交際も順調に進み数ヶ月がたった頃、あたしは仕事の打ち合わせでチームの冴島くんと一緒に取引会社に来ていた。
今日の打ち合わせの相手は、ビジネス業界で『超美人』だと噂されている金森さくらさん。
噂は聞いていたけれど、あたしは今日お会いするのが初めて。
小さな会議室での打ち合わせが始まった途端、
「あれ〜、今日は道明寺さんは来られないんですか〜?」
と、残念そうに聞いてくる。
「はい。申し訳ありません。」
「なんだぁー、あたし道明寺さんと会うの楽しみにして朝から張り切ってメイクしたのに〜。」
その綺麗な顔立ちから、勝手にクールなイメージを想像していたけれど、実際のさくらさんはあたしより4つ上なのにまるでギャルのような話し方。
あたしと冴島くんも最初は度肝を抜かれたけれど、話していくうちに裏表ないそのキャラクターにどっぷりと魅入られていく。
仕事の打ち合わせが1時間程で終了し、少しのコーヒータイム。
すると、また
「あたしぃー、道明寺さんの顔がどストライクなのよね〜。彼、あたしのことなにか言ってませんでした〜?」
と、詰め寄ってくる。
「い、いえ、特に。」
「ほんとぉー?あれだけ猛アタックしてるのに冷たいんだから〜。」
冴島くんはあたしとチーム長が付き合っているのを知っているから、かなり気まずそうだ。
どうします?と目で訴えてくるけれど、あたしは小さく首を振り、何も言わないでと口止めする。
そして、これ以上話がややこしくならないうちに退散しようと、あたし達は早めに席を立った。
会社に戻り2課のフロアに入ると、
「お疲れ。どうだった?」
と、チーム長か聞いてくる。
それに無言の睨みで返すと、不思議そうにあたしを見つめたあと、指でチョイチョイと合図され、廊下の端に連れていかれる。
「何かあったのか?」
「……さくらさん、チーム長と打ち合わせをしたい様でしたけど?」
「また無理な提案してきたのかよ。」
「そーじゃなくて。チーム長のファンだとかって言ってましたよー。」
わざと棒読みで言ってみると、チーム長は顔色変えずに、
「あの人、いつもそういうノリだから気にすんな。」
と、サラッと言ってのける。
「おまえがイヤなら次回は吉田に行かせるけど。」
なんか、あたしだけがヤキモチを焼いてモヤモヤしてるのが急に恥ずかしくなり、
「だ、大丈夫!仕事なんだから責任もってやりますっ!」
と、宣言する。
それでも、独占欲というか、支配欲というか、今まで感じたこともない感情に動かされて、思わず言ってみる。
「さくらさんに、あたし達が付き合ってること話します?」
あたしはこの言葉に対して、チーム長が『ああ、そーだな。俺は隠すつもりはねーし。』といつものように言ってくれると期待していたのかもしれない。
でも、違った。
チーム長が言ったのは、
「いや、黙っておこーぜ。付き合ってるってわざわざバラすつもりはねーし。」
だった。
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完全に墓穴を掘った。
それは痛いほど自覚している。
チーム長が堂々と交際宣言してくれると思っていたのに、結果は真逆。
黙っておこうと言われて、落ち込んでるなんて。
そうなると、思考はどんどん泥沼に入り込み、
『もしかして、チーム長もさくらさんに気があるのでは?』
『別れたいと思ってるから、交際を公にする事を控えているのか?』
なんて、モヤモヤ考える時間が増える。
はぁーーー。
やっぱり恋愛って結局こうなるのだろうか。
1に仕事、2にお金。
あたしにが行き着く先はやはりそこなのかもしれない。
そんな中、さくらさんとの打ち合わせが3回目を迎えた。
いつものように、チーム長が来ないことに、
「んんーもぉ、あたし避けられてるのかなぁー。」
なんて可愛くおどけて言ってくる。
「すみません。チーム長は掛け持ちの仕事も多く、」
「いーのいーのっ。冗談よ!次の仕事も道明寺さんとご一緒できるって聞いたから、楽しみなのよー。」
「……次の仕事ですか?」
さくらさんと組んでやる仕事がこれ以外にあるとは聞いていない。
もう別の案件が決まっているのだろうか。
すると、さくらさんが思いがけないことを言った。
「来年にはNYに戻るのよね道明寺さん。だからあたしも思い切ってNY支部に異動願い出しちゃおーかと思ってるの。そしたら向こうでも一緒に仕事できるし〜。」
さくらさんの言葉がうまく頭に入ってこない。
チーム長が来年にNYに戻る?
チーム長の1番そばにいると思っていたのに、何も聞かされていなかったことにショックが隠せない。
「牧野さん?大丈夫?顔色悪いわ。」
「いえ、大丈夫です。」
「もしかして、まだチーム内ではこの事は内緒だったのかしら……ごめんなさい、あたしペラペラ喋っちゃって。」
さくらさんがバツが悪そうにあたしに頭を下げてくれる。
さくらさんが謝ることでは無いし、この話が本当なら、チーム長があたしに伝えてくれていない事には、きちんと理由があるはず。
だから、あたしは自分に言い聞かせるように、さくらさんに向かって言った。
「まだあたし達には何も聞かされていませんが、きっとチーム長はみんなにとって1番いい方法を考えてくれているはずです。
だから、あたしは、チーム長の口から聞けるまで待ちます。」
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