自分はどーなの?」
「俺は、……まぁ、こいつに許可なく二人で会った時点でアウトだな。」
「それって、つくしには厳しいのに、自分にはかなり甘くない?」
「甘くねーよ。
だいたい、俺は女の電話にはでねぇし、誘われても行かねぇから、甘く設定してもなんの問題もねーだろ。」
「……はいはい。聞いた相手が悪かったわ。
司はなんの参考にもならない。」
何年もつくし一筋のこの男に恋愛話を聞いたあたしが悪かった。
小さくベェーっと司に舌を出してやると、
司もあたしにデコピンの仕草をして応戦。
そんなあたしたちに、
「二人とも、喧嘩しないっ。」
と、つくしから注意が入る。
そして、
「ごめん、あたしもちょっとトイレいってくる。」
と、今度はつくしがそう言って席を立つが、
司と並んで奥に座るつくしは、大きい身体の司が席を立たないと通路に出ることが出来ない。
「道明寺、席立って。」
「なんでだよ。」
「だから、あたしトイレに行きたいの。」
「ここから行けよ。」
司はニヤッと笑いながら自分の膝の上を跨いで行けとつくしに言う。
「はぁ?
ふざけてないで早く立って。」
「ふざけてねぇ。こいよ。」
「やっ、ちょっと、バカっ」
司がつくしの腕を引いて自分の方へ引き寄せる。
司の膝の上に乗り上げることになったつくしは、
「バカじゃないのっ。」
と、顔を赤くしながら司の胸をバシッと叩き、
「トイレ行ってくる。」
と、司を睨みながら走っていく。
「あのね、失恋したばかりの女の前でイチャつくのやめてもらえる?」
「あ?別にイチャついてねーけど。」
「顔が思いっきり緩んでるよ司。」
「フッ……マジで可愛いだろあいつ。」
あんたたち、何年付き合ってるのよ。
付き合い始めの高校生カップルじゃないんだからっ、と、説教してやろうかと思ったあたしに、
チラッとトイレの方に視線を送ったあと司が真剣な顔で言った。
「滋。
その男はやめとけ。」
「え?」
「浮気するよーな男は、ろくな奴じゃねーよ。」
「うん。」
「本気で惚れてて大切だって想う女がいれば、他の女なんて眼に入らねぇだろうし、そんな余裕ねーよ。」
「……分かってる。」
「好きな女、自分が生きてるたった100年くらい愛せねぇなんてろくな男じゃねーぞ。
そんな奴のために悩んだり無駄な時間使うな。」
つい数分前、この男に相談して間違えだったなんて思った自分を消し去りたい。
恋愛について、いつでも真っ直ぐで、真剣に向き合ってる男こそ、司だから。
トイレから戻ってきたつくしが、あたしたち二人の真剣な顔に、
「どうかした?」
と、聞く。
「なんでもねーよ。
滋、俺ら行ってもいいか?
そろそろ二人にしてくれねぇ?」
「プッ…ったく、相変わらず失礼ね!
つくし、今日はありがとね。
おかげで、モヤモヤしてたのがスッキリしたわ。
司、その100年くらい……っていう話、ちゃんとつくしにもしてあげたら?女なら感動しちゃうと思うけどなぁー。」
「おぉ、このあとのラブラブな時間に言うことにするわ。またなっ。」
「だからっ、失恋したばかりの女にそーいうこと言うなっ!」
痛くて痛くて、辛くて辛くて、抜け出せない失恋だと思っていたこの一週間なのに、
司の言葉で、
ほんの小さなトゲが刺さったくらいの痛みに変わった。
この恋は、あたしの人生の中でたったの一年間だったのだ。
あたしも100年愛せる相手をみつけたい。
そして、司のように、たったの100年くらい…なんて言ってみたい。
FIN

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