『僕らが大学1年目の春』
晴れてあたし達は大学生活をスタートさせていた。
あたしは教育学部、道明寺は医学部で同じ英徳大とはいえキャンパスが違う。
普段は全く顔を合わせる機会はないけれど、週に一度の木曜日は、教育学部の大講堂で他の学部の生徒たちと一緒に外国語の講義を受ける。
約500人が入れる大講堂。
講義の約20分前に入ったあたしは、友人たちと一緒に後ろの方の席を確保した。
そして、『道明寺はもう来てるだろうか……』と、キョロキョロと周りを見ていると、
講堂の入口付近にいる女子生徒たちから「キャーっ」と黄色い声が上がった。
その視線の先を見ると、案の定、医学部の生徒たちの集団が今まさに講堂に入ってくるところ。
紛れもなく、さっきの黄色い声は道明寺に向けられたもの。
それを見て、あたしは思わず大きくため息をついた。
大学生になり道明寺の株は間違いなく急上昇している。元々、外国に留学すると思われていた道明寺、その彼が同じキャンパスにいて、しかも医学部。
私服姿も腹立つほどナチュラルに決まっていて、女子生徒の視線を釘付けにしているのだ。
『幼なじみ』から『彼女』になったあたしにとって、その道明寺の人気は素直に喜べるはずがない。
複雑な気持ちで道明寺が講堂に入ってくるのを見つめていると、その医学部の一行の中に見知った顔を見つけた。
あれは、1つ年上の『白石生徒会長』だ。
あたし達が高校2年生の時、生徒会長だった彼女。
留年したと噂では聞いていたけれど、ここに居るということは、今年英徳大の医学部に入り道明寺と同級生になったという事だろう。
白石会長と道明寺が隣合って座るのを後ろの座席から見つめていたあたしは、自分が嫉妬していることに気づいて慌てて頭をブンブンと振った。
………………
120分の講義が終わり教科書を閉じていると、ポケットの中にある携帯が振動した。
見ると、
『昼飯、一緒に食おうぜ。』
と、道明寺からのメール。
「午後からの講義は?」
と返信すると、
直ぐに、
「1時間後。」
と、相変わらず簡潔な答え。
こういう所は幼なじみだった頃と何も変わらないあたしたち。
「講堂横の学食で待ってる。」
と、さらに道明寺からのメールが来て、
思わず、
「げっ……目立つでしょあいつ……」
と呟きながらあたしは急いで講堂を出た。
学食に行くと、ランチタイムでかなり混んでいる。
山菜うどんを手にキョロキョロと道明寺を探していると、
「考えることは同じだな」
と、後ろから声がした。
振り向くと、あたしの後ろに立つ道明寺の手には同じく山菜うどん。
思わずぷッと笑ったら、
「やっぱ相性がいいな俺ら。」
と、あたしにだけ聞こえる小さな声で言う。
こういう事をさらっと顔色変えずに言えるこの人が羨ましい。彼氏彼女の関係になっておたおたしているあたしとは大違い。
今も道明寺の言葉に耳を赤くしながら学食の奥の席へと行き、向かい合って座る。
周囲の学生があたし達のことをチラチラと見ているのが分かる。
こんな人の多いところで待ち合わせるんじゃなかった……そう思った時、どこからか声が聞こえた。
「あの2人って幼なじみなんだって。小さな頃から一緒にいて、もう兄妹のようなもんらしいよ。」
半年前のあたしなら、そんな言葉も何も気にしなかっただろう。だって、それは本当のことだから。
でも、今は違う。
当たり前のように『幼なじみ』として見られ、誰もあたしを『彼女』だとは思っていないし、信じないだろう。
そんな現実に悲しくなりながら目を伏せていると、
「お久しぶり、牧野さん。」
と、横で声がして顔を上げる。
そこには白石会長が立っていた。
「あっ、お久しぶりですっ。」
慌てて頭を下げると、
「相変わらず仲良しね、幼なじみさんは。」
と、道明寺とあたしを見比べて言った後、道明寺の隣の席に座った。
道明寺の隣を当たり前のようにキープする彼女。
そして、それを好奇な目で見てヒソヒソと噂話をする周囲の学生たち。
きっと彼らの中では、白石会長が道明寺の彼女候補なのだろう。
そんな会長に曖昧に笑顔を作ることしか出来ないあたしだったけれど、
正面の道明寺はこの状況でとんでもない事を言いだした。
「つくし、俺たち幼なじみは卒業したんだよな?」
「へ?」
「こいつ、俺の彼女だから。」
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