美作さんのマンションで1人で待っていると、
1時間後に幸が西田さんに連れられてやってきた。
「おー、すげぇ部屋!」
テンション高めの我が子を見て、あたしも緊張がほぐれていく。
「お騒がせしてすみません。」
西田さんに頭を下げると、
「いいえ。」
と、言ったまま幸を見つめる西田さん。
そして、感慨深げに言った。
「幸様の事は楓社長からも司様からもお聞きしていましたが、本当によく司様に似てらっしゃいますね。」
「えっ、そうですか?」
「ええ。司様の若い頃にそっくりです。
それに、天真爛漫な性格は牧野さん譲りでしょうか。
若い頃の司様のような我儘で暴力的な部分は皆無ですので。」
さらっと道明寺を批判する西田さんに思わず吹き出すあたし。
すると、リビングにいた幸が
「ママーっ。」
と、大きな声であたしを呼んだ。
「なにぃー?」
「パパがテレビに映ってる。」
「えっ?」
幸がいるリビングに行くと、そこにある大型テレビに道明寺が映し出されていた。
取材陣に囲まれる道明寺。
さっき、あたしのマンションで記者たちに囲まれた時の映像だろう。
「私はこれで。」
そう言って頭を下げて部屋から出て行く西田さんを見送ったあと、幸が座るソファに並んで座り、あたしもテレビをじっと見つめた。
「先日、病院で一緒にいた男の子は誰ですか?」
記者の質問に、
「息子です。」
と、迷いなく応える道明寺。
「おいくつですか?」
「14歳です。」
「と言う事は、14年前に子供を認知していたと言う事でよろしいですか?」
「はい。
愛する女性との間に息子を授かりましたが、色々な事情で籍を入れる事が出来ませんでした。」
躊躇なく答える道明寺に、記者たちからどよめきが起こる。
「病院で一緒にいた女性は?」
「今言ったように、俺が愛してる女性で、息子の母親です。」
「世間には女性と息子さんの存在は隠してきたという事でしょうか?」
「いえ、隠した覚えは一切ありません。
現に、息子には月に一度は会っていましたし、釣りや山登り、ショッピングにも出かけていましたので。
それに…、」
「それに?」
「彼女についても、14年前から一貫して俺の気持ちは変わっていません。
これまでも仕事上、女性と会食したりパーティーに出る事もありましたが、聞かれれば必ずこう答えていました。好きな女性がいると。
出会った頃から俺はあいつしか眼中にないですし、今もずっとあいつだけを愛しています。」
堂々とそう話す道明寺に、隣に座る幸が、ヒューっと口笛を鳴らす。
「では、14年前から女性との関係は続いていて、女性と息子さんの事を援助してきたと言う事でしょうか?」
記者からのその質問に、今まで固い表情だった道明寺がクスッと笑い優しい顔になる。
すると、そのシャッターチャンスを逃すまいとカメラのフラッシュが次々とたかれる。
「援助という言葉は誤解があります。
大人しく援助されるような女じゃないので。」
「どういう事ですか?」
「あいつらが一生贅沢して暮らしていけるだけの金を用意してやると言っても、いらないと断るような女でして。
ジュース一本奢らせて貰えねぇ。」
苦い顔をする道明寺に、今度は記者たちから笑いが漏れる。
「好きだって言っても何度も逃げるし、ようやく手に入れて結婚しようって言ったら、今度は留学してこいって突き放す女で。
14年かけて、ようやく先日あいつから好きだって言葉を聞き出したばかりなので、頼むからそっとしておいて下さい。」
「天下の道明寺司が尻に敷かれていると?」
「ええ。俺にとって、あいつの言う事は絶対で、それだけあいつに惚れてるので。」
そう言って記者たちに頭を下げて挨拶すると、颯爽と立ち去る道明寺。
それが憎らしいほど絵になって、誰も引き止めようともしない。
画面が違う話題になった後も、黙ってテレビを見つめるあたしに幸が言う。
「旅行はどうだった?」
「…え?」
「パパとゆっくり話せた?」
「…うん。」
「で?」
「ん?」
「だから、パパに結婚しようって言われたんだろ?OK出したの?」
あたしを見つめる幸。
「まだ、返事はしてないの。」
「なんで?どうして?パパが嫌い?」
「そうじゃないっ。けど、……幸は?」
「俺?…俺がやだって言ったら断る?」
断るなんて出来ないほど、もうあたしの気持ちは大きくなり過ぎている。
けれど、それと同じくらい幸の気持ちは大事。
「ママも正直に話すから、幸も正直に話して。
パパと一緒に暮らせる?」
そう聞くあたしに、幸はいたずらっ子のような顔で言った。
「1.好き、2.凄い好き、3.もう離れたくないほどめちゃくちゃ好き
3択で決めようぜ。」
「はぁ?」
「いい?決めた?」
「えっ、ちょっと待って!」
「いくよっ、せーのっ!」
「3!」
「3!」
同時に答える幸とあたし。
そんなあたしの頭をガシガシ撫でて、
「決まり。もう迷う事ないだろ。」
と、得意げに言う息子が、道明寺にそっくりで、
「そういう所、どうにかしなさいよ、あんたたち。」
と、あたしは赤い顔で呟いていた。
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