絡まる赤い糸 27

絡まる赤い糸

年が明けて俺は東京へ戻っていた。

年末に俺と親父の二人揃って東京にいなかったことにババァが少し怪しんでいる様子だったが、向こうからは何も言ってこない。まだつくしのことはバレていないようだ。

そして、ロスにいる間何度も希美から着信があった。希美は俺がつくしと会っていることを知っている。それをババァに告げ口しようと思えばすぐにできるはずなのにしないと言うことは、希美もまずは俺と話したいということだろう。

年始のどっさりと貯まった仕事を片付け、久しぶりに俺は希美の携帯に電話をした。

相変わらずの甲高い声。明日、仕事が終わったら会いたいと伝えると、希美が気に入っているレストランの名前を指定してきた。

ウキウキしたその声に反吐が出るが、ここからが俺の反撃だ。希美の裏の顔を暴いてやるときが来たのだ。

冷静に、かつ着実に仕留める。

………………

待ち合わせ場所のレストランに入ると、一番奥の個室にまだ10分前なのに希美の姿があった。今日は鮮やかな赤いセーターに黒のタイトスカート。優雅にグラスを傾ける姿は周りの目を釘付けにする威力だけはある。

本人も他人にどう見られているかは百も承知だ。だから、こういう上流階級のみが立ち入れるレストランを選び、時間よりも早く来てわざとに自分の美貌を見せつける。

あきらや総二郎が言うように、希美は本当にきれいな女性だ。そこに知性が備わっていれば、文句無しなのだろうけれど、彼女と30分も一緒にいれば分かる。

愛嬌だけが取り柄の、薄っぺらな女だと言うことを。

今日も俺を見た瞬間、愛嬌たっぷりに手を振ってきた。

「お久しぶり。元気でした?」

「ああ。年末の石橋家のパーティーでは先に帰って申し訳なかった。」

「いいのよ。こちらこそ、うちのスタッフが粗相をして申し訳ありません。」

「俺のスーツに飲み物をこぼしたスタッフをまさかクビにしたりしてないよな?」

「あはは…そんなまさか。」

西田から報告は入っている。あの時のスタッフは即日解雇になったと。でも、あれは俺が仕向けた事で、あのスタッフになんの落ち度もない。だから、クビになったスタッフは道明寺家で雇うことにした。

「父も母も司さんには申し訳なく思っているので、今度またうちに来て一緒に食事でもどうかしら?」

希美が甘えたようにそう言った時、ちょうど料理が俺達の前に運ばれてきた。あらかじめ用意されたコース料理だろうけれど、それを優雅に食べる気分ではない。

スタッフが去ったあと、俺は早速本題に入った。

「そういえば、坂東は元気そうだな。」

「えっ?」

「うちにいた執事の坂東。まさか石橋家で世話になってるとは思わなかった。誰の口利きだ?」

「誰のって、別に、」

「おまえか?」

「………」

何も言わない希美に、もう一度、

「坂東と繋がってるのはおまえか?」

と、分かるように聞く。

すると、少し間があいたあと、希美はいつもより低く落ち着いた声で言った。

「そうよ。道明寺家を解雇になった坂東さんを石橋家に招いたのは私。」

「坂東とはどんな関係だ?」

「なに、司さん。そんな怖い顔して。坂東さんとはパーティーで何度か顔を合わせたことがあっただけよ。たまたまうちの執事が一人欠けたから、坂東さんに来てもらっただけ。」

「パーティーで何度か顔を合わせたことがあるだけの男に、5000万も振り込む理由は?」

その言葉に、希美の顔がみるみると強張る。

親父が話していた通り、坂東が道明寺家を辞める2年前、ちょうど俺達が離婚した直後に、坂東の預金口座に希美から入金があったことはこの目で確かめた。

「一介の執事にこの金額は多すぎだろ。それとも何か?そこまで大事な仕事をやらせた見返りか?」

「なんの事?坂東がそう言ったの?私には身に覚えがないわ。」

「じょあ、別の話をしようか。堀田圭介という人物に心当たりは?」

その名前を聞いた瞬間、明らかに動揺したのがわかった。

「知らないわ。そんな人。」

「おかしいな。道明寺家のドライバーをしていたその男から、おまえと二人で撮った写真も預かってるぜ?」

学生時代、希美と遊び歩いていたときに撮ったという写真も入手した。

もう逃げ道はない。ようやくそのことに気付いたのか、希美はナプキンで口元を拭いたあと、まっすぐ俺を見て言った。

「何かをコソコソと調べているようだけど、すべて終わったことじゃないかしら。」

「あ?」

「確かに私は、坂東と堀田にお金を払って仕事を依頼したわ。でも、奥さんを殺せなんていうような過激なものではないでしょ?ただ、あなた達二人の仲にほんの少し亀裂を入れただけ。」

「認めるんだな。」

「ええ。だって、私は生まれたときから、欲しい物は何でも手に入れてきたもの。それがどんなに高価でも、手に入るなら手段は選ばないわ。」

「欲しい物?……道明寺の名か?」

「ううん。私がほしいのはあなた。司さんよ。17歳のとき、初めてパーティーであなたを見かけて以来、私はずっと夢見てたの。いつかあなたと結婚して子供を産んで、幸せな家庭を築くって。」

「胸くそわりぃんだよ。」

「でも、よく考えてごらんなさいよ。道明寺家にとって、私が一番ふさわしい相手なのは間違いないはずよ。」

道明寺財閥は単独でも十分にやっていける。でも、石橋家と婚姻関係で結ばれれば、国内では敵なし、海外でもかなり上位に上り詰める。

そういう意味で言えば、希美の言うとおり間違いない。

「あなたが私を好きじゃないのは分かってる。でも、私たちは大財閥の後継者よ。石橋の方も私が一人娘だし、道明寺家だってあなたしか跡取りはいないの。綺麗事だけの世界じゃないのよ。それに私、司さんのお母様と約束しちゃったの。」

「約束?」

「ええ。跡取りになる可愛い男の子を産むって。そしたら、その子は将来石橋家と道明寺家のどちらの財産も受け継ぐ王子様になるのよ。」

それを聞いて思わず笑みがこぼれてしまう。

すると、希美が嬉しそうに目を輝かせた。

「ね?いい考えでしょ?」

「ああ。面白すぎて笑えてくるよ。後継者の心配までしてくれて有り難いが、それはもう必要ない。俺にはすでに可愛い王子様がいるんでね。」

「……え?」

「つくしとの間に子供がいる。」

「っ!!……そんなの聞いてない。」

呟くようにそう言う希美。

「俺もついこの間、知ったばかりだ。」

「なんて女なのっ。」

「だろ?しょーもない女だよあいつは。金にも肩書きにも興味がない。俺の財産なんて鼻で笑ってやがる。

それに、自分に子どもがいることだって、俺に隠してて、子どもを利用しようなんてこれっぽっちも思ってねぇ。

おまえみたいに得になることしか選ばない女とは、正反対だよ。」

そう言い捨ててやると、はじめて俺に敵意を帯びた視線を向ける。

その敵意がつくしに向かわないよう、俺はさらに追い打ちをかけた。

「おまえが5000万という金を用意できたのには理由があるよな?それが公に出れば、石橋家は完全に終わるぞ。」

「………」

「俺をこれ以上、怒らせるな。」

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