高級クラブ「Lily」の内定調査に入ってから一週間。店の経営者二人とクラブのママに逮捕状が出された。
それと同時に、未成年の女の子たちと繋がりがあったと推測される客への事情聴取と裏付け作業が連日続いていた。
その中の一人、道明寺司のアリバイを証明するため、秘書である西田から受け取ったデータは、隙がなかった。
会議の議事録、入退館のログ、社内ネットワークのアクセス履歴。
分単位で並んだ記録は、道明寺司という男がその時間、確かに本社にいたことを示している。
「……完璧ですね。」
部下の山本が呟く。
「ここまで管理されてたら、クラブで遊ぶ時間なんてないですよ」
「そうだな」
桂木警部補も頷く。
あとは、もう一つの時間帯。女の子の一人が道明寺司と「アフター」に行ったとされる時間、彼のアリバイはF3と書かれている。
その日の夜、彼は本社を出た後、F3と呼ばれる幼馴染と会っていたと秘書は言った。
「牧野、裏付けに行くぞ。」
「はい。」
あたしはその親友とされる二人の名前が書かれた手帳を鞄に押し込んで席をたった。
…………
あたしたちが最初に向かったのは、美作建設本社。道明寺司の親友とされる美作あきらに会うためだ。
副社長室に通されると、すぐに男が現れた。
「警察? 俺、何かやったかなぁ?」
軽い口調。けれど目は笑っていない。
「生活安全部・保安課の桂木です。」
「牧野です。」
いつものように挨拶すると、
「どうぞお座りください。」
と、美作あきらは柔らかく言った。
「ある事件を調べていまして、ご協力をお願いしたく伺いました。○月○日夜、道明寺司氏とご一緒だったと」
「ふふ、あいつとうとう何かやらかしましたか。」
その言い方がどこかで聞いた気がして考えていると思いつく。そうだ、この間道明寺邸に行ったときに、エプロン姿の老婆が司に同じような言い方でからかっていた。
「いえ、参考までにという事なので、」
「へぇ〜。」
わざとらしく大きく頷いた美作あきらは、ポケットから携帯を取り出して操作する。
「その日は、20時半頃から司と呑んでますね。」
「場所は?」
「行きつけのワインバーです。店の名刺、渡しておきましょうか?」
「それはありがたい。そこには。何時頃まで?」
「閉店近くまでいたかな。深夜1時前、そうだ類の運転手に送ってもらったから、聞いてもらえれば。」
「花沢類さんですね。」
「そう、よく調べてるね。」
指をパチンと鳴らしながらウインクする美作あきら。その姿は決してキザではなく様になっているから不思議だ。
「ところで、クラブ“Lily”はご存知ですか?」
ここからはあたしの出番。
あきらは少し考えたあと、
「昔からある銀座のクラブ?いや、俺は使わないな。どっちかというと、西麻布の方が俺は好きだから。刑事さん知ってます?西麻布の裏界隈にあるクラブって女性の年齢層が高いんですよ。平均で30歳超え。中には50歳以上の女性しか揃っていない店もあって、俺にとっては天国……」
要するに、美作あきらは熟女が好きなタイプと言うわけか。仕事がら、都内の店については、あたしもかなり把握しているつもりだ。西麻布を選ぶあたり、かなりそちら側に行っちゃってる。
「美作さん、すみません。話を戻しますが、道明寺さんに連れられてLilyに行った記憶もありませんか?」
「司に?それはないな。あいつ。そういうタイプじゃないから。」
「そういうタイプとは。」
「司って、女に興味ないんですよ。あっ、違います、変な意味じゃなくて。本気じゃないと動かないっつーのかな。変なとこ真面目で。」
「お店の女の子と個人的に会ったりとかは、」
「ないない。」
⸻
次に向かったのは、花沢物産本社。
花沢類は、窓際で静かに待っていた。
「あきらに聞きました。」
受付で警察手帳を見せただけでここに通されたので、もう話が伝わっていることは察しがついた。
「あきらが言った通りです。その日は三人でワインバーに。司は遅れずに来たし、途中で抜けてもいない」
あっさりとアリバイを話し始める花沢類。
「時間は?」
「1時前まで。うちの運転手に迎えに来て貰ったから、ドライブレコーダーも提出しますよ。」
「クラブ“Lily”の件ですが」
類は少しだけ目を伏せる。
「未成年が捕まったってやつ?」
「どうしてそれを?」
「この業界、噂話は早いから。取引先の副社長がその件で警察に事情を聞かれたらしい。」
茶色の目をクリクリさせて、そう静かに言う。
「では、単刀直入にお聞きします。道明寺氏がその件に関わっているとは?」
「ないね。」
この人も即答だ。
「本人が否定してるなら、絶対にない。司を知ってるやつなら、わかると思うよ。」
クスクス笑いながらそう答える花沢類はどこか楽しそうだった。
⸻
二人には別々に話を聞いた。
時間も、場所も、内容も一致。
その後、ワインバーの店主と花沢類の運転手とも裏が取れた。
疑う余地は、ない。
でも、実際に彼女たちの携帯には道明寺司の名前があったのは事実。
お金も地位も容姿も全て揃った男。
そんな男に言い寄られれば、彼女たちはホイホイとついて行ってしまうに違いない。
「本気じゃないと動かない男」と、
「彼女たちの携帯に残る履歴の男」
どちらが本当の道明寺司なのだろうか。
花沢物産からの帰り道、車の中でそんな疑問を頭に巡らせている時、1本の電話が入った。
「お疲れ様です、山本です。」
「おつかれ、何かあった?」
「それが、道明寺司の事なんですけど、」
「ん?」
「この間の事情聴取の際に撮ってきた彼の顔写真を彼女たちに見せたら、」
道明寺司のデータがほとんどなく、最新のものを警察に残しておくために、道明寺邸に行ったときあたしの携帯で1枚隠し撮りをしておいたのだ。
「見せたら?」
その続きを催促すると、山本は歯切れ悪そうに答えた。
「自分たちの会っていた道明寺司はこの人じゃないって……」
それを聞いてあたしと桂木警部補は顔を見合せた。
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