突然、俺の職場に乱入してきた姉ちゃん。
「いつ日本に来てたんだよ。」
「今日の朝着いたのよ。」
「会社になにか用か?」
「なにか用かって、当たり前じゃない。弟がお世話になっているチームの方にご挨拶をしに来たのよ〜。」
と、さも楽しそうに言いながら、チームメンバーにお土産のお菓子を手渡し愛想を振りまく姉ちゃん。
その笑顔に、
「わぁー、素敵〜!」
と、黄色い声が上がるけれど、姉ちゃんの真の目的はそんな事じゃないのは分かっている。
姉ちゃんが余計なことを口走らないうちに、俺は背中を押して奥の部屋へ姉ちゃんを押し込むと、
「牧野、わりぃ。コーヒー2つ持ってきてくれるか?」
と、頼みドアを閉めた。
数分後、「失礼します。」といってコーヒーを盆に載せた牧野が会議室に入ってきた。
その盆を受け取りながら姉ちゃんに言う。
「こちらが牧野つくしさん。姉ちゃんがここに来た理由は牧野に逢いに来たんだろ?」
「ふふふ〜、バレてるわよね。初めましてつくしちゃん。司の姉の椿です。」
そう言って手を出す姉ちゃんに、牧野は深く頭を下げたあと、「牧野つくしです。」と言ってその手を握った。
すると、姉ちゃんはその手を離さずにそのまま牧野をグイグイと自分の隣に座らせて、俺に向かって言い出した。
「司、あんたは仕事してらっしゃい。私、ここでつくしちゃんとコーヒータイムしてるから。」
「あっ?ふざけんなっ。牧野だって忙しーんだよ。」
「あらそう?つくしちゃん忙しーの?」
「え、いえ、あのぉー、」
「少しくらい大丈夫よね?なんなら、つくしちゃんの仕事、あんたがしてらっしゃい。」
そう言って俺を顎で使う姉ちゃんに開いた口が塞がらない。
そんな俺たちの会話を見つめていた牧野が小さくプッ笑い出す。
「つくしちゃん、なにー、面白かった?」
「いえ、…すみません。」
「いーのよ、いつもこうだから私たち。」
にっこり笑って余裕の姉ちゃんに、俺は頭をかき混ぜながら
「姉ちゃん、もういーだろ。そろそろ帰れ。」
と言ってやる。
「コーヒーくらい飲ませてよ。」
「社長の所にも寄っていくんだろ?」
「そうだった。会議があるから早めに顔出せって言われてたんだった。」
「ほらな?急いで行け。」
「分かったわよ。つくしちゃんにも会えたことだし、そろそろ行こうかしら。」
そう言って立ち上がりドアに向かった姉ちゃんは、くるりと振り向いて牧野にウインクしながら言う。
「つくしちゃん、司に虐められたらいつでも私に連絡してちょうだいね。ボッコボコにしてあげるから。」
「姉ちゃんっ!」
「ふふふっ……冗談よ。つくしちゃんにメロメロなあんたが虐めるはずないものね〜。つくしちゃん、今度はこのうるさい男抜きで一緒に食事に行きましょ!連絡するわ。」
そう言って手で電話をかける真似をしながら去っていく姉ちゃんに俺は深いため息をついた。
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その夜、俺は会社近くの居酒屋に来ていた。
「チーム長、今日はお疲れ様でした。」
そう言ってグラスを合わせるのは、チーム最年長の杉山さん。
帰り際、杉山さんから、
「軽く一杯呑んでいきませんか?」と誘われて、1年ぶりに2人で盃を交わしている。
「お姉さん、突然の来社でしたね。」
「はぁ、お騒がせしました。」
「いえいえ。初めてチーム長のお姉さんに会いましたけど、お噂通り綺麗な方で。」
「黙ってれば、そこそこ綺麗なんですけど。」
その答えに、プッと吹き出す杉山さん。
「昔からああいうお方ですか?」
「まぁ、物心着いた時には、あんな感じでしたね。殴る蹴るどつくは当たり前で、俺を下僕だと思ってますからあの人は。」
「でも、仲良いーんでしょーねきっと。言葉で言い合っていても、雰囲気で分かります。」
確かに、杉山さんの言う通りかもしれない。
ガキの頃から、家族の中でいつも味方でいてくれたのは姉ちゃんだから。
照れながらもビールを1口がぶりと飲むと、同じようにお酒に口をつけた杉山さんが言った。
「お姉さんは牧野さんに逢いに来たんですか?」
「……、だと思います。」
「もう、ご家族に紹介するほどの仲なんですね。」
「一応、結婚も考えています。」
杉山さんが相手だから、何となく誤魔化しが効かないだろうと思い素直に話すと、
「ほぉー、それは良かった。」
と、嬉しそうに頷く。
そして、
「1年前、チーム長がこのチームに来た時から、私はもしかしたらそうなるんじゃないかと思ってました。」
と驚くことを言う。
「え?1年前に?」
「ええ。覚えてますか?1年前。チーム長が2課に来る事が正式に決まった日、私が残業しているとチーム長が現れましたよね。」
あー、確かにそんな事があったかもしれない。
これから働く環境を見ておきたいと思って、フロアに誰もいない時間を見計らって行くと、残業中の杉山さんが居たのだ。
「その時に、チーム長が2課のメンバーの資料を見せてくれと仰って、私が一人一人メンバーの性格や仕事の得意分野などを説明したじゃないですか。」
「あー、そうでしたね。」
「あの時、不思議に思ったことが1つあったんです。」
「……不思議?」
「ええ。私が牧野さんのことを説明しようとした時、チーム長が言ったんです。彼女のことは殆ど分かっているからいいと。」
「…………。」
「牧野さんに関しては、もう既にご自身でお調べになっていたんですよね?」
杉山さんにそう聞かれて、
『牧野がこのチームにいるから2課を選んだ』
とはいえず、無言でつまみを口に入れる。
「いつから好きだったんですか?」
その質問には答えずに、
「……バレてましたか?」
そう聞くと、
「ええ、完全に。」
と、笑いながら俺を見る。
「いつになったら行動に移すんだろうとこっちがハラハラしながら見守ってましたけど、ようやく1年経ってチーム長が動き出したので、そりゃ安心しましたよ。」
「…………。」
「やはり、あれですか?仕事と一緒で、チーム長なりに策略を練ってたって所でしょうか?」
仕事に対してはかなり慎重派だ。
色々な角度から策略を練り、狙った獲物は逃がさない。それが俺流のやり方だが、恋愛はそう簡単じゃなかった。
「相手があいつなんで、責めどころが掴めないっつーか、急所が分かんねーっつーか、」
「あはは、ですね、それは分かります。」
「まぁ、でも、懐にはとりあえず入れたんで、あとは逃がさねーように、大事に守って行こうと思ってます。」
そう俺が言うと、杉山さんは目を細めながら、言った。
「私、来年で定年なんですよ。最後の職場がチーム長率いる2課で本当に良かった。可愛い後輩たちをよろしくお願いします。」
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