「先生〜、携帯鳴りましたよ〜。」
明日の締切に合わせて部屋で最後の仕上げをしていると、アシスタントのひろ子さんがあたしの携帯を指差して言った。
「あ、はいはい。
後で見まーす。」
「またー、彼氏だったらどうするんですか。」
「そっかぁ、今見まーす。」
あたしのアシスタントをしてくれているひろ子さんと一樹くん。
どちらもあたしより5歳以上も年上だ。
あたしが漫画家のアシスタントをバイトでしていた時からの知り合いで、2年後あたしが漫画家として独り立ちした時に、アシスタントを引き受けてくれた恩人でもある。
かれこれ5年、ひろ子さんと一樹くんと何度も試練を乗り越えてきただけあって、あたしには家族同然の仲。
そんな彼らと今日も締切に追われる日々。
ひろ子さんに促されて携帯を覗くと、彼からライン。
「仕事が落ち着いたら、少しは俺のことも構え。」
拗ねているようなその一文に思わず顔がニヤける。
ここ一週間は忙しくて会えていない。
今日、原稿を書き上げたら連絡するつもりでいた。
彼もそれを分かっていて、仕事中は殆ど連絡はして来ない。
その距離感が心地よくて、彼の優しさに甘えている。
「先生の彼氏ってどんな人だろう。」
「私もそれ興味ある。」
「全然っ、想像出来ないけど、変わり者って事は間違いないと思う。」
「私も同感。だって、先生とまともに付き合えるのって、すんごい辛抱強い人じゃないと無理だと思うよー。」
本人が聞いてる前で、よくもそうズケズケと言えるものだ。
けれど、いつも仕事の合間に聞くひろ子さんと一樹くんの毒舌トークも、あたしにとっては心地よい時間。
「先生、仕事終わったら彼氏さん呼んで打ち上げします?」
「えっ?!」
「一樹くん、ナイスアイデア!
彼氏さんだって、久々に先生に会いたいでしょ。」
「いやいやいや、大丈夫ですって。
原稿仕上げたらきちんと連絡しますから。」
慌ててそう言うあたしの声なんてスルーして、
「ウーロン茶あったかな。」
「僕、後で買ってきます。」
「そう?お願い。ついでに珍味も補充しておく?」
「ですね、買ってきます。」
なんて、もう飲み会開催の買い出し相談が完了した二人。
こういう時も仕事が早いのだこの二人は。
「さぁっ、1時間で終わらせますよ先生。
彼氏に連絡しておいてくださーい。」
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:
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「もしもし。」
「仕事、終わったのか?」
「うん。
あのね、実は、これから会えないかなーと思って。」
「仕事終わったら迎えに行く。」
「あっ、そーじゃなくて…、」
「ん?」
「アシスタントのひろ子さんと一樹くんが部屋で一緒に飲まないかって。」
「……。」
「嫌ならいいのっ。無理しな…」
「無理なんかじゃねーよ。
会いたいに決まってんじゃん。
おまえにも、おまえの大事な人にも。」
「…うん。待ってる。」
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