久しぶりに茶道部の部室に来た。
今日は部活は休み。後輩たちは誰も居ないけれど、
部屋に入るなり、
「おー、来たか。」
と、西門さんが声をかけてくれる。
「何してるの?」
「茶器をそろそろ新しいものに変えようかと思って調べてた。」
「ふーん、」
「そういえば、合格したらしいな。」
「うん、ようやくね。」
「めでたいじゃん。」
「ありがと。」
そう、12月に入りようやくあたしは英徳大学への進学が正式に決まったのだ。
学部は目指していた教育学部。
将来は中学の国語の先生に。
「手伝う?」
「別にいらねーけど、暇だから来たんだろ?」
「暇って訳じゃ……」
受験も一段落して晴れて自由の身になったのに、正直時間を持て余している。
それは同じ英徳大に行く西門さん達も同じだろう。
「美作さんは?」
「あいつは今日デートだってよ。」
「はぁ?誰と?」
「女子大生。」
「っ!相変わらず年上好きだねあの人は。」
「まぁーな。」
西門さんは茶器を箱に丁寧にしまいながらクスクスと笑う。
元々は道明寺の友達だった西門さんと美作さん。
2人とも道明寺と同じく名家の御曹司。
同級生からも一目置かれていて、みんな『さん』付けで呼んでいる。
「おまえも暇なら引退した部活なんて来ねーで、誰かとデートぐらいしてこいよ。」
「……。」
「山村とはどうなった?」
「どうもなってないしっ。」
忘れかけていたのに、あの時のことを思い出す。
後輩の山村くんとは秋祭りの花火を一緒に見る予定だった。
けど、あたしは前日に彼に『行けない』と連絡したのだ。
理由は……、『この距離に山村を近づけるのか?』と聞かれた道明寺とのキス。
はぁーー。
またあの光景が頭に浮かび、慌てて首をぶんぶん振る。
そんなあたしを呆れた顔で見つめながら
「少しは恋愛でもしろ」
と、西門さんが呟いた。
恋愛かぁ……。
「ねぇ、西門さん。」
「ん?」
「あのね、いやー、あたしの友達の話なんだけど……」
「うん」
「AさんとBくんがいて、2人は小さな頃から知り合いで、」
「AさんとBくん?」
「いーの、とにかく聞いて!
2人は幼なじみみたいな関係でいつも一緒にいるの。それが当たり前だったんだけど、ある日突然そのBくんがAさんに好きだって告白したの。」
「おう。それで?」
「Aさんは迷ってて」
「何に?」
「Bくんとは一緒にいたいし好きだけど、それが異性としての感情なのか分からなくて。自分のだす返事で今までの2人の関係が壊れちゃいそうで怖いの。」
「司にはいつ告白された?」
「1か月前。……っ!」
咄嗟に答えてしまい、あたしは慌てて、
「えっ、ちがっ!これはあたしの友達の話でっ」
と、弁解するけど、西門さんは聞いちゃいない。
「幼なじみのAさんBくんはどーせ、おまえらだろ。っつーか、司、ようやくおまえに好きだって言ったのかよ。」
「へ?」
道明寺とあたしの話だと知ってもたいした驚いた素振りを見せない西門さんに、あたしの方が戸惑う。
「西門さん……知ってたの?」
「見てりゃ分かるだろ。女とほとんど話もしねぇあいつが、幼なじみだからって理由だけでおまえのそばにいると思ってたのか?」
「……。」
「俺が知る限り、司は何年もおまえしか見てきてねーぞ。
二人の関係が壊れるのが怖い?そんなの司が1番分かってるはずだ。」
「……うん。」
「それでも好きだって告白したってことは、もう牧野への気持ちを抑えるのをやめたんだろ。」
あたしが道明寺を幼なじみとしてしか見ていない間、あいつはいつからあたしを異性として見ていたのだろう。
あたしなんて、道明寺を異性として見始めてまだ1か月も経っていないのに、心臓がドキドキして死にそうだというのに。
「真面目にアドバイスするなら、おまえら近すぎんじゃねぇ?」
西門さんがあたしを真っ直ぐに見て言う。
「近すぎ?」
「ああ。近すぎて見えるもんも見えねーんだよ。
居て当たり前に思ってるだろ司のこと。もしあいつが他のやつと付き合ったら……って考えてみろよ。それでも牧野は今までどおり司と『幼なじみ』でいられるか?」
あたしは今までどこかで道明寺のことを誤解していたかもしれない。
他校からもキャーキャー言われるほどビジュアルが完璧なあいつ。もちろんモテないわけが無い。
それでも、道明寺が女性に優しくする姿なんて見たことがなかったから恋愛には興味が無いと思っていた。
でも、もしも道明寺が誰かと付き合ったら……。
時々みせるあの無邪気な笑顔や分かりにくい不器用な優しさをその人に向けると思うと、
確かに、あたしの胸はズキズキと痛む。
それがあたしの答えなのだろうか。
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