俺の彼女 9

俺の彼女
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『家には、泊まってくるって言ってこいよ。』

道明寺に言われたその言葉の意味を噛み締めながら、昨日から何度も顔が赤くなるあたし。

パパとママにはほんとのことは言えるはずもなく、優紀に外泊の口裏あわせをお願いし家を出た。

一日中講義が詰まってたあたしは夕方まで大学で過ごし、ようやく終わって道明寺邸に向かおうとキャンパスを出たところでバッタリと香苗さんに会ってしまった。

「牧野さん。」
いつも通り愛らしい微笑みで笑う彼女。

「香苗さん……どうしたんですか?」
キャンパスの校門の前で立つ香苗さんにそう聞くと、

「これから友達とキャンプなの。
迎えに来てくれるのを待ってるのよ。」
と、言う。

道明寺も言っていた。
香苗さんが友達と一泊で遊びに行くって。

「牧野さんは?バイト?」

「あ……まぁ、そんなところです。」

咄嗟にうまく切り返せなくて嘘をついたあたし。

それじゃあ、とお互い手を振って別れた後、心の中のモヤモヤがまた暴れだす。
その時、頭上からポツポツと雨が降りだしあたしの顔に当たりはじめた。

そういえば、今日は夕方から雨が降るって言っていた。
傘は持ってこなかったけど、あったかいパーカーを着てきてよかった。
そう思いながらパーカーの帽子をかぶりバス停まで走り始めたあたしは、もう少しでバス停というところまで来たところで立ち止まった。

頭にはさっきの香苗さんの姿が浮かぶ。
今日の香苗さんはいつものように半袖とショートパンツだったはず。
しかも上は白のシャツ。
この雨に打たれたら…………。

そう思うと勝手に足が動いてて、今来た道をダッシュで戻るあたし。
キャンパスが見えてくると、そこに香苗さんが立っているのが見えた。

「香苗さんっ。」

「牧野さん?どうしたの?」

戻ってきたあたしに驚く香苗さん。

「これっ、着てください。」

案の定、雨に打たれて濡れた香苗さんの服から、中の下着が少し透けて見えている。

「えっ、」

「あたし、鞄の中にもう一着上着ありますから、香苗さんはこれ着てください。」

「そんな、悪いわ。」

「いいんです。
これ、安物ですし、全然濡れても大丈夫ですから。」

そう言って強引に香苗さんに上着を手渡すと、さっきと同じように、じゃあまた、と手を振って走り出したあたし。

さっき、香苗さんに嘘をついた。
今日は道明寺と過ごすのに、バイトだって言ってしまった。
その罪悪感が少しだけ消え去った。


さっき牧野からメールが来た。
「雨で服が濡れたので、家に戻って着替えてから行きます。」
と。

チッ……。
迎えに行ってやればよかった。

今日は二人で朝まで過ごすと分かっていても待ちきれない。
早く会いてぇ。

家まで迎えに行ってやるとメールを返すが、その後返事がなく、電話にも出ねぇ。
きっと電車にでも乗ったんだろう。

牧野が来るまでじっとしていられず、邸の書庫で一時間ほど過ごしたあと自室に戻ると、部屋の扉が空いていた。

牧野か?
そう思い足早に部屋に近づくと、俺の部屋の窓の前で外を覗き込むよにして向こう向きにたつ牧野の姿があった。

雨が振っていたからか、パーカーを頭からかぶっているこいつ。
耳が隠れているからなのか、雨音がうるさいからなのか、俺の足音にも気付かない牧野に、俺は後ろからそっと近付いた。

そして、いつものように牧野の背中を包み込むように後ろから抱きつき、
「遅かったな」
と、パーカーの上から耳元にキスをした。

パーカーから牧野の香りがして、全身が満たされていく。
俺は更に強く抱きしめて、
「迎えに行ってやったのに。」
と、呟いたとき、

……信じらんねぇことが起こった。

カタッ…………

俺の部屋の扉から音がしたのに気付いた俺は、扉の方を振り向くと、

今俺の腕の中にいるはずの牧野の姿がそこにある。
怯えたような、泣きそうな、そんな顔で俺を見つめる牧野の目。

一瞬、見つめあったあと、
「ごめん……。」
小さくそう呟いた牧野は、走ってその場から立ち去ったが、
何が起こったのか理解できない俺は、数秒間動けないままだった。

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