総二郎が言った言葉が頭から離れなくて、その日の夜つくしにメールを送った。
「少し話せるか?」
「窓。」
つくしからのその返事を見て、俺は部屋の窓を開ける。
すると、いつものようにあいつの部屋のカーテンが開き、顔を出した。
「なに?」
「ここでは無理だ。」
「秘密の話?またタマさんに怒られるような事したの?」
「ちげーよ。
俺がそっちに行くか?」
「んー、いい。
あたしがそっちに行く。」
そう言って窓を閉めたつくしは、その数分後俺の部屋のドアをノックした。
部屋に入ってきたつくしは、風呂上がりなのか髪の毛先が少し濡れている。
もう肌寒い時期だというのに、下はショートパンツで肌の露出が多め、その姿にドキンと胸が鳴る。
こうしてつくしを異性として意識し始めてから3年以上経つ。
きっかけは中学3年生の時に、つくしの父親に連れていってもらったキャンプだった。
夕食までの一時、つくしと川で遊んでいると、あいつが足を滑らせ川に落ちた。
前の週に降った雨のせいかいつもより流れが早く、あっという間に20メートほど流され、俺は慌ててつくしを追って川に入った。
幸い、流れた先は水深も浅く大事に至ることはなかったけれど、つくしを川から引き上げた時、あいつは泣きながら俺にしがみついてきた。
テントまでの帰り道、足を挫いて歩けないつくしをおぶりながらゆっくり歩く俺に、背中で「ごめんね。」と言ったあと、「ありがと。道明寺がいてくれて良かった。」と呟いた。
その時に、俺は思った。
俺は自分が危ない目にあってでも、こいつだけは死ぬ気で守る。その事に迷いはないと。
その自分の思いに気付いてから、
思春期真っ只中の脳内は、バカみてぇに今もずっとこいつで溢れている。
「このパズル、まだ完成してないの?」
部屋に入ってきたつくしはローテーブルに広げられた未完成のパズルを見て言う。
「おまえが始めたんだから完成させろよ。」
「何年かかるか分からないよ。」
そう言って笑いながら、ローテーブルの側にあるソファに座る。
「話ってなに?」
「おまえさ……」
面と向かうとなかなかいいづらい。
つくしの隣に座り、ひとつ大きく息を吐く。
「おまえ、山村と付き合ってんのか?」
「は?」
「どうなんだよ。」
お互い面と向かって恋愛話をしたことなんて無い。
だからか、俺を不審そうに見つめて、
「なんでそんな事聞くの?」
と聞き返してくるこいつ。
「祭りに一緒に行くんだろ?」
「茶道部のみんなも一緒。」
「花火は?」
「花火は……」
そこまで言って口篭るつくしに、もう一度聞く。
「あいつと付き合ってるのか?」
「……付き合ってない。」
「それなら、行くな。」
キツい口調で言う俺に、つくしも怒ったように言い返す。
「なんで?なんで道明寺にそんな事言われなきゃいけないの?」
「山村の家に呼ばれてんだろ?」
「そうだけど」
「それがどういう意味か分かってんのかよっ。」
「どういうって……」
眉間に皺を寄せて俺を見つめるこいつは、今になってようやくその意味を考え始めてる。
そんなつくしの危うさと純粋さに無性に腹が立って、
俺は自分でも予想していなかった行動を取った。
隣に座り俺を見つめるつくしの顔に俺の顔を近づける。その距離15センチ。
目を見広げて固まるつくしに、
「この距離に山村を近づけるのか?」
と聞く。
何も言わないこいつに、俺はさらに近づく。
その距離10センチ。
もう、互いの息遣いが感じられる近さ。
そして、
「そんなの無理だろ。」
と呟いたあと、つくしの唇に俺のを軽く重ねた。
ファーストキス。
たぶん……つくしもそう。
軽く数秒重ねたあと、すぐに離して至近距離で見つめると、
じっと固まっていたつくしが突然、
「信じらんないっ!」
と俺の胸を突き飛ばし、部屋から出て行った。
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