出来ない女と、しない男 34

出来ない女と、しない男
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チャイムもせず大急ぎで大河原邸に入ると、リビングのドアが開けっぱなしになっていて、そこに牧野の姿が見えた。
そして、牧野と向き合っているのはババァ。

「牧野っ!」

「……道明寺?」

俺の呼ぶ声に驚いて振り向く牧野。
俺はそんな牧野を背中に隠し、

「どういうつもりだよっ!」
とババァに叫んだ。

「俺に内緒で勝手に会いに来て、牧野になにしたっ!」

「別になにもしてないわ。
ただ一緒に夕食を食べただけ。」

「……あ?」
意味がわからず拍子抜けする俺に、

「道明寺、ほんとなの。
さっきまでここで一緒にご飯を食べてたところ。
だから、あんたが心配するようなことは何もないから。」
牧野が俺の顔を覗き込みながらそう言う。

そんな俺たちを黙ってみていた滋が、
「とりあえず、お茶でも淹れるので座ったら?
どうぞ、道明寺社長もお掛けになってください。」
そう言ってリビングのソファに俺らを案内した。

滋が淹れてくれた紅茶を飲みながら、さっきよりは冷静な気持ちでババァに聞く。

「なんでここに来たんだよ。」

「牧野さんに会うためよ。」

「だからっ、なんで牧野に会う必要があるんだよ。」

またヒートアップしそうな自分を抑えてそう聞くと、
「来週には株主総会があるのよ。
道明寺HDの次期社長が女性にうつつを抜かして、仕事に影響が出るなんて事になっていたら、株主たちに示しがつかないわ。
だから、自分の目で確かめに来たのよ。」
そう言って俺たちをまっすぐ見つめるババァ。

「先週送った上半期の報告書を見てもらえば分かるだろ。
仕事に手を抜いた覚えはない。
それに、株主たちに文句を言われるような、牧野との付き合いはしていない。」
負けじと俺もババァをまっすぐ見返してやる。

すると突然ババァがとんでもないことを言った。

「牧野さん、司と結婚する気はおあり?」

「えっ?」

「ですから、道明寺の嫁にならないかと聞いてるの。」

とんでもないことを言うババァに固まる俺ら。

「そろそろ司も結婚の話が出てもおかしくない歳でしょ。
マスコミもあなたたちの事を知りたがってるわ。
憶測だけの噂話が一人歩きしないように、正式に認めたらどうかしら。
それとも、まだ二人の気持ちは固まっていない?」

「…………。」
あまりの提案に言葉もでない。

「牧野さん、どうかしら。
司との結婚を考えて下さらない?」

「…………は……い。」

ババァの圧力に押されてなんとなく返事をする牧野。
その姿に我に帰る。

「ちょ、ちょっと待て。
ババァ、勝手に話を進めるなっ。」

「何です?嫌なのかしら?司は。」

「んな訳ねーだろっ。
俺は牧野と結婚したくてうずうずしてんだよっ。
でも、っつーか、なんでババァが言うんだよっ!
それって完全にプロポーズだよな?
俺もまだ言ってねぇのに、勝手にババァが言ってんじゃねーよ。
とにかく、牧野、今のは無効だ。
前回のも、今回のも全部忘れろ。
この前も言ったよな、おまえに似合う指輪を用意してからプロポーズする。
だから、もう少し待ってくれ。」

一生に一度のプロポーズを1回だけじゃなく、2回もやり直しする羽目になるとは思ってなかった。

頭をくしゃくしゃと掻き回す俺を見て、滋が
「前回も、今回も……って、どんだけフライングしてるのよ司のアホは。」
と、呆れ顔。

「では、私はこれで失礼するわ。
牧野さん、今日のご飯のお礼は今度させていただくわね。
私が日本にいる間に、邸の方に入らしてくださる?」

「……はい。」

にこやかな笑顔で牧野にそう言ったあと玄関に向かうババァ。
その途中、クルッと振り返り、

「司、人前でババァと呼ぶのはやめなさいっ!」
と鬼の形相で俺を睨み付けた。

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