出来ない女と、しない男 32

出来ない女と、しない男
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半年ぶりの帰国だった。
来週の株主総会に合わせての帰国だが、理由はそれだけではない。

最近、司の周りが騒がしい。
彼女に関する噂でマスコミの取材も増え、それはNYにまで飛び火してきている。

当の本人は、隠す気配もなく
「好きな女がいる。」
と電話で言い、ここ2年欠かさず続けてきたお見合いも今回でやめにしろと言ってきた。

司から女性の話が出るのは初めてのこと。
しかも、惚れていると母親に言うほどその女性に惹かれているらしい。
今までどんな相手にも見向きもしなかった司がそこまで惚れ込んだ相手は誰なのか……。

「今度、会わせなさい。」
そう言った私に、

「ああ、そのうちな。」
と言ったきり司から連絡はなかった。

株主総会を理由に帰国した私は、プライベートジェットを降り、会社ではなくあるところへ向かった。

それは、大河原邸。
昔からあるその由緒正しいお屋敷は、孫の代に受け継がれ、今では孫の滋さんが所有している。
そして、そこに一緒に暮らしているのが司の彼女。

どんな女性なのか…………。
司が会わせてくれないのなら、自分から会いに行くしかない。
約束もせず、司にも言わず、
静かにチャイムを鳴らした。

目の前に現れたのは、小柄な普通の女の子。
拍子抜けするくらい呆気なく私を部屋に招き入れ、「お世話になってます。」とペコッと頭を下げた。

「私がここに来ることは知っていたのかしら?」

「はい、さっき電話で聞きましたので。」

司がこの子に電話した?
いや、でも、司も私がここに来ることは知らないはず。

キッチンからお茶をもって戻ってきた彼女は私の前にそれを出すと、
「もうすぐ来ると思いますので。」
そう言って壁にかかる時計を見る。

「…………?
もうすぐ来る?」

「ええ。今、こっちに向かってるそうです。」

ますます訳が分からない。
私がここにいることを知った司が、ここに向かっているのか。

と、その時電話の音がして目の前の彼女が鞄から携帯を取りだし耳に当てる。

「もしもし?……うん。もういらっしゃってるよ。そう……わかった。大丈夫。
気を付けてね。」

簡単な会話で電話を切った彼女が、ますます私を混乱させる言葉を言う。
「滋さん、もう少し時間かかるそうです。
蔵の鍵は物置にあるので、画材道具、先に取りに行きます?」

「…………。」

「急ぎでないなら、滋さんが帰ってくるまで待ってて欲しいと言ってましたけど。」

「…………。」

黙って聞いているうちに、なんとなく私の頭のなかでパズルが組合わさっていく。
玄関を開けたときの警戒心のなさ。
噛み合っているようで合っていない会話。
そして、今の電話。

「…………このまま待たせて頂くわ。」

この子が誰かと勘違いして私を家に入れたのは間違いない。
でも、なんとなく、彼女を知るにはこのままこの状況を続けることがいいような気がして私は静かにそう言った。

「じゃあ、滋さんが帰ってくるまでここでゆっくりして下さい。」
彼女はニコリと笑いそう言ってまたキッチンの方へと向かった。

キッチンで作業している彼女。
パタパタと動く姿に興味をそそられ、近付くと、
手際よく料理を盛り付けている。

「お料理がお上手なのね。」

「あっ、いえ、食材がいいんです。」
そう笑う。

「あのぉ、お腹すきません?
良かったら待ってる間、ご飯にしませんか?」

「私は結構よ。」

「でも……滋さんまだかかるかもしれないですし、……一人で食事するのも寂しいので。」

そう言いながらすでにお盆には二人分の料理を用意している彼女。

テーブルに並べられたのは、久しく食べていない懐かしい和食。
魚の煮付けのいい香りが鼻をくすぐる。
促されるまま席についた私は彼女と向かい合って夕食をとることになった。

「滋さんや桜子のおかげで全国からおいしくて新鮮な食材が届くんです。
だから、簡単な料理や味付けで済んで助かります。」
そう謙遜する彼女の料理はなかなかいい味で、箸が進む。

そんな私のことを見て
「お魚お好きですか?
とてもきれいに食べられますね。」
と言う。

昔から食事の作法も厳しく仕込まれて育ってきている。
とくに和食の魚の食べ方は基本中の基本。

「魚は食べ方が難しいけれど、その魚の特徴を知っていれば簡単にきれいに食べれるのよ。
フォークやナイフで食べるより、箸を使う方が身もきれいに剥がせるわ。」

昔、母親にそう教えられた言葉。
それを何気なく口にした私に、正面の彼女が驚いた顔をして固まった。

「なにか?」

「いえっ、……同じことを言ってた人がいたので……。」

「同じこと?」

「はい。……私の付き合ってる人なんですけど、
今の言葉と同じことをこの前言ってたんです。
だから、驚いて…………」

そう言って小さく笑う彼女。

「…………あなたのお付き合いしてる人はどんなかたなのかしら?」

「すごく……いい人です。」

いい人……抽象的すぎるその言葉。
けれど、今まで司のことを『いい人』と呼んだ人はいただろうか。

「いい人……フフ……」
思わず笑う私。

そんな私に、
「フフ……おかしいですよね。
いい人なんて、本人にも言ったことないです。
でも、……言葉に言い表せないほど、…………
『いい男』なんです悔しいくらい。」
そう言ってため息をつきながらご飯を口にいれる彼女。

そんな彼女に
「好きなのね、彼が。」
そう思わず口にすると、

その漆黒の大きな目をまっすぐに私に向けて、

「はい。大事な人です。」

と、迷いのない言葉を返してきた。

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